150413 表慶館
東京国立博物館・表慶館(Google Earth から引用)

東京国立博物館・表慶館で開催されている特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」(会期:2015年5月17日まで)は、仏教史を俯瞰できるまたとない機会になっています(注)。特別展のいいところは、本を読ん学習するのとはちがって体験的にまなべるところにあります。印象・記憶にものこりやすく思い出づくりにもなります。

わたしはすべての作品をひととおり見おわったあともういちど入り口までもどって、今度は、作品よりもむしろ展示室を意識し、各部屋の空間全体に意識をくばるようにしながらふたたび会場をあるいてみました。

展示室はつぎの順序でならんでいました。これらは仏教の発展の流れ・仏教史をあらわしており、各作品(展示物)は、仏教の歴史におけるそれぞれの段階を反映していました。

第1室 仏像誕生以前
 釈迦の生涯
 仏の姿
 さまざまな菩薩と神
 ストゥーパと仏
 経典の世界
 仏教信仰の広がり
 密教の世界

150412 表慶館
図1 会場案内図(フロアーマップ)


最初期の仏教では釈迦は人の姿としては表現されていません。それは、それぞれの修業や行い・八正道によって救済がえられるという釈迦の教えを実践するときに仏像は必要なかったからです。

しかし釈迦の死後、仏教の教えがひろがり仏教徒がふえるにしたがって礼拝という概念が浸透していきました。そして釈迦は神格化された存在に変容し、その結果、仏舎利や象徴物の礼拝、やがては釈迦の像すなわち仏像の崇拝へと展開していきます。そして伝統的な仏教とはことなる大乗仏教が生まれます。

このあたりのダイナミックな変化が会場の展示室の変化として体験できます。


特別展のおもしろいところは作品を展示しているだけではなく、展示室にも大きな工夫がくわえられていて、配置・装飾・配色・照明などのさまざまな演出がほどこされているところにもあります。個々の作品を見るだけではなく特別展の企画者がつくりだした展示空間の方にも是非注目してください。

150412 展示物と展示室
図2 展示物だけでなく展示室にも意識をくばる

* 

仏像などの各展示物を要素といいかえるならば、展示室はそれらの入れ物(うつわ)であり空間です。空間は背景であるととらえてもよいです。

展示物:要素
展示室:空間(背景)


150412c 展示物と展示室
図3 展示室は空間、展示物はそのなかにある要素である

歴史をまなぶときには主人公に注目しがちですが、それぞれの時代の大きな潮流はむしろ背景の方にあらわれています。仏教史の大局的な流れ、大きな潮流とその変化を理解しようとおもったら展示室全体(背景)の方に意識をもっていくことが大切です。各展示室(の空間)とその移り変わりに意識をくばった方が大局はよりわかってきます。そのために会場を再度あるきなおしてみたわけです。

個々の展示物を見るとともに展示室すなわち背景にも意識をくばり、仏教史の大きな潮流の変化をつかむ努力をしてみるととてもおもしろいとおもいます。


▼ 注
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

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