金森博雄著『巨大地震の科学と防災』第五章「奇妙な地震『津波地震』」では、小さな揺れでも大津波がおこりうることをのべています。地震の揺れの大きさにかかわらず、津波警報がでたらすぐに高台に避難するようにしなければなりません。
1986年6月15日の明治三陸地震は大きな津波で、2万人以上の犠牲者が出ました。三陸沿岸での津波は30メートル以上に達しました。津波は地震で海底が隆起し、その上にある海水がもち上げられるために発生します。(中略)(大津波なら地震の)揺れも大きいとおもうでしょう。ところが、揺れはとても小さかったのです。そういう意味で、たいへん奇妙な地震でした。揺れは小さいが大きな津波を起こす特殊な地震を「津波地震」と名づけました。
地震災害に関連して津波についても理解をふかめ警戒しなければならないことは言うまでもありません。著者の金森さんは地震と津波の関係を研究し、小さな揺れでも大津波をひきおこす「津波地震」を世界各地で発見しました。「揺れは小さくても大きな津波がおこることがよくある」というのですからおどろきです。小さな地震で小さな津波、大きな地震で大きな津波という単純な図式はなりたたないのです。
また、2011年3月11の東北地方太平洋沖地震において、気象庁は、地震発生後3分で津波警報をだしましたが、津波の高さはつぎのとおり小さく予測してして発表してしまいました。
・宮城県:6メートル
・岩手県や福島県:3メートル
しかし地震発生の30分後、釜石沖の津波計が急上昇したため、つぎのように修正発表しました。
・宮城県:10メートル
・岩手県と福島県:6メートル
さらに地震発生の46分後にはつぎのように修正発表しました。
・東北の太平洋岸:10メートル以上
そのご気象庁は高い津波を推定できなかったことを反省し、最初の警報では津波の高さはしめさずに、巨大津波の可能性を指摘して、はやく避難を即す方法に変えました。
つまり津波の高さをあらかじめ予測することは不可能であるわけです。したがって警報がでたらすぐに高台に避難する以外に方法はありません。
▼ 引用文献
金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(朝日選書)朝日新聞社、2013年12月25日
巨大地震の科学と防災 (朝日選書)
▼ 関連記事
避難場所をきめておく - 大木聖子著『家族で学ぶ 地震防災はじめの一歩』-
自然には「飛躍」があることを知ってそなえる
日本列島ではくりかえし巨大地震がおこる - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(1)-
余震と兄弟地震にもそなえる - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(2)-
津波警報がでたらすぐに高台に避難する - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(3)-
自然現象には“ゆらぎ”があることを知る - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(4)-
地震発生の確率にかかわらず備えておく - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(5)-
地震を、点的にではなく面的にとらえる - 金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(6)-
「仮に落ちても安全」という設計思想に転換した - 日本未来館の膜天井 -
建築物に震災対策を講じる -『新しい防災設計』-