『日本史の謎は「地形」で解ける』など、歴史や文明に関する竹村公太郎さんの一連の著作を読んでいると、竹村さんがもちいている研究の方法が一般の人文学者とはことなることに気がつきます。竹村さんの探究の方法は「仮説法」であることをここで確認しておきたいとおもいます。

たとえば『本質を見抜く力 - 環境・食料・エネルギー -』のなかで竹村さんは、人文学者は「概念で表現されますが、私は理科系の人間なのでデータに基づいて話します」とのべています。

一般の人文学者は、概念がまずあって、つぎにさまざまなケースをとりあげたり想定したりして概念を論理的に展開し、そして結論をつぎつぎにひきだしていきます。

それに対して竹村さんは、まず現場と現場のデータに注目します。そして、自然の法則やさまざまな外的条件などを参照のうえ、仮説をたてます。仮説をたてたら、ふたたび現場を調査して仮説を検証していきます。

現場のデータ → 法則や条件を参照 → 仮説をたてる → 検証する

これは自然科学の方法です。仮説を検証するとはいいかえると実験をするということです。竹村さんは、物理学者や化学者が室内で実験をするかわりに現地調査をしているのです。

竹村さんは、従来は人文学者の研究領域だった歴史や文明を自然科学の方法で研究してみたわです。そもそもこのようなことをした先駆者は梅棹忠夫さんです(注1)。梅棹忠夫さんの『文明の生態史観』などを竹村さんも実際に読んでいます。一方、人文学者のなかでは梅原猛さんが同様な方法をもちいて研究をしています(注2)。このような方法は「仮説法」とよんでもよいでしょう。

「仮説法」は推理小説の方法と実はおなじです。現場のデータから仮説をたて、そして検証していく一連の流れは推理の過程にほかなりません。

竹村さんらは、その推理の過程(研究のプロセス)をそのまま書きあらわしているので文章が教科書的にならず、読者も一緒に推理をたのしめるようになっています。このあたりのところを意識しながら竹村さんのらの本を読んでみるとおもしろいとおもいます。



▼ 注1

▼ 注2