梅棹忠夫著『メディアとしての博物館』は、あたらしい博物館のあり方について情報の観点からのべています。


目 次

博物館は未来をめざす
現代の蔵としての博物館

現代における博物館の役わり
百科事典と博物館
子どもと博物館
博物館とファッション

『全国博物館総覧』をすいせんする
企業博物館のありかた
ジャパン・ミュージアム構想
人間博物館リトルワールド
地域社会と博物館のありかた

博物館の言語ポリシー
博物館の展示ポリシー
情報産業としての博物館
博物学から博物館へ


博物館の情報化、物をつかった情報処理についてかたられます。

博物館は、情報機関であります。それぞれの分野に応じて、ひろく情報を収集し、蓄積し、変換し、創造し、伝達する。

資料の数の膨大さをほこるだけでは、博物館としては能がありません。必要な資料をたちどころにとりだせるような検索システムが必要であります。

大量の情報を蓄積し、処理し、提供する情報機関としての博物館こそは、情報化の時代にもっとも適合した存在であるといえるでしょう。逆にいえば、いままでは情報技術が未発達であったために、博物館の発展をいちじるしく制約されていたのだ、ということもできます。

「物」そのものが情報に転化するとともに、「物」を各種の形態に転化させることもできる。あるいは、「物」を各種の情報に転化させることによって、いっそうコンパクトに、いっそう秩序整然と収蔵することができる。

ただ、ものをならべておいてもすこしもおもしろくない。知的にずっとストーリーを追ってゆくことによって、理解がふかまる。ものを通じて知的理解をふかめてゆくという装置が博物館である。


国立民族学博物館では物も情報化しています。そして、資料や情報を徹底的に集積し、それらすべてが検索できるシステムをつくっています。国立民族学博物館のこのやり方は情報処理のモデルとして活用することができます。

物や資料その他の情報がはいってきたら、そのそれぞれに検索用の見出し(ラベル)をつけて保管(保持)します。見出しを検索すれば、物・資料をふくむあらゆる情報をすぐにとりだして利用することがでるという仕組みです。

人がおこなう情報処理もこれをモデルにしておこなえばよいです。 


■ 検索システムのつくりかた
1.情報のインプット
見たり聞いたりする感覚や行動したりする体験により情報が心にインプットされます。

2,プロセシング
重要な情報を選択したり、情報の概要や要点をつかんだりします。

3.見出し(ラベル)をつける
情報のひとまとまりのそれぞれに見出し(ラベル)をつけます。見出しは、一般的には言葉をつかいますが記号や絵などでもよいです。見出しは、いつでもすぐに閲覧できるように整理しておきます。ツイッターやフェイスズックやブログなどをつかえば効果的です。

見出しは、情報の本体を適切に要約したものであることがのぞましいです。これは、分類項目をつける作業とはちがうことに注意してください。

4.情報をとりだして利用する
見出し(ラベル)を見て、あるいは見出しを通して情報の本体を想起(検索)し、利用します。


■ あらゆる体験の検索システムをつくる
検索システムをつくる対象は何でもかまいません。書籍、音楽、絵画、風景、感覚、体験など。むしろ、さまざまな総合的な体験にこそ検索システムを適用することが大切です。

たとえば旅行にいったときの総合体験を情報の本体としてあつかい、体験のひとまとまり(ユニット)の一つずつに、一つずつの見出しをつけていきます。そして、その見出しを、たとえばブログやツイッターやフェイスズックにアウトプットして整理しておきます。

こうしておけば、見出しを見れば旅行体験をいつでも想起できます。すなわち情報の本体を検索できるわけです。

このような検索システムをつくるのは情報処理の基本であり、あまり時間をかけずに簡単にやることができます。まずは、情報の見出しづくりをやっておけばよいのです。

たとえば旅行記を書くとかいった本格的な情報処理作業はあとの別の課題です。もしあとで旅行記を書くにしても、情報の見出しをつくり、検索システムづくりをあらかじめすませておけば作業はやりやすくなるでしょう。
 



上記の方法は「ラベル法」でもあります。



▼ 文献
梅棹忠夫著『メディアとしての博物館』平凡社、1987年11月

▼ 関連書
梅棹忠夫著『情報と文明』(梅棹忠夫著作集 第14巻))中央公論社、1991年8月