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タグ:美術

150413 表慶館
東京国立博物館・表慶館(Google Earth から引用)

東京国立博物館・表慶館で開催されている特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」(会期:2015年5月17日まで)は、仏教史を俯瞰できるまたとない機会になっています(注)。特別展のいいところは、本を読ん学習するのとはちがって体験的にまなべるところにあります。印象・記憶にものこりやすく思い出づくりにもなります。

わたしはすべての作品をひととおり見おわったあともういちど入り口までもどって、今度は、作品よりもむしろ展示室を意識し、各部屋の空間全体に意識をくばるようにしながらふたたび会場をあるいてみました。

展示室はつぎの順序でならんでいました。これらは仏教の発展の流れ・仏教史をあらわしており、各作品(展示物)は、仏教の歴史におけるそれぞれの段階を反映していました。

第1室 仏像誕生以前
 釈迦の生涯
 仏の姿
 さまざまな菩薩と神
 ストゥーパと仏
 経典の世界
 仏教信仰の広がり
 密教の世界

150412 表慶館
図1 会場案内図(フロアーマップ)


最初期の仏教では釈迦は人の姿としては表現されていません。それは、それぞれの修業や行い・八正道によって救済がえられるという釈迦の教えを実践するときに仏像は必要なかったからです。

しかし釈迦の死後、仏教の教えがひろがり仏教徒がふえるにしたがって礼拝という概念が浸透していきました。そして釈迦は神格化された存在に変容し、その結果、仏舎利や象徴物の礼拝、やがては釈迦の像すなわち仏像の崇拝へと展開していきます。そして伝統的な仏教とはことなる大乗仏教が生まれます。

このあたりのダイナミックな変化が会場の展示室の変化として体験できます。


特別展のおもしろいところは作品を展示しているだけではなく、展示室にも大きな工夫がくわえられていて、配置・装飾・配色・照明などのさまざまな演出がほどこされているところにもあります。個々の作品を見るだけではなく特別展の企画者がつくりだした展示空間の方にも是非注目してください。

150412 展示物と展示室
図2 展示物だけでなく展示室にも意識をくばる

* 

仏像などの各展示物を要素といいかえるならば、展示室はそれらの入れ物(うつわ)であり空間です。空間は背景であるととらえてもよいです。

展示物:要素
展示室:空間(背景)


150412c 展示物と展示室
図3 展示室は空間、展示物はそのなかにある要素である

歴史をまなぶときには主人公に注目しがちですが、それぞれの時代の大きな潮流はむしろ背景の方にあらわれています。仏教史の大局的な流れ、大きな潮流とその変化を理解しようとおもったら展示室全体(背景)の方に意識をもっていくことが大切です。各展示室(の空間)とその移り変わりに意識をくばった方が大局はよりわかってきます。そのために会場を再度あるきなおしてみたわけです。

個々の展示物を見るとともに展示室すなわち背景にも意識をくばり、仏教史の大きな潮流の変化をつかむ努力をしてみるととてもおもしろいとおもいます。


▼ 注
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

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東京国立博物館・表慶館

東京国立博物館・表慶館で開催中の特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」(注)を見ました(会期:2015年5月17日まで)。

インド東部の大都市コルカタ(旧カルカッタ)で1814年に創立されたインド博物館はアジア最古の総合博物館であり、古代インド美術のコレクションが世界的に有名です。この博物館の仏教美術の至宝およそ90点を見ながら、インド仏教のあけぼのから1000年をこえる仏教史の流れをたどることができました。

展示室は、1階入口から入り、2階にあがり、ふたたび1階におりてくるという順路でした(図1)。

1階
第1室 仏像誕生以前
第2室 釈迦の生涯
第3室 仏の姿

2階
第4室 さまざまな菩薩と神
第5室 ストゥーパと仏
第6室 経典の世界
 * コルカタ・インド博物館について
 * 映像コーナー
第7室 仏教信仰の広がり

1階
第8室 密教の世界
 * ショップ

150412 表慶館
図1 表慶館・会場案内図


展示の概要はつぎのとおりでした。

第1 仏像誕生以前
初期の仏教寺院はストゥーパ(仏塔)を中心につくられ、ストゥーパをとりかこむ欄楯(らんじゅん)とよばれる囲いを、釈迦の生涯、その前世の物語であるジャータカ(本生)、神像、蓮華文様などで装飾していました。当時は、仏陀は人間の姿であらわすことはなく、法輪や聖樹や足跡などによって存在を暗示していました。

 釈迦の生涯
最初に仏像が作られたのはガンダーラと北インドのマトゥラーで、紀元後1世紀頃でした。仏伝「出家踰城」(しゅっけゆじょう)では、王子としてそだったシッダールタ(のちの仏陀)が出家するために城をでていく場面をえがいていました。

 仏の姿
礼拝像としてさまざまな仏像がつくられました。マトゥラーでは若々しい青年のような仏像がつくられました。

 さまざまな菩薩と神
修行をへて未来に仏になろうとするものを菩薩とよび、大乗仏教の興隆とともに人々を救済するものも菩薩とよばれるようになりました。また、インド古来や外来の神々をとりいれ、像は多様化しました。

