本書は、「移動大学」という特殊な挑戦を通して、フィールドワークやチームワーク、さらに文明の改善についてのべています。

「移動大学」とは、テントでのキャンプ生活をしながら、フィールドワークと「KJ法」にとりくむ2週間のセッションです。わたしは2回参加しました。

「移動大学」の特色は、そのユニークなキャンパス編成にあります。

まず、6人があつまって1チームをつくります。つぎに、チームが6つあつまって1ユニットをつくります。1ユニットは36人になります。そして、ユニットが3つあつまって全キャンパスになり、その定員は108人になります。

このようにして、個人レベル小集団レベルシステムレベルという3つのレベルがキャンパス編成のなかにおりこまれています。

「移動大学」はどのような経緯ではじまったのでしょうか。要点はつぎのとおりです。

1968~69年、大学紛争が全国的に荒れ狂った。この問題にとりくんだ結果、これは大学問題というよりももっと根のふかい文明の体質の問題であることがわかり、それを根本的に解決しなければならないということになる。その問題とは、環境公害・精神公害・組織公害の3公害である。

文明の体質改善という問題に最も役立つような事業は何かという問いから「移動大学」という構想がうまれた。「移動大学」は、文明への根本的反省からスタートしたのである。そのキャッチフレーズは「参画社会を創れ」である。

2週間のセッションでは、フィールドワークと「KJ法」にとりくみます。「KJ法」とは、移動大学創始者の川喜田二郎が考案した総合的な問題解決手法です。

問題の現場に実際に行ってみることは重要なことである。フィールドワークは「探検の5原則」に基づいておこなう。

1)テーマをめぐって360度の角度から取材せよ
2)飛び石伝いに取材せよ
3)ハプニングを逸するな
4)なんだか気にかかることを
5)定性的に取材せよ

「探検の5原則」に基づき、「点メモ」→「花火日報」→「データカード」→「データバンク」といった技術をつかって、フィールドワークからデータの共同利用、チームワークを実践し、あつまったデータは「KJ法」でくみたて、問題解決に取り組む。

「移動大学」の実践から、川喜田はつぎのことを協調しています。

「移動大学」は、問題解決にとりくむひとつの広場であり、この広場の中で、いきいきとした人間らしさ、春暖のもえる姿をまのあたりにした。

現代社会では、「個人レベル」と「システムレベル」はあるのだが、生身の個性的な人間がヤリトリする「小集団レベル」が消滅している。今日、「小集団レベル」が生かされる広場が求められている。「移動大学」のように、ハードウェア・ソフトウェア・研修が三位一体的に活用されたとき、広場は立派に広場の用をなす。

こうして、仕組みさえきちんとつくれば、ひとつの「小集団」が一体になって問題を解決し、創造性を生みだすことは可能であるとかんがえているわけです。「小集団」がつくりだず場が「ひろば」です。

ここでは、その「ひろば」自体が、ひとつの場として、まるでひとつの生命であるかのように活動し、創造性を発揮し、創造をしていくのです。これは、創造という目的のために、創造のためのひろばをまずはつくってみようということではありません。その場それ自体に創造性が生じるのです。

本書の書名が「創造のひろば」ではなく、「ひろばの創造」となっている点に注目しなければなりません。


文献:川喜田二郎著『ひろばの創造 -移動大学の実験-』(中公新書)中央公論社、1977年5月25日
 

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