本書は、「地球時代」の歴史的な意味とそのなかにおける日本の位置づけについておしえてくれます。

目次はつぎのとおりです。

経済開発と人類学
日本万国博覧会の意義
海外旅行入門
日本の近代と文明史曲線
学術の国際交流について
人の心と物の世界
日本経済の文化的背景
国際交流と日本文明

印象にのこったところを引用しておきます。

地球全体が、ひとつのあたらしい秩序にむかって、再編成されようとしている。

文化がちがうということは、価値体系がちがうということなのです。

世界の諸民族や諸文化についての、情報センターをつくらなければいけない。そこに、さまざまな情報をあつめ、蓄積するのです。

時代はすでに、工業の時代から情報産業の時代へと、着実に変化しつつあるといえるのです。

海外旅行をするときの秘訣ですけどね、ぐるぐると十何ヵ国まわりましょうというふうにまずかんがえないで、「ねらいうち」でやられたほうがいい。そういう旅行のほうが、実のある旅行ができる。ひとつひとつそうして往復運動をしたほうがいい。

近代日本は化政期にはじまって、いままでにほぼ150年たった。今日のいわゆる「経済大国」の状況も、突然に、外国の影響でこうなったというのではなくて、なるべくしてなったのだ、ということであります。

140721 文明史曲線


日本の近代化は、明治の革命よりずっとまえから進行していた。

西ヨーロッパ諸国には、歴史的にみて、社会的条件が日本に似ているとかんがえられる国がいくつもあります。パラレルな現象をいくつも指摘できるでしょう。


本書は、「地球時代」について最初に論じた先見の書です。「地球時代」とは、領土国家の時代のつぎにくる時代のことです。

現代は、領土国家の時代から、「地球時代」(グローバル社会の時代)へとうつりかわりつつある過渡期です。まだ、本格的なグローバル社会には到達していません。この過渡期の現象がいわゆる「近代化」であり、本書の梅棹説ではそれは江戸時代の化政期にはじまったということになります。

この「近代化」は、こまかくみると「工業の時代」(工業化)が先行し、「情報産業の時代」(情報化)がそのあとにつづくという2つのステージがあります。このように、わたしたちの文明は、大局的にみると、ハードからソフトへむかって発展していて、最終的には、価値観の大転換がおこると予想されます。

本書のなかでのべられた、世界の諸民族や諸文化についての情報センターは、国立民族学博物館としてそのご実現しました。ここは、世界の諸民族や諸文化に関する膨大な情報を蓄積し、それらが利用できるようになっています。 

この国立民族学博物館がおこなっているように、情報は、第一に蓄積が必要です。これは、言いかえると情報とは第一に量であるということです。質ではなくて。量があってこそ情報のポテンシャル(潜在能力)は大きくなり、情報処理もすすみやすくなります。

たとえば、ダム湖の水位が高くなって水圧が高まりエネルギーが大きくなるように、情報の蓄積量が大きくなればなるほどポテンシャルは大きくなり、情報処理もすすみやすくなります。ポテンシャルが低い状態ではものごとはうまくいきません。このような意味では、いわゆる記憶も第一に量が必要であり、ある課題に関する情報をたくさん記憶した方が心のポテンシャルが大きくなり、情報処理がすすみやすくなります。情報の質は第二とかんがえた方がよいでしょう。

こうして、「地球時代」をとらえるために本書を参考にし、世界の情勢を認識するために国立民族学博物館のポテンシャルを大いに利用していくのがよいでしょう。


文献:
梅棹忠夫著『地球時代の日本人』(中公文庫)1980年6月10日、中央公論社
梅棹忠夫著『地球時代に生きる』(『梅棹忠夫著作集』第13巻)1991年10月20日、中央公論社


世界モデルを見て文明の全体像をつかむ 〜 梅棹忠夫著『文明の生態史観』〜