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東京国立博物館・表慶館の入り口

東京国立博物館・表慶館で開催されている特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」(会期:2015年5月17日まで、注1)は仏教史を俯瞰できるまたとない機会になっています。

会場のショップで売っていた特別展のカタログ(図録、注2)を見たところ190〜191ページにはインド地域の歴史をしめす年表がでていました(図1、2)。これが役立ちます。わたしは各作品(展示物)が制作された年代を年表上でたしかめてみました。年代は以下のとおりです。

1 仏像誕生以前
シュンガ朝:紀元前2世紀頃

2 釈迦の生涯
クシャーン朝:2世紀頃
グプタ朝:5世紀頃
パーラ朝:10世紀頃

3 仏の姿
クシャーン朝:1世紀頃
クシャーン朝:2世紀頃
グプタ朝:5世紀頃
パーラ朝:8〜9世紀頃
パーラ朝:9〜10世紀頃
チョーラ朝:12〜13世紀頃

4 さまざまな菩薩と神
クシャーン朝:1〜2世紀頃
クシャーン朝:2世紀頃
パーラ朝:8〜9世紀頃
パーラ朝:10世紀頃

5 ストゥーパと仏
パーラ朝:8世紀頃
チョーラ朝:10世紀頃
パーラ朝:10世紀頃
パーラ朝:11世紀頃
パーラ朝:12世紀頃

6 密教の世界
パーラ朝:9世紀頃
パーラ朝:9〜10世紀頃
パーラ朝:10世紀頃
パーラ朝:11世紀頃
パーラ朝:10〜11世紀頃
パーラ朝:11〜12世紀頃

7 経典の世界
パーラ朝:11世紀頃
14世紀頃

附編 仏教信仰の広がり
16〜17世紀頃
17世紀頃
18世紀頃 
18〜19世紀頃
19世紀頃

今回でてきた王朝を年表上でたしかめ赤枠でかこみました(図1、2)。

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図1 インド地域の歴史年表(その1)
(今回みられた王朝を赤枠でかこった)

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図2 インド地域の歴史年表(その2)
(今回みられた王朝を赤枠でかこった)

上記の王朝とともにつぎの事柄にも注目するとよいでしょう(年表上で青色下線をひいたところ)。

前600頃 十六大国の並立
前5世紀頃 釈迦(ブッダ、仏陀)
前3世紀頃 アショーカ王碑文(マウリア朝)
1〜5世紀 ガンダーラ美術が栄える
630〜644 玄奘のインド旅行

文字でおっていても年代はよくわかりませんが、上図のような年表を主催者がつくっておいてくれたので歴史的な流れがよく理解できました。


そもそも釈迦が活動した時代の南アジア地域は「十六大国時代」という群雄割拠の時代でした。そしてそのご紀元前4世紀末に、インド初の統一王朝である「マウリア朝」がおこりました。

ここでの注目点は、「十六大国時代」とは古代の都市国家の時代(段階)であり、その後のマウリア朝はより大規模な領土国家(帝国)であったということです。

十六大国の時代:都市国家の段階
マウリア朝:領土国家(帝国)

都市国家は、それぞれが小規模なうちはよかったのですが、それぞれの都市国家がしだいに勢力を拡大してくると摩擦や対立がおこり、たがいにあらそうようになります。そしてその後、より強力な都市国家が勝って生きのこり、それがより広範囲の地域を支配するようになり領土国家(帝国)になっていきました。

したがって釈迦が活動した時代とは、いくつもの都市国家が崩壊して領土国家が生じてくる時代であったのであり、都市国家の時代から領土国家の時代へと転換する過渡期であったのです。

つまり、この時代は戦争がはじまった時代であったということができるでしょう。だからこそ救済を必要とする人々があらわれたのではないでしょうか。

そしてさらに、領土国家(帝国)は領土をめぐる戦争をくりかえしていくことになります。戦争の規模が大きくなるにしたがって救済を必要とする人々の数も増えたことでしょう。それにこたえるかたちで仏教の様式も変化し、より多くの人々を救済するようになります。このような過程で仏像そして大乗仏教が発達したと想像することができます。

今回の特別展と関連資料からはこのような仮説がたてられるのではないでしょうか。このような歴史は作品(展示物)そのもに記入されているわけではないので、それらの背景を想像するしかありません。それぞれの時代がそれぞれの作品を生みだし、それぞれの作品はそれぞれの時代を反映しているはずです。したがって背景として時代はあらわれるのであり、それらを想像するところに歴史のおもしろさがあるのだとおもいます。

東京国立博物館の特別展は今回も充実した内容でとてもたのしめました。


▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

▼ 注2
東京国立博物館・日本経済新聞社・BSジャパン編集『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』2015年3月17日、日本経済新聞社発行

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