『インド古寺案内』は、インドの古寺を宗教別に分類してやさしく解説したガイドブックであり写真集です。たくさんの建築物を通してインドの多様性をみることができます。
インドには、仏教・ヒンドゥ教・ジャイナ教・イスラム教・シク教・キリスト教・ユダヤ教・ゾロアスター教・トダ族の宗教など信じられないほど多くの宗教が今なお併存しています。インドはまさに多様性の国です。
多様性がわかると観察力がつよまります。また連想や発想の幅がひろがります。インドは多様性をまなぶために大変よいフィールドになっています。ひとつの地域・空間のなかで多様性を理解することはとても重要なことです。
目 次はじめに水辺の重要性インド宗教建築地図インダス文明の遺跡
第一章 仏教チャイティヤとしてのストゥーパガンダーラの遺跡 ほか
第二章 ヒンドゥ教初期の石造建築石彫寺院 ほか
第三章 ジャイナ教石窟寺院と石彫寺院南インドの空衣派 ほか
第四章 イスラム教デリーのスルタン朝西インドのモスク ほか
第五章 その他の宗教アージーヴィカ教の石窟寺院トダ族の宗教シク教の寺院キリスト教の聖堂ユダヤ教
第一章では古代の仏教寺院を紹介しています。
第二章ではヒンドゥ教の寺院をとりあげています。ヒンドゥ教は、現在のインド国民の80パーセント以上が信仰する宗教です。北方型と南方型の二つのことなる様式があります。
第三章はジャイナ教です。ジャイナ教は仏教の兄弟宗教とよべる宗教であり、現代まで2500年の歴史をほこり、すばらしい建築遺産をかかえています。インド建築の最高傑作はジャイナ教の寺院です。
第四章はイスラム教です。イスラム教は13世紀に西方からやってきました。ヒンドゥ教の寺院が神々の像であふれているのとは対照的に、礼拝堂にはまったく偶像がありません。
第五章はその他の宗教寺院です。これらは日本では存在すらほとんど知られていません。ラーマクリシュナ・ミッションのベルール・マタ本堂は、ヒンドゥ教の伝統に、仏教・イスラム教・キリスト教の伝統をも総合した建築物であり興味ぶかいです。多様性の統合の一例がここでみられます。
このようにインドは多くの宗教寺院が混在し多様性の宝庫になっています。ヨーロッパ世界などとは大きくことなります。
この多様性の全体像を把握するのは非常にむずかしいですが、本書は、インドにのこる寺院建築を宗教別に分類、各章の記述は、ふるい時代からあたらしい時代へと歴史的変遷をたどれるように構成してあるのでわかりやすいです。冒頭の「インド宗教建築地図」も有用です。時代的・地域的特色をみながらインド建築の全体的な見取り図をえることができます。
インドを旅行したことがある人にとってはあらためてインドをとらえなおすことができますし、これからインドを旅行する人にとっては非常にすぐれたガイドブックとしてつかえます。1冊もっていて決して損はしません。
▼ 引用文献
神谷武夫著『インド古寺案内』小学館、2005年7月20日
インド古寺案内 (Shotor Travel)