「一番多くのアサギマダラに出会った人」による、海をわたる謎の蝶アサギマダラの研究書です。アサギマダラは、春と秋に、1000kmから2000kmもの旅をするそうです。

著者は、アサギマダラの羽に標識を書いて飛ばし、遠隔地で再捕獲する「マーキング」とよばれる方法で地道にしらべていきます。最遠例としては、「福島県から台湾までの約2200kmの距離を移動して生き延びている」ことを確認しました。

小さな蝶が台湾までしかも比較的短期間で移動するということは常識ではかんがえられず、大変なおどろきであり興味がつきません。

本書をよんでわたしは2つの点で感動しました。

ひとつは、マーキングとよばれる方法で10年間にわたり地道にデータを蓄積し、アサギマダラの移動の全容をあきらかにしたことです。著者は、「その旅は偶然に動く『物』の移動とは異なり、心を持った雲が動き、日本列島を群雲のように動くのです」とのべ、アサギマダラを「心をもった生命体」としてとらえています。

アサギマダラは「より広い範囲をとらえて『大局判断』をしながら移動している」と推測し、「大域をつかさどる仕組みがあるはずだ」と説明しています。

もうひとつは、著者は、分析ではなく確率をつかって移動の謎の解明にアプローチしていますが、その先にある「確率を超えようとする性質」について言及していることです。

「分析的な研究では事実の断片しかわからず、蝶の移動すら予測できない」ので、「より包括的、総合的なアプローチとして、アサギマダラを小集団や大集団とみなして確率的に把握する方向で考えている」のだそうです。

分析的方法(あるいは実験的方法)は科学者がごく普通にもちいている方法であり、また確率は、数学者・統計学者などもとりくんでいて、分析と確率までは既存の学問の範囲で理解できるとおもいます。

しかし最後に、「確率を越えようとする性質」について言及し、確率のさらに先の世界があることを示唆しているのです。そして、「心をもった生命体」としてアサギマダラをとらえた著者は「心の世界にも法則があるのではないか」とのべています。

本書は、謎を探究することのおもしろさをおしえてくれるとともに、生命の本質について重大な問いかけををわたしたちにしていると感じました。


文献:栗田昌裕著『謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』PHPエディターズ・グループ、2013年9月20日発行
 

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