私が仕事をしているネパール・ヒマラヤにはマガールとよばれる農耕民族の村があり、その村の生活様式は各村内で完結する自給自足でしたが、1990年ごろから近代化・文明化の波がおしよせてきて貨幣経済が浸透、現金収入を得ることが重要な課題になってきました。マガール族は現在、みずからの伝統的な生活様式を基盤にしつつも、異質な外来文化を積極的にうけいれて重層文化をつくりつつあります。ここには重層化というやり方をみることができます。
一方で私は、タカリーとよばれる民族またチベット人とも仕事をしています。彼らはマガール族とは大きくちがい、伝統的に交易をおこなって生計をたててきました。つまり彼らは、貨幣経済の中で元々くらしており、近代化の波がおしよせてきても、彼らの生活様式は本質的には変わることはなく、これまでのやり方で自己発展的(自立的)に成長をつづけています。
このように、おなじネパール・ヒマラヤの民族でも、彼らの発展の仕方は民族によって大きくことなります。 結果的に、重層化を採用するマガール族は先進国からの国際援助をうけやすく、他方のタカリー族やチベット人は援助をうけなくても自分たちで自立・自律してやっていくという性格があらわれます。