左右の眼は光をうけるセンサーであり、脳は色を知覚するプロセッサーです。『Newton』2015年 12 月号では、シリーズ「感覚のふしぎ 第2回」として- 「色覚のしくみ」を掲載しています。

わたしたちの眼に外界からとどいた光は、眼球のレンズ(角膜と水晶体)を屈折しながら透過し、眼球の内部にはりついている「網膜」に到達します。
網膜には、「錐体細胞」(すいたいさいぼう)とよばれる細胞があり、これが色覚のセンサーになっています。錐体細胞は網膜に約600万個あります。
錐体細胞は光を吸収する「視物質」をもち、この視物質に光が吸収されると電気信号が生じます。視物質は、光を吸収する低分子である「レチナール」と細胞内に信号をつたえる機能をもつたんぱく質分子である「オプシン」からできています。
分子構造のちがいにより3種類のオプシンがあり、錐体細胞は次の3種類に分類されます。それぞれに吸収しやすい次のような光の波長があります。
- L錐体細胞:565ナノメートル前後
- M錐体細胞:540ナノメートル前後
- S錐体細胞:430ナノメートル前後
光にはさまざまな波長があり、わたしたちの眼がとらえられる光は約400ナノメートルから約800ナノメートルの範囲です。1ナノとは100万分の1ミリのことです。
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錐体細胞で生じた電気信号は、基本的には「双極細胞」にまずつたわり、さらに「神経節細胞」へつたわり、神経節細胞が電気信号を脳へおくりだします。
左眼の網膜の鼻側半分からの信号は右脳側へ、右眼の網膜の鼻側半分からの信号は左脳側へ、左眼の耳側半分からの信号は左脳へ、右眼の耳側半分からの信号は右脳へそれぞれおくられます。鼻側半分の信号はクロスして脳内の中継地点である「外側膝状体」(がいそくしつじょうたい)におくられます。この構造を「視交叉」といいます。
そして外側膝状体は一次視覚野へ信号をおくります。一次視覚野から二次視覚野など、ヒトでは少なくとも16種の領域に信号がつたわります。そのうちの四次視覚野やそれより先の領域が色覚の中枢だとかんがえられています。
こうして脳は、電気信号を処理してカラフルな色を知覚します。
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以上から、わたしたちの眼はセンサー、脳はプロセッサーであることがわかりました。センサーとプロセッサーの連携によりわたしたちは色を知覚していたのです(下図)。

図 左右の眼が光をうけ、脳が色を知覚する
注意点は、光そのものには波長があるだけで色そのものはついていなということです。光の波長が電気信号に変換されて脳におくられて、脳が色をつくりだしているのです。実体は波長(波動)であり、プロセシングにより波長のちがいを色で区別して知覚しているということです。
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なおメダカ(魚類)・カエル(両生類)・カメ(爬虫類)・カラス(鳥類)などは、ヒトが知覚できない紫外線を知覚することができます。紫外線とは、紫色に感じられる400ナノメートルよりもさらにみじかい波長の光です。
このことから、外界に存在する光はおなじでも色覚のシステムがことなると見える世界はことなってくるということがわかります。この点に気がつくことも重要なことだとおもいます。わたしたちもほかの動物たちも独自のプロセシングの結果として世界を認知しているということです。
▼ 引用文献
「色覚のしくみ」Newton, 2015年12月号, ニュートンプレス, 2015年12月7日発行
Newton(ニュートン) 2015年 12 月号 [雑誌]▼ 関連記事
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