竹村公太郎著『日本史の謎は「地形」で解ける(文明・文化篇)』は、前著『日本史の謎は「地形」で解ける』の続編です。前著にひきつづいて本書を読むと日本文明に関する理解が一層すすみます。

本書の中核をなすのは、第4章〜第7章の江戸の都市づくりに関する論考です。ここを中核にして、その前の時代の織田信長、その後の日本の近代化に関する論考を読むと、日本列島という地形のうえで日本文明がいかに成長したかについて理解をふかめることができます。

目 次
第1章 なぜ日本は欧米列国の植民地にならなかったか ①
第2章 なぜ日本は欧米列国の植民地にならなかったか ②
第3章 日本人の平均寿命をV字回復させたのは誰か
第4章 なぜ家康は「利根川」を東に曲げたか
第5章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか ①
第6章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか ②
第7章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか ③
第8章 貧しい横浜村がなぜ、近代日本の表玄関になれたか
第9章 「弥生時代」のない北海道でいかにして稲作が可能になったか
第10章 上野の西郷隆盛像はなぜ「あの場所」に建てられたか
第11章 信長が天下統一目前までいけた本当の理由とは何か
第12章 「小型化」が日本人の得意技になったのはなぜか
第13章 日本の将棋はなぜ「持駒」を使えるようになったか
第14章 なぜ日本の国旗は「太陽」の図柄になったか
第15章 なぜ日本人は「もったいない」と思うか
第16章 日本文明は生き残れるか
第17章 【番外編】ピラミッドはなぜ建設されたか ①(注1)
第18章 【番外編】ピラミッドはなぜ建設されたか ②

たとえば徳川家康は、関東の弱点が関宿にあることを見ぬいたり、利根川を東にまげる大工事をおこなったり、東京湾岸に運河をつくったりして関東と江戸をみごとにつくりかえました。関東平野の改良と制御なしには江戸時代の繁栄はありえませんでした。またこの江戸と関東平野がその後の日本の近代化の基盤となりました。

家康らは、自然環境に一方的に支配されたり環境にただ適応して生きていたのではなく、自然環境に対して主体性を発揮してそれを能動的に改良したのです。そこには、自然環境とそこで生きる人々との相互作用をみとめることができます。大げさにいえば江戸と関東平野は自然環境と家康らの合作であったのです。そしてそのうえにたってその後の文明が成長できたというわけです。

著者の竹村公太郎さんの方法はこのように一般の人文学者とは大きくことなります。つぎのようにのべています(注2)。

歴史を芝居にたとえると、歴史の下部構造は舞台と大道具で構成された舞台装置である。歴史で活躍した英雄たちは、その舞台装置の上で演技する俳優たちである。俳優たちの演技を評論する人は多いが、舞台装置を評論する人はない。インフラに携わってきた私は、下部構造の舞台装置が気になってしまうのだ。

登場人物だけに注目するのではなくて彼らが行動していた「舞台」すなわち大地も同時に見ること、要素とともにそれが入っている空間全体を見るが大事だということでしょう。

徳川家康は、現場をあるいて地形を観察しつくしていた日本史上最高級のフィールドワーカーであったそうです。家康にはおよばないにしてもわたしたちも家康からまなび、まずは野外にでて、理屈をはなれて自分の目で自然を見ることからはじめたいものです。



▼ 引用文献
竹村公太郎著『日本史の謎は「地形」で解ける(文明・文化篇)』(Kindle版)PHP研究所、2014年2月3日
日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)


▼ 注1
第17〜18章のピラミッドに関する論考も斬新です。このような視点は一般の考古学者にはないのではないでしょうか。歴史や文明を「基盤」からとらえなおすことが大切であることをおしえてくれるとともに、文明にはかならず「基盤」があることもしめしています。

▼ 注2
竹村公太郎さんは専門の歴史学者ではないことも自由な発想を可能にしているとおもわれます。専門の歴史学者は定説や学会の価値観にとらわれているので常識とはちがうことは言いづらい状況にあります。また学校教育の影響もあって言語をつかってかんがえる習慣を身につけている人が多いです。それに対して竹村さんはあきらかにフィールドワーカーです。あちこちにでかけていっていろいろなアイデアをおもいつく。たのしいことです。その根底にはマチュア精神があるのではないでしょうか。アマチュア精神は是非大切にしたいものです。

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