新国立劇場の新制作、リヒャルト=ワーグナー作曲『パルジファル』を鑑賞してきました。

指揮:飯守泰次郞
演出:ハリー=クプファー
アムフォルタス:エギルス=シリンス
ティトゥレル:長谷川顯
グルネマンツ:ジョン=トムリンソン
パルジファル:クリスティアン=フランツ
グリングゾル:ロバート=ボーク
クンドリー:エヴェリン=ヘルリツィウス
合唱:新国立劇場合唱団・二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

今回のハリー=クプファーの演出のテーマは「歪められた教えからの解放をねがい、彼らは「道」を歩んでいく」でした。クプファーはつぎのようにのべています。

私が考えるこの「救済」とは、ドグマからの解放、キリスト教の教えの歪曲・悪用からの解放だと思っています。イエスの言葉、新約聖書の内容が歪められるなど、長い歴史の中でキリスト教の思想の上に降り積もってしまったたくさんの「瓦礫」、それを全部取り除くことがここでの「救済」だと私は捉えています。それが『パルジファル』の作品全体の精神的な構造から私が導き出した結論です。

視覚的には、「光の道」がジグザグではあるけれどもはるかかなたまでつづいていきます。この「道」をあるいていくことが今回の『パルジファル』の基軸になっていて、それは時間をあらわしながらも、飯守泰次郞と東フィルが奏するうつくしい音響空間につつみこまれ、溶けこんで大きな空間に変容していく、そんな様子をイメージすることができました。

また、クプファーはクンドリーについてつぎのようにのべています。

彼女は、十字架にかけられたキリストを嘲笑したために呪われ、何度も生まれ変わって大変苦しい人生を歩まなければならない運命にある女性です。「生まれ変わる」というのは、むしろ仏教の輪廻転生の思想です。

この輪廻転生が、また、時間が空間になることをイメージさせます。

そして、このようにして時間が空間化していく過程で、ドグマから、あるいはキリスト教の教えの歪曲・悪用から解放されていくのです。これが「救済者には救済を!」ということです。ワーグナーとクプファーはこのようなメッセージをわたしたちにつたえたかったのではないでしょうか。

視覚と音楽のシンクロナイズ。演奏も演出もとてもすばらしかったです。このようなすぐれた総合芸術を堪能できる機会はめったにありません。是非とも再演をしていただきたいと新国立劇場におねがいします。

そのおりには、第1幕の「ここでは時間が空間となる」と、全曲の幕切れの「救済者には救済を!」についてしっかり検証してみたいとおもいます。

なお、わたしの今回の席は最上階の一番うしろ(4階の最後列中央)でした。新国立劇場オペラパレスは言うまでもなくオペラの専用劇場であり、もっともうしろの席からでも舞台全体が見え、音楽もよくひびくように設計されています。NHKホールのような巨大な多目的ホールとはちがい、うしろの席でも十分たのしむことができました。