ニール=マクレガー著『100のモノが語る世界の歴史』は「大英博物館展 ― 100のモノが語る世界の歴史」(注1)の関連解説書です。その第3巻は「近代への道」をテーマにしています。

ついに帝国は、膨張をつづけて外洋にのりだしました。文明の衝突と悲劇が世界各地でくりかえされるようになりました。奴隷貿易や世界の再分割がのこした傷跡はさまざまなモノが今も鮮明にしめしています。

そして産業革命をへて、世界は、グローバルな物と人の移動を基盤とした近代への道をあゆみはじめました。わたしたち人類がたどりついた近代とは何なのか。大英博物館とBBCによる世界史プロジェクトが完結します。

目 次
第14部 神々に出会う(1200~1500年)
 ホーリー・ソーン聖遺物箱
 「正教勝利」のイコン
 シヴァとパールヴァティー彫像
 ワステカの女神像
 イースター島のホア・ハカナナイア像

第15部 近代世界の黎明(1375~1550年)
 スレイマン大帝のトゥグラ
 明の紙幣
 インカ黄金のリャマ像
 ヒスイの龍の杯
 デューラーの「犀」

第16部 最初の世界経済(1450~1650年)
 ガレオン船からくり模型
 ベニン・プラーク - オバとヨーロッパ商人
 双頭の蛇
 柿右衛門の象
 ピース・オブ・エイト

第17部 寛容と不寛容(1550~1700年)
 シーア派の儀仗
 ムガルの王子の細密画
 ビーマの影絵人形
 メキシコの古地図
 宗教改革100周年記念パンフレット

第18部 探検、開拓、啓蒙(1680~1820年)
 アカンの太鼓
 ハワイの羽根の兜
 北米の鹿革製地図
 オーストラリアの樹皮製の楯
 ヒスイの壺

第19部 大量生産と大衆運動(1780~1914年)
 ビーグル号のクロノメーター
 初期ヴィクトリア朝ティーセット
 北斎「神奈川沖浪裏」
 スーダンの木鼓
 女性参政権を求めるペニー硬貨
 
第20部 現代がつくりだす物の世界(1914~2010年)
 ロシア革命の絵皿
 ホックニーの「退屈な村で」
 武器でつくられた王座
 クレジットカード
 ソーラーランプと充電器


第14部では、宗教が発達したことにより生みだされた、人間と神々との対話につかわれたさまざまなモノをみます。

第15部では、近代化がはじまる前の最後の時代の帝国成熟期のモノをみます。

第16部は、ヨーロッパ人が、とおくはなれた場所にのりだした時代についてのべています。海軍技術の発達によって海の帝国が実現し、最初のグローバル経済がもたらされました。

第17部では、宗教の改革と対立あるいは寛容がしめされ、あらたな宗教が従来の儀式とのおりあいをつけようと模索したことがわかります。

第18部は、ヨーロッパが帝国主義的な拡大をとげた時代であり、奴隷貿易が最盛期をむかえました。一方で、科学と哲学がさかんになった時代でもありました。

第19部では、産業革命がおこり、農業社会から工業社会へと大変貌をとげます。技術革新は物の大量生産へとつながり、国際貿易が発達しました。一方で、多くの国々で大衆運動がおこり、普通選挙権など政治・社会の改革をうったえるようになりました。

最後の第20部は、前例のない紛争と変化の時代です。技術革新によって、歴史上のどの時代よりも多くの物が生産されるようになり、物質社会がもたらされました。同時に資源問題や環境問題が生じてきました。


このように第3巻では、帝国の発達と巨大化、産業革命をへて近代化がはじまる様子をみることができます。帝国は、都市国家にくらべて非常に強大なものでしたが、現代の近代化でおこっていることはそれをはるかにうわまる規模の巨大化です。

このようなわたしたちの歴史は文明が発生し発達し巨大化していく過程でもありました。その将来の到達点はグローバル文明であることはあきらかでしょう。近代化とは結局はグローバル化であり、大局的にみて現代はそれが進行しつつある段階ととらえることができます。わたしたち人類は、今後、健全なグローバル文明を生みだすことができるのでしょうか。


▼ 引用文献
ニール=マクレガー著(東郷えりか訳)『100のモノが語る世界の歴史 3 近代への道』筑摩選書、2012年6月15日
100のモノが語る世界の歴史〈3〉近代への道 (筑摩選書)
※ この解説書は、別途発売されている図録(注2)とは別の本ですので混同しないように注意してください。

▼ 注1
「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」特設サイト
九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)

▼ 注2
図録『大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史』筑摩書房、2015年3月25日
大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史 (単行本) 
図録は展覧会場でも買えますが一般書店でも販売しています。「100のモノが語る世界の歴史」をより簡潔に知るためにはこちらの図録をおすすめします。あるいは、この図録をまず見てから全3巻の解説書をよむとわかりやすいです。

▼ 関連記事
数字イメージにむすびつけて100のモノをおぼえる - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(1)-
作品の解説を音声できいて物語を想像する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(2)-
人類史を概観する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(3)-
建物の階層構造との類比により世界史をとらえなおす - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(4)-
文明のはじまりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第1巻〉文明の誕生』/ 大英博物館展(5)-
前近代文明の発達をみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第2巻〉帝国の興亡』/ 大英博物館展(6)-
近代化への道のりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第3巻〉近代への道』/ 大英博物館展(7)-
モノを通して世界史をとらえる - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(8)-
世界史を概観 → 特定の時期に注目 → 考察  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(9)-
文明と高等宗教について知る  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(10)-