本書は、地球上における民族紛争や対立などの、いわゆる民族問題をとりあつかい、民族の分布をカギにして世界をとらえなおすことについてのべています。
目次はつぎのとおりです。
緒論 民族とはなにか二一世紀の人類像国際紛争の理解のためにあらたなるバベルの塔の時代もう一枚の文化地図がみえる国家と民族と言語多民族国家の論理新聞解読のための民族学日本のなきどころ
要点を引用しておきます。
民族というのは、文化を共有する人間集団のことである。文化とは、その人間集団が共有するところの価値の体系である。民族が他の民族に接触するとき、その価値体系が露出する。おおくの場合、人々はその価値の体系の差に冷静に対処することができない。そして、軽蔑と不信がうかびあがる。文化とは、その意味では多民族に対する不信の体系である。民族間の差異ににもとづく細分化と、政治的・経済的利害関係にもとづく統合とのあいだで、どのようにバランスがとられるのか、それが二一世紀初頭の人類の課題であろう。いままでそれぞれ孤立した文化、孤立して存在した社会は、全地球社会というひとつの巨大システムのなかの部分システムとして、あらためて定義された、あるいは再編成されたということです。わたしは、これを「地球時代の到来」とよびたいのです。地球時代というのは、けっして国際的ということではないのです。問題はすでに、国と国との関係、インターナショナルな関係で解決できなくなっている。今日、地球上のどこかでなにかがおこれば、ただちにその影響が全世界に波及する。各地に発生したさまざまな矛盾や問題点が、局地的に解決できる余地がしだいになくなってきている。地球の一体化という現象も、人類史上一〇〇万年の歴史のなかで、まったくはじめてあらわれてきた現象です。今日においては、地球全体がひとつのネットワークに編成された。第一次世界大戦後、はっきりうちだされてきた思想が民族自決ということです。民族というのはかんたんにいうと言語集団のことです。民族と言語集団とはほとんど一致します。二一世紀前半は、文化も民族も実質的な民族国家への分裂の時代へはいるであろう。きわめて複雑なことになってゆくでしょう。分裂また分裂、あらたなるバベルの塔の時代がくるのだということです。民族的エントロピーは不可逆的に増大し、無秩序性をくわえてゆくわけです。われわれ民族学者がみますと、新聞の地図のしたに、もう一枚、べつの地図がすけてみえています。それは国境線を重視する政治的地図ではなくて、民族の分布を中心とする文化的な地図であります。政治的な地図と文化的な地図とでは、まったく様相がちがうのです。民族という概念を事件の解釈のカギとしてつかうことによって、国際的な事件の認識が、ふかく、かつ立体的になってくるのであります。
現代は、帝国の時代がおわり「地球時代」へ移行しつつある過渡期であるとかんがえることができます。
帝国の時代(領土国家の時代)は、強国と強国のはなしあい、あるいは戦争という手段にうったえて決着をつけていました。
帝国の時代(領土国家の時代)は、強国と強国のはなしあい、あるいは戦争という手段にうったえて決着をつけていました。
しかし、グローバル化がすすみ「地球時代」になってくると、民族集団の分離・独立という現象が表面化し、これは、領土国家の弱体化をひきおします。
現代は、グローバル化がすすめばすすむほど、一方で、地球各地の民族集団が前面にでてくるという矛盾した現象がおこっています。グローバル化がすすめばすすむほど、民族は、「オレがオレが」と自己主張するようになり、世界中で民族同士が衝突し、世界各地で民族紛争が多発します。
最近、「アメリカ合衆国は『世界の警察』からおりた。オバマ大統領は弱腰外交だ」という報道がありますが、グローバル化が進行し、帝国の力がよわまって、民族集団が台頭して民族紛争が激化するという現代の潮流をみるかぎり、アメリカ合衆国の弱体化も時代の趨勢であり、誰が大統領になってもそれを止めることはできないという見方ができるわけです。
今後、人類は、民族紛争をのりこえることができるのでしょうか? 地球社会と民族主義は両立できるのでしょうか?
以上の観点から、まずは、地球社会を認識する方法として、世界の民族分布を知ることが重要なことはあきらかです。国境線に注目して国家の分布をとらえるだけではなく、民族集団の分布を地理的にとらえる必要があります。民族は現代をとらえる重要なカギです。
▼文献
梅棹忠夫著『二十一世紀の人類像をさぐる -民族問題をかんがえる-』(講談社学術文庫)講談社 、1991年9月
梅棹忠夫著『地球時代に生きる』(梅棹忠夫著作集第13巻)中央公論社、1991年10月20日
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「地球時代」をとらえる 〜梅棹忠夫著『地球時代の日本人』〜