池内恵著『イスラーム国の衝撃』は、報道が連日つづいていいる「イスラーム国」に関する一般むけ解説書です。

目次はつぎの通りです。

1 イスラーム国の衝撃
2 イスラーム国の来歴
3 甦るイラクのアルカーイダ
4 「アラブの春」で開かれた戦線
5 イラクとシリアに現れた聖域 ──「国家」への道
6 ジハード戦士の結集
7 思想とシンボル ── メディア戦略
8 中東秩序の行方

そもそも中東の混乱の要因には、第一次世界大戦後の英仏による、「委任統治」という名の事実上の植民地支配がありました。これにより中東は分断され、イスラーム原理主義は支持をえました。

「イスラーム国」はアル=カーイダに起源があります。

9・11事件後、米国による「対テロ戦争」によって、アル=カーイダは一度は打撃をうけましたが、ネットワーク型の組織原理でつながる「アル=カーイダ関連組織」となり復活しました。

アル=カーイダが復活した最大の要因は2003年のイラク戦争でした。イラクの混乱により、イラクは、アフガニスタンからおわれたジハード戦士たちの行き場となり、そこで台頭したのが「イラクのアル=カーイダ」です。これが大きくなってイラクとシリアの一部を領域支配するようになり、これが、現在の「イスラーム国」になりました。

一方で、2011年以来の「アラブの春」により独裁政権が次々にたおれたことも、国境をこえてジハード戦士があつまり、「イスラーム国」を大きくする要因になりました。

それにくわえて、「グローバル・ジハード運動」がおこり、民族や国家をこえたテロが世界各地でおこりはじめました。これには、ハイテク化した兵器が世界の市場で流通するようになったことがベースにあります。

さらに、「イスラーム国」は、インターネットをつかったたくみなメディア戦略により、世界の注目をあつめることに成功しました。「イスラーム国」は「電脳空間」にも大きく進出したのです。


本書を要約すると以上のようになります。

このような流れのなかで現在の状況をみていると、世界は、今までとはちがう あらたな歴史的段階に入ったとしかおもえません。

中東の問題を、イスラーム世界の問題あるいは欧米の問題と片付けることはもはやできないことはあきらかです。地理的にも歴史的にも、あるいは宗教上もとおい存在であった日本でさえも、意図せずして、紛争に「参加」してしまうことがあることを、わたしたち日本人も知るべきでしょう。わたしたちは世界とつながっているのです。

なお、本書は、説明が若干こみいっています。池上彰著『池上彰が読む「イスラム」世界』とあわせて読むと理解が一層すすむでしょう。
 


▼ 文献
文化的にひとまとまりのある地域をおさえる - 国立民族学博物館の西アジア展示 -
世界の宗教分布を地図上でとらえる -『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』(1)-