朝日新聞デジタルで次の記事をよみました。
「ソニーのハワード・ストリンガー取締役会議長(71)が6月で退任する意向を固めた。ソニー初の外国人トップとして2005年に就任したが、主力のテレビ事業の赤字を止められず、昨年4月に社長を退いていた。今後はソニーのすべての役職から身を引く」(注1)。

大規模なリストラや工場の統廃合をすすめましたが、ソニーのテレビ事業は8年連続の赤字がつづき、12年3月期の純損益は、4566億円の赤字で過去最高だったといいます。

クレイトン=クリステンセン教授は自著『イノベーションのジレンマ』(注2)の中で、優良企業がなぜ失敗するのかについて詳細に論じています。それは、
「そのような企業を業界リーダーに押し上げた経営慣行そのものが、破壊的技術の開発を困難にし、最終的に市場を奪われる原因となるからだ」
といいます。既存の優良企業は、既存の顧客の需要にいつまでもこたえようようとし、既存の製品の性能を高める開発、つまり「持続的技術開発」をおこなってしまいます。その結果、あたらしい市場を切りひらくあたらしい技術開発つまり「破壊的技術開発」ができなくなってしまいます。ここに、「持続的技術開発」と「破壊的技術開発」のジレンマを見ることができます。

ソニーが、トリニトロンやCDやDVDの延長線上でブルーレイなどの開発に熱中していたときに、アップルは、iTunes に代表されるディスクレスのあたらしい技術開発をすすめていました。ブルーレイの開発は「持続的技術開発」であり、iTunesは「破壊的技術開発」であったのです。

以前、「さよなら、僕らのソニー」という記事を朝日新聞でよんだことがあります。本業のエレクトロニクスからはずれた、ソニー銀行やソニー損保といった大きな広告を見ていれば、かつての“ソニーファン”は誰でもそのような気持ちになります。たとえば、ニコン銀行やキャノン損保がもし出てきたとしたら、ニコンやキャノンのファンはがっかりしてはなれていくでしょう。

しかしながら、氷屋さんがもしここにいたとして、その氷屋さんが、こらからは冷蔵庫の時代に変わるとわかったとしても、「破壊的技術」である冷蔵庫の開発・販売はできなかったかもしれません。日本のかつての優良企業がイノベーションのジレンマにおちいったことは歴史の必然とみることもできるのです。もやはあきらめるしかないのでしょうか。

もしそうならば、ふるい企業ではなく、これからのあたらしい時代をになう若い人たちによるあらたな技術開発に大きな期待がかかってきます。


注1:朝日新聞デジタル 2013年3月9日12時1分配信
注2:クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』、翔泳社、2011年7月3日発行(2012−09−14版)
kindle版:イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard business school press)
単行本:イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

▼ 関連記事
ビジョンをえがき、全体をデザインし、自分らしいライフスタイルを生みだす - 映画『スティーブ・ジョブズ』-