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上の写真は、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催された企画展「だまし絵 II」の図録から引用した、ラリー=ケイガン作「トカゲ」です(注)。

企画展「だまし絵 II」での実際の展示物は、 鉄のワイヤーを溶接して組みあげられた構造物であり、その構造物を見ても何をあらわしているのかはわかりません。しかし、ある位置から光を照射すると、壁面(平面)にトカゲの影があらわれるのです。とても不思議な影の芸術でした。

ラリー=ケイガンは、光と影をたくみに利用した彫刻を得意とするアーティストだそうです。

この彫刻のおもしろさは、3次元では認識できないことが、2次元では認識できる点にあります。


わたしたちは、通常は、2次元(平面)にえがかれた絵を見て、3次元の世界(立体空間)を想像します。これは誰もがやっていることであり、問題はありません。

しかし、ラリー=ケイガンのこの彫刻では、3次元(立体)の構造物を見ても何だかわかりませんが、2次元(平面)に投影された影を見ると、トカゲであることが認識できたのです。

通常は、「2次元→3次元」ですが、これは「3次元→2次元」であり、順序が逆です。ここに、逆転の発想がありました。


この作品は、わたしたちに次元を意識させ次元を変えて見ることのおもしろさをおしえてくれます。

次元を変えるという観点にたつと、さまざまなことをとらえなおすことができます。

たとえば、あるストーリーは、時間軸にそって(時系列で)ながれていきます。これは1次元です。そのような1次元のストーリーを、平面上で絵や図解にすることができれば、それは2次元に変換されたことになります。

その逆もできます。たとえば、2次元の図あるいは3次元の立体を見て、その内容を、文章で書きあらわすとします。文章は、前から後ろにながれる1次元です。2次元あるいは3次元のものを1次元に変換したことになります。

あるいは、1冊の本があり、そこには文章(1次元)が書かれています。しかし、この本を立体的な構造物(3次元)と見ることもできます。この構造物のなかに、たくさんの文字が、3次元的に分布していると見ます。これは、次元を変えて、1冊の本をとらえなおしたことになります。

3次元的に本をとらえなおすことは速読法に通じます。次元が高いシステムをつかった方が情報処理はより効果的にすすむことが知られています。

他方で逆に、次元のちがいによって、あるいは たまたま対象を見たときの次元によって、錯覚が生じてしまうということもあるでしょう。

次元を変えることによって、見え方が変わるということに気がつくことは大事なことです。


「だまし絵 II」の会場には、ラリー=ケイガンの作品として「蚊 II」という作品も展示されていました。こちらは、蚊を影で表現しており、おどろいたことに、その蚊の影までうつしだしていました(影で表現された蚊の影まで、影であらわしていました)。どのようにしてこれをつくったのか、試行錯誤をくりかえしたのか、興味がつきませんが、影とは3次元を2次元に投影したものであることを実体験できました。