東京電力福島第一原子力発電所の事故を素材とした劇映画「希望の国」(園子温監督)が公開されます(注)。

原発が制御不能となり、泰彦と妻の智恵子も退避を迫られますが、泰彦は牛を飼い、ブロッコリーを育て、家族の歴史を代々きざんできた地を離れまんせんでした。やがて、妻の智恵子は認知症になり「かえろうよ」とさけびつづけます。「かえろうよ」といってもここが自分の家なです。

実は、「かえろうよ」とは、あのころに「かえろうよ」といっているのです。妻の智恵子の心の中では不可逆な時間軸がとっぱらわれていて、そこには時間はなく空間だけがあります。原発から遠くにはなれて、あの美しい日々にかえろうとしているのです。爆発した原発と美しい日々は時間の枠組みをこえて心のなかに存在しているのです。

このように、いくつもの出来事が空間的に配置された世界からこの原発事故をもう一度とらえなおしたとき、因果関係や論理という常識ではつかみきれない福島の人々の心の一端が見えてくるとおもいます。

注:「映画にできること 園子温と大震災」(NHK, ETV特集)