情報をアウトプットするときに類似なことにたとえると自分のメッセージを相手につたえやすくなります。
中村明著『分類 たとえことば表現辞典』(東京堂出版)は「たとえことば」をつかって表現するための辞典です。あるものを他の何かに見立てる比喩的な発想の感じられる語句を中心にして「たとえことば」をひろく解説しています。
たとえば「足下に火がつく」「金の生る木」「首をすげ替える」「軍配が上がる」「敷居が高い」「そっぽを向く」「とどのつまり」「腑に落ちない」のような言葉について説明しています。
各用語は、大分類・中分類・小分類というように整理して配列してあります。
大分類はつぎのとおりです。
- 自然
- 人間
- 社会・生活
- 文化・学芸・宗教
- 抽象
たとえば大分類のなかの「自然」はつぎのように中分類されています。
- 気象・天文
- 災害
- 地勢
- 岩石・鉱物・土・砂
- ちり・ほこり
- 煙・灰
- 物象
- 生物・生態
- 動物
- 植物
たとえば中分類の中の「地勢」はつぎのように小分類されています。
- 陸地・地面
- 海・波
- 河川
- 山野・谷
- 池・沼・泉
- 島
- 景色
- 地図
本辞典は、言葉の形と意味とのつながりをたどって腑に落ちる理解へとすっきりとみちびいてくれます。読み物としても面白いです。
とどのつまり〔ボラの成長過程の最後の名が「とど」であるところから〕結局のところ。最後に。「とどのつまり交渉は決裂した」そっぽを向く〔正面を向かず横を向くことから〕まともに相手にならない態度をとる。「勧誘にそっぽを向く」腑に落ちない〔「腑」は内蔵、はらわた、「落ちる」は行き着くの意から〕納得できない。「腑に落ちない箇所がある」
情報処理をする存在として人をとらえた場合、情報処理の最終場面はアウトプットです。このアウトプットのもっとも基本的な手段は言葉であり、わたしたちは言葉をつかって書いたり話したりして自分のメッセージを他人につたえています。そのときに「たとえ」がとても役にたちます。そもそも人は、たとえることによってメッセージをつたえているのです(図)。

図 たとえることによってメッセージをつたえる
何かの記載をしたら、そのあとに「たとえば」とつづけて類似する事例なり現象なりをあわせてのべると、わかったという気持ちが相手に生じます。こうして人間は、既存の情報に類似な情報をむすびつけながら知識をふやしていきます。
プロセシングの結果をアウトプットしてメッセージを相手につたえるときに たとえるということをもっと意識すべきです。そのために本書がとても参考になります。
*
なお本書は、著者の前著『たとえことば辞典』で採用された五十音順の配列をあらため、イメージの系統にそって配列しなおし「たとえことば」の世界を一望できるようにしてあります。「たとえことば」の空間的なひろがりを見ることができ、わたしたちが生きている世界を「たとえことば」を通して全体的・体系的にとらえなおすことができます。
このように本辞典は類語辞典のようでもあり、辞典の空間的なひろがりのなかで言葉をとらえると、それぞれの言葉が連動して有機的な世界がつくりだされていることを知ることもできます(注)。
ただし検索の便をかんがえて五十音順の索引も最後についています。
▼ 注
『分類 たとえことば表現辞典』をつかうと、ウェブサイトでキーワード検索をするといった方法とはちがう情報検索のやり方があることに気がつくこともできます。
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