本展は、画面から感じられる「水の音」に焦点をあて、川、海、滝、雨の主題に沿って厳選した山種美術館の所蔵品を通して、近世から現代までの画家たちの試みをふりかえるという企画でした。
水は、その形態を多様に変化させ、決まった形をもたないからこそ画家たちのインスピレーションを刺激したとかんがえられ、形のない対象をいかにして描くかという課題は、多くの画家が挑戦した重要なテーマでした。
わたしは、美術館のなかをあるきながら一枚一枚の絵に接し、水の視覚的な造形美を見ながら、川の音、波の音、滝の音、水面の音、雨の音をおもいおこしていきました。音をきいて映像(イメージ)を想像するということはよくおこなっていますが、絵をみて音を「想像」するという、普段はあまりしないおもしろい体験を集中的にすることができました。自分の意識のなかで音をひびかせながら絵をみているとその場の体験は一層ふかまり、記憶にのこります。
江戸時代から現代にいたるまでのたくさんの水の絵画を通して、さまざまな形に変化する水は環境の指標でもあることを再認識し、水をとらえなおすことによりわたしたちの世界の変動と成りたちがよく見えてくることを実感できました。
個人的には、奥田元宗の「奥入瀬(秋)」が印象にのこりました。わたしは奥入瀬をおとずれたことがあり、そのときの実体験と絵画と音のひびきが共鳴して心ゆたかなひとときをすごすことができました。