『NHKサイエンスZERO 東日本大震災を解き明かす』(NHK出版)は、東日本大震災をひきおこした地震と津波についてメカニズムを科学的に解明しています。今後の防災・減災のために役立てることができます。
図が非常によくできていてわかりやすいです。おいそぎの方は図を見るだけでもよいでしょう。
目 次第1章 地震はなぜ起こるのか第2章 津波はなぜ起こるのか第3章 東北地方太平洋沖地震の謎第4章 謎を解く手がかり第5章 南海トラフへの視点
3.11の東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0、死者・行方不明者はあわせて2万3000人あまり、損壊した家屋は50万戸以上(全壊〜一部損壊)という未曾有の被害をもたらしました。
この大地震はプレートの運動によってひきおこされました。プレートとは、海嶺で上昇してきたマグマが冷却されて岩状にかたまってできた「地球の皮」のようなものです。プレートには陸のプレートと海のプレートがあり、陸のプレートの下に海のプレートが海溝でしずみこんでいることが知られています。
3.11の東北地方太平洋沖地震では陸のプレートが海面の方向に大きく一気にはねあがりました。そのとき、その上の海水がもちあげられることにより津波が発生しました。
3.11の東北地方太平洋沖地震では陸のプレートが海面の方向に大きく一気にはねあがりました。そのとき、その上の海水がもちあげられることにより津波が発生しました。
この津波について気象庁は高さを最初はかなり低く発表してしまいました。これが被害を大きくする一因にもなったのです。
気象庁の津波警報は、データベースに保存されている約10万通りの過去の地震と津波のなかから「最も似たもの」を瞬時にえらびだして、それを津波予測として発表する仕組みです。しかしいくら「最も似たもの」であっても、現実に今おきた地震・津波とはことなっていたためにズレが生じてしまいました。つまり過去に依存しているだけとまちがうということです。
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そもそも地震学者は、マグニチュード9.0の巨大地震が東北沖でおこるとは誰も予測していませんでした。「過去はこうだったから、次もこうなるだろう」という概念を地震にあてはめていたのが失敗の原因でした。
3.11により、過去のデータから未来を予測することには限界があることがあきらかになりました。過去のデータに依存しているとまちがうわけです。
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今後は、南海トラフについても大地震がおこると懸念されています。「想定東海地震」とよばれ、これについても、予知ができるという地震学者がいる一方で予知は無理という学者もいて、要するに、過去に依存していて当てにならないということです。未来は過去の単なる延長ではありません。
たとえてみるならば、ペーパーテストのための勉強をする受験生が過去に出題された問題をすべてしらべて、その傾向をつかんで暗記しておいて、それらのなかから解答を出せばいいとおもっているようなことです。過去の枠組みのなかだけで準備をする。過去に依存してしまってあたらしい問題は想定していないし、そんなものが出てきても手におえないというわけです。地震学者たちはいわばペーパーテストの「優等生」だったのです。
時空の座標系において未来の1点を数学的に決定できない以上、予知はできないということを認識できるときがやってきました。確率はいえても予知はできません。そろそろおこりそうだとはいえますが、それは明日なのか1年後なのか30年後なのかわかりません。
したがって地震がきても倒壊しないように自宅を補強する、火災を出さないようにする、海沿いの人は高台に避難するといった基本的なことの方が重要です。
▼ 参考文献
サイエンスZERO取材班+古村孝志・伊藤喜宏・辻健 編著
『NHKサイエンスZERO 東日本大震災を解き明かす』NHK出版、2011年6月25日
NHKサイエンスZERO 東日本大震災を解き明かす (NHKサイエンスZERO)
NHKサイエンスZERO 東日本大震災を解き明かす (NHKサイエンスZERO)