140814a だまし絵II


東京・渋谷の Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の特別企画「だまし絵 II - 進化するだまし絵 -」を見ました。数々の「だまし絵」に接しながら、錯覚を体験的にたのしむことができました(会期:2014年10月5日まで)。

▼ 特別企画「だまし絵 II - 進化するだまし絵 -」

▼ Bunkamura へのアクセス



■「だまし絵」は進化する
「だまし絵」は、人間の視覚に対する科学的探求がはじまったルネサンス後期ヨーロッパで登場しました。会場は、つぎの5つのセクションから構成されていました。

プロローグ:ダブル・イメージ
よく見ると、ひとつ絵のなかに別の像がひそんでいます。特殊な技巧です。

1.トロンプ・ルイユ
本物が実際に置いてある。実は錯覚です。物のみならず物の影までもが克明に描写されていました。

2.シャドウ、シルエット&ミラーイメージ
実物を見ても何だかわからない物が、影や鏡を見るとその姿がうかびあがります。これは虚像です。実体が虚像になり、虚像によって何だかわかるというおもしろさです。

3.オプ・イリュージョン
立体的な構造や色の配置が錯覚をひきおこします。『広重とヒューズ』は特におもしろいです。左右にうごきながら見ているとイメージも一緒にうごくのです。実際にはうごいていないはずなのですが。情景の遠近と立体的な凹凸が逆転しています。

4.アナモルフォーズ、メタモルフォーズ
ゆがんでいるイメージが、円筒に投影したり、角度をかえて見ると正常な形が見えます(アナモルフォーズ)。見方や距離をかえると、ひとつのイメージが別のイメージに変貌します。見慣れた事象が現実にはありえない情景になります(メタモルフォーズ)。

140814 だまし絵II
音声ガイドリスト



■ 錯覚は意外に多い
「だまし絵」とは目をだます絵です。会場に行ってみると、ことなる角度から何度も作品を見なおすことができるので錯覚だったことがわかります。たとえばつぎのとおりです。
  • 3次元の立体のように見えますが、実際には2次元の平面上のイメージです。
  • 2次元の影で対象を認識できますが、実際には3次元の構造物です。
  • 光の反射によって対象が認識できますが、実際には3次元のわけのわからない物体です。
  • うごいているようですが、実際には静止しています。
  • 2次元で表現できる構造物ですが、実際の3次元空間ではなりたちません。

こうして見てくると、世の中には「だまし絵」が意外にもたくさんあり、わたしたちは無意識のうちに普段から錯覚をしていることが多いこともわかってきます。



■ 視覚効果と先入観とがくみあわさって錯覚が生まれる
「だまし絵」は、作者のアイデアとたくみな技巧によって意外な視覚効果を生みだしていますが、実はそれだけではなく、見る人の経験や常識をうまくひきだして錯覚をおこさせているのす

わたしたちは、長年の経験により知らず知らずうちに先入観や常識をもって生きています。たとえば、鼻は出っぱっているとか、遠くの物は小さく見えるなど。このような過去の経験の延長線上で、あるいはこれまでに身につけた常識の枠組みのなかで対象を見てしまっているのです。物理的客観的に純粋に見ることは非常にむずかしいことです。

このような見る人の経験的な先入観や常識がまずあって、それに、たくみな視覚効果がくみあわさると数々の錯覚(誤解)がひきおこされます。「だまし絵」は、「だまし絵」だけでだまそうとしているのではなく、人間の経験や常識と組みあわせて総合的にだましているのです(図)。
140908 視覚効果と先入観
図 先入観・常識・経験とたくみな視覚効果とがくみあわさって錯覚がうまれる


このように、対象をイメージとして認識するときに自分の経験が大きく作用するということは、わたしたちは目だけで見ているのではなく、視覚によってえられた情報が脳にインプットされ、その脳が、総合的に対象を認識しようと努力しているということをしめしています。つまり脳がイメージをつくりあげていのです

脳がどのようなイメージをつくるか、今回の展覧会はそれを実体験できるたいへんおもしろい企画です。


▼ 参考ブログ
錯視や錯覚を実験する -『錯視と錯覚の科学』-
錯覚の実験を通して知覚を自覚する - 一川誠著『錯覚学 知覚の謎を解く』–
錯視を通して情報処理を自覚する - 杉原厚吉著『錯視図鑑』-
目で見たら、必要に応じて定量的情報も取得する - 2本のバナナ -
対象の空間配置を正確にとらえる -「重力レンズ」からまなぶ -

錯覚がおこっていることを自覚する(錯覚のまとめ)