東京都江東区にある日本科学未来館では、2011年3月11日の東日本大震災で天井の一部が崩落してしまいました。復旧にあたっては「仮に落ちても安全」というあたらしい設計思想にもとづいて天井の抜本的な改修をおこないました(注)。

日本科学未来館・館長の毛利衛さんはつぎのようにのべています。

施設を設計した日建設計は元々、国土交通省が求める以上の対策を、天井に施していたようですが、それでも地震で落ちてしまった。

お金をかけなくても安全でデザイン性が高い天井ができるのではないか、という発想をもつことが重要だと思います。

天井が落ちるリスクがあることを踏まえて設計し、地震時の行動を検討する。天井の安全性に対する考え方震災を機に大きく変わったことで、これまで想定外だった事態を、想定できるようになりました。以前よりも格段に、安全性が増したと思っています。

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こうしてあらたな天井は、かるくてやわらかい「膜」を採用した「膜天井」にはりかえられました。

防災対策にあたっては、従来の常識の路線上において、従来のものを補強したり強化すればすむというわけではないでしょう。「仮に落ちても安全」というような方向転換、発想の転換があってもよいとおもいます。日本科学未来館のあたらしい天井対策に発想の転換の実例をみることができます。


▼ 注:引用文献
日経アーキテクチャ編『新しい防災設計』日経BP社、2012年4月23日
免震・制震・耐震対策、天井対策、津波対策、節電、液状化対策など実際に確実に役にたつ防災設計について解説しています。大地震など、来るものは来るのですから、地震予知をあてにするのではなく、実際に役立つ対策をあらかじめほどこしておくことが重要です。「遠くの地震も侮れない」「家はこわれても命は守る」など大変参考になります。

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