わたしは先日、東京スカイツリーにのぼって首都・東京を大観してみました。
このように、ある地域を大観して空間的にとらえたら(インプットしたら)、つぎに、どこか地点を決めて歴史的時間的にそこほりさげてみると、イメージがさらに大きくふくらみ認識をふかめることができます。空間的な認識にとどまらず歴史(時間軸)もおさえことは意義のあることです。ここでは時空場が意識されます。
たとえば地質学の調査では、地表での広域的フィールドワークをしたら、つぎにどこか地点を決めてボーリング調査をし、地表での調査結果とボーリングの調査結果とを組みあわせてその地域の全体像をあきらかにします。これと同じことです。
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今回の過程であきらかになったことのひとつは東京の景観の悪さです。大局的にみた場合、景観や文化財の保存・復元は重視されていないのが現状であり、観光資源に東京はとぼしいといわざるをえません。東京駅丸の内駅舎は例外でした。
それでは、なぜ、東京駅丸の内駅舎は往時の姿が例外的に復元されたのでしょうか。
ひとつは、明治建築界の偉才・辰野金吾らが非常に立派な建物をつくったということがあげられるとおもいます。丸の内駅舎は関東大震災にも耐えてのこりました。最初に、すぐれたものをつくることは重要なことであり、何事も最初が一番肝心です。こうして建物だけではなく創設者の精神あるいは志が後世まで受けつがれることになりました。
しかし、精神だけでは景観や文化財は復元することはできません。費用をいかに捻出するか。そこで「空中権」の話がでてきました。JR東日本は、「空中権」の売却により約500億円の費用をまかなったそうです。このようなからくりがあったことを今回しりました。
「空中権」とは、建物が、その敷地に対して許可された容積率を上限まで使用しなかった場合に、周囲の敷地に譲渡される余剰分の容積率のことであり、空間を利用する権利があたかもあるように見えることから「空中権」とよばれるようになったそうです。
建物の容積率は、建築基準法および都市計画にしたがって決定され、床面積が容積率を上回る建築はできません。そのため高層ビルなどの高さは制限されています。
東京駅丸の内駅舎は3階建てであるため、使用できる容積率の5分の1程度を使用するにとどまり、その結果生じた余剰の容積率を周囲のビルの容積率を増やす権利として取り引きしました。たとえば新丸の内ビルの容積率の一部は東京駅の空中権を購入、もともとの敷地容積率基準は1300%でしたが1760%に増やし地上38階建て、高さ198mの高層ビルに立て替えが可能になったそうです。ほかにも三菱地所の東京ビルやJR東日本などのツインタワーなども東京駅の空中権を活用しています。
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ところで、国土交通省によりますと、首都高速道路を地中にうめ、地上部分を「空中権」として民間企業に売却、資金を調達することを検討しているそうです。たとえば、日本橋の上をとおっている首都高速道路を撤去し、日本橋地区を再生させるというような案も今後はありえます。
景観や文化財を再生させて観光資源を開発していくことは今後の東京の大きな課題であるでしょう。東京駅丸の内駅舎の復元が、歴史と文化を生かしたこれからの都市づくりのモデルとして活用されることを希望します。
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以上のように、あるテーマ(主題)のもとで、その空間をまず大観し、つぎにここぞとおもう局所をほりさげてみるといろいろなことがわかってきます。そして大局と局所の両者をふまえてさらに考察をふかめ本質にせまっていくとよいでしょう。この方法をモデル化すると図1のようになります。
図1 認識をふかめる3段階