本多勝一著『日本語の作文技術』の〈付録〉では「メモから原稿まで」と題して、取材とその記録、原稿用紙のつかい方などに関して補足説明をしています。
本多さんは、取材の記録をつけるメモ帳としては大学ノートをつかっているそうです。そして大学ノートから、原稿のために必要な部分をひろいだして整理するときにはカード(京大式カード)をつかっています。
こうした取材とその記録が、原稿の作成すなわち日本語の作文の基礎になります。作文の腕をあげるためには取材とその記録(メモ)の訓練も必要です。
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本書ではのべられていませんが、取材をしてメモするという行為は人がおこなう情報処理の過程になっていることを本項では強調しておきたいとおもいます。情報処理とは<インプット→プロセシング→アウトプット>のことです。
まず、外界(環境)に存在するある対象に関心をはらうと、それに関する情報が自分の意識のなかにインプットされます。これが取材するということです。すると、その情報は、自分の意識のなかで処理(記憶や編集や加工など)されます(プロセシング)。そしてその結果をメモ(言葉)としてアウトプットします(書きだします)。以上の情報処理をモデル化すると図1のようになります。
図1 情報処理の仕組み
本多さんの場合は、大学ノートにペンをつかってアウトプットしています。メモすることはアウトプットのひとつの様式であることに注目してください。メモもアウトプットの一種である以上、メモの訓練は日本語の作文の訓練にそのままつながります。作文(原稿を書くこと)もアウトプットの一種です。メモがよくできる人は作文もうまくなります。
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本多さんは原稿用紙やペンについても説明していますが、現代では、原稿用紙とペンはパソコンにおきかわりました。原稿用紙とペンがパソコンにおきかわったという点に注意してください。本項での情報処理の観点にたつと、情報処理をおこなうのはあくまでも人であり、パソコンではありません。つまりパソコンの画面をみながらキーボードをうつ作業を、パソコンへのデータの入力としてとらえるのではなく、原稿用紙とペンをつかってするように、自分の内面から情報をアウトプットしているという意識をもってしなければなりません。
メモであれ原稿であれ書くということは、自分自身の心のなかで処理された情報を外界にアウトプットしていることにほかならず、パソコンはそのための単なる道具にすぎません。
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このような情報処理の仕組みを理解する、本多さんのつぎの説明も理解できるのではないでしょうか。
いったんメモされたものは調査者の主観の結果であることをのがれられないのです。ということは、どんなに機械的な羅列でも、報告されたものは報告者自身の反映であり、報告者と報告されたものとの関係の告白にほかならない。
つまり、アウトプットされたメモ(言葉)はいかなる場合であっても、自分の意識(内面)を通りぬけて独自に処理された情報であるのであって、主観の結果であることをのがれることはできません。したがって、報告されたもの(アウトプットされたもの)は、自分の心の内面における独自の情報処理を反映したものであり、自分と対象との関係(反応)があらわれた結果にほかなりません(図2)。
図2 対象、情報処理、メモ
言葉で説明されるとむずかしいかもしれませんが、図2のような仕組みが要するにあるということです。<インプット→プロセシング→アウトプット>は情報の流れをあらわしています。取材の練習をするときにこのモデルが役立つとおもいます。
▼ 文献
本多勝一著『日本語の作文技術』(朝日文庫)1982年1月14日
日本語の作文技術 (朝日文庫)
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