耳はセンサー、脳はプロセッサーととらえると聴覚のしくみがよく理解できます。
『Newton』2016年 2 月号では、シリーズ「感覚のふしぎ 第4回」として「聴覚と平衡感覚のしくみ」を掲載しています。聴覚についてまずみていきましょう。

音とは音波であり空気の振動です。空気振動は「外耳」であつめられ「鼓膜」を振動させます。その振動は、「中耳」の「ツチ骨」「キヌタ骨」「アブミ骨」につぎつぎにつたわり、さらに「内耳」へとつたわります。
内耳では、「骨迷路」の「外リンパ」から「蝸牛」のらせん状の通路を頂部へむかってつたわり、その後、頂部から底部へむかってつたわります。
蝸牛にある「蝸牛菅」の基底板の上には「コルチ器」とよばれる装置があり、蝸牛菅の基底板が上下に振動すると、コルチ器が上下に振動し、「感覚毛」がかたむきます。すると感覚毛の先端付近にある「チャネル」(イオンを通す穴)がひらいて、内リンパのカリウムイオンが「有毛細胞」の中に流入します。このカリウムイオンの流入が電気的な信号となります。
この電気信号は大脳皮質の「聴覚野」につたわって聴覚がひきおこされます。電気信号が脳で処理されて音が認知されるのです。
ヒトが、音のする方向や音源からの距離を推測できるのは脳が “計算” をしているからです。音源からの距離が左右の耳で若干ことなるので、音がとどく時間や音の大きさは左右の耳でことなります。脳は、この音の時間差や大きさの差をもとに音のする方向と音源からの距離を計算しているのです。
以上から、左右の耳は空気振動をうけるセンサー、脳は電気信号を処理して音を認知するプロセッサーととらえると聴覚のしくみがよくわかります。インプットとプロセシングという2つの場面から聴覚系がなりたっているわけです(下図)(注)。

図 空気振動をうけ、音を認知する
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上記のように、わたしたちの聴覚系は視覚系と同様に三次元的なひろがりを認知できます。音の奥行きがわかるのです。
たとえばオーディオ装置をつかって音楽をきくときに、スピーカーを左右2台にすることによって三次元の音響空間を再現することができます。2台のスピーカーからはそれぞれ別の音が出ているのですが、わたしたちが音楽をきくときには、2つの音は合成(融合)されて一つの音響空間となります。こうしてコンサートホールできくような交響曲も再現できるのです。
このことはステレオ写真をつかって立体視をすることとよく似ています。立体視をすると、2枚の写真が合成(融合)されて一つの3D画像になります。たとえば植物園で実際に見た花が、ステレオ写真を立体視することで植物園で見たように3D画像で再現できます。
聴覚系も視覚系もセンサー(耳と目)がそれぞれ2つずつあるというところがポイントです。2つあるために距離や奥行きが認知できるのです。
したがってわたしたちに本来そなわったこのような情報処理システムを十分にいかして、見たり聞いたり取材したりするときには3D(立体空間)をたえず意識することが大切であるといえるでしょう。わたしたち人間は三次元空間の存在です。
あるいはオーディオや音響システムの開発をするときには、このような聴覚系の仕組み、つまり音の情報処理の仕組みが理解できていた方が商品開発が適切にすすむとかんがえられます。
▼ 注
物理的にみると、空気振動が耳で電気信号に変換され、電気信号は脳で音に変換されるということです。つまり音は脳がつくりだしています。わたしたちは耳で聞いているとおもっていましたが、音は「脳で聞いている」とかんがえた方がよいでしょう。わたしたちの周囲の空間には実体としては空気振動があり、それを音として認知しているということです。
▼ 引用文献
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