ムソルグスキー作曲(ラヴェル編曲)組曲《展覧会の絵》をききました(アレクサンドル=ラザレフ指揮、日本フィハーモニー交響楽団、杉並公会堂、2015年3月15日)。

ロシアの作曲家・ムソルグスキーは、友人・ハルトマンの遺作絵画展でみた10枚の絵の印象を音楽にしました。

ムソルグスキーは、絵(イメージ)をみてそれを音楽にしましたが、わたしたち聴衆はそれとは逆に音楽をきいて絵(イメージ)をおもいうかべます。これは「耳でたのしむ展覧会」であり、同時にとても効果的なイメージ訓練です。

10枚の絵がそれぞれ曲になっていて表題がついています。会場で配布されたプログラムノートから表題と解説を引用しておきます(注)。ただし、音楽をききながらイメージをするときには言葉にはあまりとらわれずに自由に想像をふくらませてかまいません。

第1曲:こびと
北欧神話の精霊・ノームがグロテスクに描かれる。

第2曲:古い城
中世の城にこだまする吟遊詩人の歌をエキゾチックに歌いあげる。

第3曲:チュイルリー宮殿の前庭
庭園での子どもたちのはしゃいだ姿が表情豊かに描かれる。

第4曲:ビドウォ
「ビドウォ」とはポーランド語で牛の群れのこと。重々しい牛車の響きの中に、ロシア帝国時代の暗くみじめな農奴の生活が浮かぶ。

第5曲:からを付けたひよこの踊り
元気いっぱいのひよこたちがあっちこっちと飛び跳ねる。

第6曲:サミュエル・ゴールデンベルグとシュミュレ
かたや威張った金持ち、かたや卑屈な貧乏人という、対照的なユダヤ人のおしゃべり。

第7曲:リモージュの市場
リモージュはフランス中部の町。おかみさんたちの威勢の良いおしゃべりが市場を縦横無尽に飛び交う。

第8曲:カタコンブ(地下墓地)
古代ローマ時代、迫害されたキリスト教徒たちの墓。こここでムソルグスキーは「死者とともに死者の言葉で」という表題で“プロムナード”を挿入し、亡き親友春とマンの追憶に浸る。

第9曲:鶏の足の上に建つ小屋
ロシア民謡の魔女バーバ・ヤガーの家。中空を自在に飛び回るような豪快さと、怪しげな呪文を思わせる昼間部が鮮やかなコントラストを描き出す。

第10曲:キエフの大きな門
ハルトマンが設計したキエフ市の門の重厚な印象。

こうして《展覧会の絵》は堂々とクライマックスをむかえ、わたしたちは光の世界へといざなわれます。


今回の方法は、音楽をインプットして絵(イメージ)を想像するというやり方でした。情報処理の観点からみると、イメージ訓練あるいは想像することはプロセシングのなかでもとくに重要な方法といえるでしょう(図1)。
150315 音楽と心象法
図1 音楽をきくことはインプット、想像することはプロセシング
(<インプット→プロセシング→アウトプット>は情報のながれ)


何かをアウトプットしようとおもったら、先にイメージをえがいて、イメージをおもいうかべながらアウトプットしたほうがうまくいくとおもいます。



▼ おすすめの音源
Amazon デジタルミュージック:展覧会の絵
こちらは 辻井伸行さんの演奏によるピアノ(オリジナル)版です。

▼ 注
曲のはじまりと各曲(各絵)の間には「プロムナード」というみじかい前奏曲あるいは間奏曲が演奏されます。この「プロムナード」はムソルグスキー自身が絵と絵のあいだをあるいている姿を表現しているといわれています。


▼ 参考文献