池上彰・佐藤優両氏が対談し、混迷をふかめる現代の国際情勢を読みといています。

ウクライナの内戦や停戦、「イスラム国」の擡頭など、このところの世界の情勢の急変は、動きを追いかけていくだけでも大変です。しかし、こういうとき、表面的に事実関係を辿っていても、事の本質には迫れません。その地域には、どんな歴史があるのか、民族や宗教の分布はどうなっているのか、背景や深層を知ることで、初めて真相に近づくことができます。

という指摘からはじまり、ウクライナ内戦、欧州の闇、アメリカの失敗、「イスラム国」出現と中東の混乱、チベット問題、尖閣問題、朝鮮問題、従軍慰安婦問題などについて具体的に解説しています。

著者らは、現代は、「過去の栄光よ、もう一度」という「新帝国主義」が台頭してきた時代であり、戦争と極端な民族対立の時代が当面つづいていくと結論しまた予想しています。「過去の栄光よ、もう一度」という「新帝国主義」は、未来を想像することができずに過去の栄光にモデルをもとめてしまった結果としてあらわれてきたものであり、そこには「未来としての過去」の存在があります。

たとえば、ロシアがクリミア半島の権益をまもる。中国が南シナ海からさらにインド洋に進出する。「イスラム国」がインドからスペインまでを取りもどそうとする。過去の栄光をふたたびもとめる動きがむきだしになってきています。一方でグローバル化がいちじるしく進展しつつあるということも相まって、文明の衝突と転換が複雑にからみあい、国際情勢はかつてないほど混迷してきています。

著者らは「嫌な時代」になったとのべ、「嫌な時代」がしばらくつづくと予想しています。このような時代を生きぬくために、「嫌な時代」を認識できる耐性を個人が身につける必要があり、そのためには歴史と国際情勢を知り、知識において「代理経験」をしなければならないと強調しています。

現代を知るために読んでおくべき一冊といえるでしょう。


▼ 文献
池上彰・佐藤優著『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』(文春新書)文藝春秋、2014年12月19日
新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)