東京国立博物館・表慶館
特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」が東京国立博物館で開催されています(会期:2015年5月17日まで、注1)。
今回は、第2展示室「釈迦の生涯」にあった「四相図」(しそうず)に注目してみます。物語と造形と場所とを簡潔にむすびつけた例として参考になります。
「四相図」は、グプタ朝で花ひらいたサールナート派の作例だそうです。釈迦の生涯から代表的な4つの場面(① 誕生から出家、② 降魔成道、③ 初転法輪、④ 涅槃)をえらんで下から上にむけて配置されています(注2)。
① シッダールタ太子の誕生から出家までの場面である。向かって右にはマーヤー夫人がおり、右脇には生まれ出た子を受けるインドラ(帝釈天)があらわされる。その向かって左方には縦長の空間をつかって七歩を歩むシッダールタ太子が配される。左下には白馬カンタカにのって出家のために城を抜けだす様子がみられる。② 降魔成道であり、釈迦の右脇に魔王マーラーが、マーラーの右脇と釈迦の左脇には、悟りをさまたげようと誘惑にやってきた魔王の娘3人がいる。③ 初転法輪であり、椅子に腰かけて説法印をむすぶ姿がみられる。④ 涅槃の場面であり、寝台上に横たわる釈迦が全体をしめくくっている。
このように釈迦の物語を造形にあらわしました。さらに興味ぶかいのは、4つの場面それぞれが特定の場所にむすびつけられていることです。つぎのようになっています。
① ルンビニー② ボードガヤー③ サールナート④ クシナガラ
これらは四大聖地として原始仏典にも説かれ、その巡礼が推奨されています。
物語の場面をイメージ化して場所にむすびつけることにより、4つの聖地を地図上で確認すれば釈迦の生涯を一望できることになります。時系列の物語をイメージでとらえ、さらに場所でとらえることができるのです。時間的な流れを視覚的空間的にとらえなおすことができるというわけです。
四大聖地の位置(Google マップ)
地図上(地球上)の特定の場所に特定の情報をむすびつけて記憶したり処理する方法はプロセシングの方法としてとくに有用です。旅行法としても活用できます。仏教の聖地をめぐる旅もこのようなことを意識しながらおこなうとより充実したものになるとおもいます。
▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」
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東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」
▼ 注2
東京国立博物館・日本経済新聞社・BSジャパン編集『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』2015年3月17日、日本経済新聞社発行
(展示会場は撮影禁止のため図録の写真を撮った。)
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