『錯視と錯覚の科学』(Newton 別冊)は、錯視と錯覚に関する大変おもしろい本です。ページをめくりながら、錯視や錯覚がどのようにおこるか、自分で実験することができます。錯視や錯覚を実体験してみてください。

内容は、つぎのように多方面にわたっています。

1 動く錯視
2 明るさと色の錯視
3 形と空間の錯視
4 残像・残効・消える錯視
5 その他の錯視・錯覚
6 錯視研究の最前線

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「中央の+をじっとみていると、周囲の青・赤・黄のパッチが消えていくようにみえる」など、本当に不思議な体験をしました。

本書は、見るということに関してつぎのように説明しています。

眼に入ってきた光情報は、網膜で神経情報(電気信号)に変換され、脳の視床にある外側膝状体を通って、まず後頭葉にとどき、そこで情報をこまかく分解します。

その後、分解された情報は、より高次の脳領域に送られ、動きの情報や空間の情報を処理し、それらの情報がどういう意味をもつか理解します。そこで、分解された情報は再構築されます。

脳は、途切れ途切れになった映像をつなぎ合わせる機能を備えています。

このように、わたしたちの脳は、電気信号を処理し、再構築して映像をつくりだしているのです。そしてわたしたちは、その映像を「見ている」とおもっています。このような脳の情報処理のなかで、さまざまな錯視と錯覚も生まれてくるのです。 

本書をつかって実験をすれば、このようなことがわかってきます。

このようなことから、たとえば、ある道をあるいていて、奥行きが実際よりもながく感じられたり、あるいは、行きよりも帰り道の方が短く感じることなども、一種の錯覚としてとらえることができます。

また、錯覚がおこるときには、これまでの経験や、対象をとりまく環境や背景の影響・効果もあります。経験とは、時間的な過去であり、環境・背景は空間的なひろがりです。わたしたちは、自分固有の時間・空間の制約のなかで対象をとらえてしまいます。ありのままに見ることは非常にむずかしいことです。

時間・空間の効果と、錯視のテクニックとがシンクロナイズしたときに、錯覚は最大限になるでしょう。特に、その人が、未来にむかって特定の偏見をもっていた場合、過去だけでなく未来の時間的効果も、現在の錯覚にあらわれてくるのではないでしょうか。

錯覚の研究は、インプットとプロセシング、認識とは何かという課題についていろいろなことをおしていくれます。本書にもあるように、脳の情報処理が科学的に解明されてきたので、このようなことが科学的に議論できるよになってきました。

わたしなどは、錯覚の研究がもっとすすんで、その原理がわかれば、その原理をつかって、たとえば、苦しみを軽減したり、よろこびを倍増させたりすることもできるのではないかと想像したりしています。


▼ 参考記事
視覚効果と先入観とがくみあわさって錯覚が生まれる - 特別企画「だまし絵 II」-
平面なのに絵が飛び出す - 目の錯覚を利用した3Dアート -
中心をくっきりうかびあがらせると周囲の輪郭もはっきり - 顔の輪郭がはっきりした人 -
脳の情報処理の仕組みを理解する 〜DVD『錯覚の不思議』〜


▼ 文献
『目の錯覚はなぜおきるのか? 錯視と錯覚の科学』(Newton 別冊)ニュートンプレス、2013年4月15日