音楽のたのしみ方にはライブとオーディオの二種類があります。

ライブはいうまでもなく舞台上での生演奏です。それに対して、オーディオ音楽は録音を再生した音楽です。ライブが舞台で上演される演劇に相当するとすると、録音は映画に相当します。

オーディオ音楽についてはいろいろなたのしみ方があるとおもいます。ひとつは原音再生をめざすものであり、生演奏をできるだけ忠実に再現するのがよいとするかんがえ方です。もうひとつは、オーディオ音楽は独立したジャンルであり、コンサートホールで聞く音楽とは別物であるというかんがえ方です。

ここで、舞台芸術と映画のちがいにも注目しなければなりません。舞台芸術は目前で実演するのに対し、映画はカットを編集してつくります。

しかし、舞台は実演しているといっても、舞台は現実ではなく、背景その他は現実を模して装飾されたものです。それに対して映画は、現実の世界でロケをしたり、撮影場のきわめてリアルなセットの中で撮影され、映像を見ているかぎりは現実のように見えます。

このようにかんがえてくると、舞台か映画かということは表面的なことであり、どちらにもそれぞれのよさがあります。むしろ、舞台か映画かといった表現手段よりも、どのようなメッセージを作者がつたえたいのかということの方が重要だとおもいます。

こうして、オーディオ音楽に録音再生芸術という独立したジャンルをあたえてもよいのではないでしょうか。ライブは演劇に、オーディオ音楽は映画に相当するのです。

すぐれたオーディオで聞く音楽はしばしばライブを越えます。また、今では絶対に聞けない歴史的名演が録音の再生というかたちでよみがえり、臨場感をもって大きな感動をあたえます。コンサートホールとはちがうよろこびを味わえることがよくあります。

オーディオ用に録音された音楽はしばしばカットや音を編集してつくりあげますが、それはそれでかまわないとおもいます。ライブではないのですから。むしろオーディオはライブを越えることをめざせばよいのです。

一方で、ライブはライブでオーディオとはちがうたのしみ方をすればよいのです。

演劇と映画、ライブとオーディオ、それぞれによさがあります。