金森博雄著『巨大地震の科学と防災』第六章「アスペリティ」では地震をひきおこす断層の不均質性と自然現象の“ゆらぎ”について解説しています。

地震は地下の断層がずれうごく現象です。その断層において、地震の際に周囲よりも大きくすべって強い揺れをひきおこす場所を「アスペリティ」とよびます。そこは、ひずみをためながら長いあいだ頑張ってくっついていた「強い場所」です。しかし、あるときに耐えきれなくなり一気にすべって地震をひきおこします。

「アスペリティ」とはそもそもはでこぼこという意味です。断層はひとつながりになめらかなにずれるのではなく、断層面のなかでも大きくすべる場所と小さくすべるだけの場所があるわけです。つまり断層面と断層のひずみのたまり方は不均質であり、地震のおこりかたは複雑で毎回おなじように地震がおこるわけではありません。

著者の金森さんはこれを自然現象の「ゆらぎ」として説明しています。

自然現象にはいつもゆらぎがあります。東日本大震災を起こした地震を通じて、日本でもそのことが強く認識されました。

こうして同じ場所ではほぼ同じ大きさの大地震が一定間隔で繰り返すという「固有地震説」(注)は通用しなくなりました。

このように自然のゆらぎについてはこれまであまり意識されていませんでした。学校の理科教育でも自然の法則(自然の規則性)については強調していますが、ゆらぎについてはおしえていないのではないでしょうか。

たとえば地球や月の自転や公転は運動の法則にもとづいて規則的におこっていますが、実際にはゆらぎがあることが知られています。地表で観測される自然現象(地学現象)にもゆらぎがあり、それは天体の運行などにくらべてとても大きいことはあきらかです。

このように地震のおこりかたにゆらぎがあるために地震発生の厳密な予測はできないのです。いつ大地震がおこるかわからないわけですから、いつおこってもよいようにそなえておかなければなりません。



▼ 注
1995年の阪神・淡路大震災のあとにできた日本の地震調査研究推進本部(地震本部)は、長期予測の前提として「固有地震説」をつかっていました。「固有地震説」とは、おなじ場所ではほぼおなじ大きさの大地震が一定間隔でくりかえすというかんがえ方です。しかし東日本大震災をふまえ見なおすことになりました。

アスペリティも固有地震説も概念的な考えであるので地震の全体像(全体的な傾向)をつかむためには有効ですが、自然現象の複雑さをふまえると災害の予測につかうのには問題があるとのことです。


▼ 引用文献
金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(朝日選書)朝日新聞社、2013年12月25日
巨大地震の科学と防災 (朝日選書)

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