本多勝一著『日本語の作文技術』の「第六章 助詞の使い方」では、日本語の文章全体の構造を支配するきわめて重大な、助詞のつかい方について解説しています。助詞は、日本語の「統語法の根幹をなす品詞である」そうです。
助詞の中でもとびぬけて重要で、かつ便利な助詞は「ハ」です。第六章の「1 象は鼻が長い ー 題目を表す係助詞『ハ』」では、この「ハ」について、まず、つぎの例文をつかって解説しています。
突然現れた裸の少年を男たちが見て男たちがたいへん驚いた。
この文では、主格の格助詞「ガ」が2つあります。「男たちが見て」のガと「男たちが驚いた」のガです。
係助詞「ハ」をつかうと、2つのおなじ主格を吸収・兼務させることができ、つぎのように書けます。
(A) 突然現れた裸の少年を男たちは見てたいへん驚いた。(B) 突然現れた裸の少年を見て男たちはたいへん驚いた。
「男たち」は1度だけ書けばよいです。どちらの文がすぐれているでしょうか。つぎのように説明しています。
(B) の方がすぐれた文章である。なぜか。それは、この文章の述語が「驚いた」であって、「見て」ではないからである。大黒柱としての「驚いた」には、題目としての「男たちは」がかかる。(中略)題目と述語とは近い方がよい。また第三章の原則(長い順)でも「男たちは」はあとがいい。
もし「男たちは」を強調したければ、次のように「男たちは」を最初にもってきて「逆順」とし、テンをうてばよいです。
(C) 男たちは、突然現れた裸の少年を見てたいへん驚いた。
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以上の原理は、ながい文章をわかりやすくするためにつかえます。文章の長短とわかりやすさについて、つぎのように説明しています。
文は長ければわかりにくく、短ければわかりやすいという迷信がよくあるが、わかりやすさと長短とは本質的には関係がない。問題は書き手が日本語に通じているかどうかであって、長い文はその実力の差が現れやすいために、自信のない人は短い方が無難だというだけのことであろう。
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本多さんらは、係助詞「ハ」とは、格助詞ガノニヲを兼務する、文の「題目」をしめすものととらえています。題目のことを「主題」とか「提題」ということもあります。
たとえばつぎの無題文があります。
たとえばつぎの無題文があります。
象ノ鼻ガ長いコト
この文から、「象」を、題目(主題・提題)としてとりだしたいとおもったら「ハ」をつかいます。
象ハ鼻ガ長い。
「ハ」が「ノ」を兼務し、「象」を、題目(主題・提題)としてとりだすことができました。「象は鼻が長い」の「象は」は、この文の題目(主題)をしめしているのであり、 いわゆる「主語」ではないことに注意してください。
日本語で「ハ」にすべきが「ガ」にすべきかといった問題は、このように言葉の死命を制する。だから第一級の文章家たちは、ハとガの使い方が必ずうまく、論理的で、その結果リズムに乗っている。
このように助詞のつかい方では、「ハ」をつかいこなせるようになることが重要です。そのときに、「主語」という従来の教えにはとらわれないようにします。
■ まとめ
■ まとめ
- 係助詞「ハ」は、文の「題目」(主題)をしめす。
- 係助詞「ハ」は、格助詞ガノニヲを兼務する。
- 日本語の作文技術を実践するうえで、いわゆる「主語」という従来の教えにはとらわれない(日本語には、いわゆる「主語」は存在しない)。
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