雑談のなかにあらわれる本音を聞きとることはフィールドワーク(取材活動)のときのひとつのポイントです。

わたしは今から約20年前に、ある水力発電所の建設工事にともなう地質調査の仕事をしたことがありました。発注者はある大手電力会社でした。

あるとき電力会社関連の技術者が現場の視察におとずれました。ひととおり視察がおわって設計会社・調査会社・建設会社の技術者たちが立ち話をしていました。

雑談をしているうちに原子力発電所の話にいつかなりました。そのときの視察・仕事には関係のない単なる世間話でした。

電力会社の技術者「原子力発電所は絶対に安全ですから心配しないでください」
設計会社の技術者「だったら東京湾沿岸に原発をつくったっていいじゃないですか」
電力会社の技術者「そんなことできるわけないじゃないですか。何かあったらどうするんですか」
設計会社の技術者「そりゃそうだよね」

会話の要点はこんなことでした。これは現場での立ち話によるただの雑談、気楽な会話であり公式見解や発表ではありません。あくまでも時間があったので気楽に立ち話をしただけでしたが、「何かあるかもしれない」というのがその技術者の本心でした。

そして約20年たって「原発事故」となってしまいました。

「想定外」だったということにはなっていますが「何かあるかもしれない」「何かあったら」とおもっていた技術者もいたのです。

このように雑談のなかで本音があらわれてしまうことはよくあることです。アンケート調査や型にはまった聞き取り調査をしているだけでは本当のことはわからないものです。フィールドワークのときの注意点です。