 ストゥーパと仏
仏の舎利(しゃり)をおさめたストゥーパ(仏塔)は仏教徒の信仰の対象でした。

 経典の世界
仏教のおしえは口伝でしたが、樹皮やヤシの葉などに経文を記し、それをとじて保管するようになりました。

* コルカタ・インド博物館について
英国統治時代の1814年に創立したアジア最古の総合博物館です。古代インド美術のコレクションは世界的に有名です。収蔵品は人文科学や自然科学の多様な領域におよびます。バールフット・ストゥーパの「欄楯(らんじゅん、垣)」を復元したギャラリーは必見です。

* 映像コーナー
ボードガヤーやヴァーラナシー、ガンジス川などの映像(動画)をみることができました。

 仏教信仰の広がり
仏教はインドから中央アジア、東南アジア、東アジアへと広範な地域へひろがりました。インドではそのご仏教は衰退しましたが、周辺国ではさまざなま形で仏教信仰がつづきました。

8室 密教の世界
インドでは、5〜6世紀になると密教がうまれました。これは当時インドで次第に隆盛してきたヒンドゥー教の影響をうけた仏教です。独特な世界観・宇宙観が表現されるようになりました。

* ショップ
特別展のカタログや記念グッズ、関連書籍、写真集、紅茶などを売っていました。紅茶は、ダージリンやニルギリやアッサムなどのインド紅茶です。カタログとニルギリを買ってかえってきました。


以上を大局的にみると、仏像以前、釈迦の仏教、大乗仏教のはじまり、密教という大きな歴史のながれを読みとることができます。

表慶館という建物のなかにおいて各展示室の位置(場所)を構造的空間的にとらえながら作品をみていくと理解と記憶が一層すすみます。会場案内図(フロアーマップ)が役立ちます。


▼ 注

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東京都美術館

東京・上野の東京都美術館で開催されている特別展「新印象派 光と色のドラマ」を見ました(会期:2015年3月29日まで、注1)。20世紀へつながる絵画の革新をおしすすめた「新印象派」の誕生からの約20年間のながれを時間軸にそって紹介していました。

「新印象派」は「点描技法」という技法をつかって絵をえがきました。特別展図録のなかでつぎのように説明しています。

スーラは、パレット上で絵具を混ぜずに、画面に純色の小さな筆触を並べ、鑑賞者の網膜上で色彩が混ざるように制作を行った。(図録41ページ)

つまり「新印象派」の画家たちは、絵の具を画家が直接まぜて色をつくりだすのではなく、絵の具そのままの色を小さな点としてカンバスにひたすらおいていき、絵を見る人(鑑賞者)の視覚のなかで色がまざるようにしました(注2)。

目に見えた世界をカンバス上にそのまま再現したのではないため点描画はそれ自体では完成しておらず、展覧会場で鑑賞者が見たときに生じるイメージとして、鑑賞者の意識のなかで絵が完成することになるともいえます。おもしろいです。

情報処理の観点からこのことを整理すると、まず、鑑賞者が点描画に目をむけると絵に反射した光が目のなかに入ってきます。これはインプットです。そして目の中の網膜から脳へと情報が伝達され処理されて鑑賞者の内部でイメージが生じます。これはプロセシングです(図1)。プロセシングにより色は点ではなくなりイメージとして融合されます。絵のイメージはあくまでもわたしたち鑑賞者の内面に生じていることに注目してください。

150320 新印象派
図1 色の点々がまざってあらたな色彩が生じる

展覧会場にいけばこのようなことを実体験することができます。絵にちかづいて見ると点描であることがわかり、絵からはなれてみると色がまざって風景画なり人物画として鑑賞できます(注3)。遠近によって見え方はまるでちがいます。今回の特別展は、視覚あるいは眼力に関するみずからの情報処理の様子を実験できる絶好の機会でした

このように絵は、ちかくで見ているだけだと意味がありませんので、ある程度はなれてじっくり味わうのがよいでしょう。そのためにはなるべくならすいている午前中のはやい時間に会場に行ったほうがよいとおもいます。


▼ 注1
東京都美術館・特別展「新印象派 光と色のドラマ」

▼ 注2
下記サイトでは、茂木健一郎さんらが視覚と脳の仕組みから点描技法に関してわかりやすく解説しています。

▼ 注3
会場には、色のブロックでつくった絵が展示されていました(これのみ撮影可でした)。ちかくで見ると色の点の集合であることがわかります(図2)。はなれて見ると色がまざって絵として認識できます(図3)。

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図2

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図3


▼ 参考文献
 


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東京国立博物館本館

東京国立博物館で開催中の特別展「みちのくの仏像」を見ました(本館・特別5室、会期は 2015年4月5日まで)。

仏像をとおして東北の魅力にふれることで、東日本大震災からの復興の一助にする企画です。本展の収益の一部は、被災した文化財の修復に役立てられるそうです。

特別展「みちのくの仏像」 >>
特設サイト >>

東北の三大薬師」と称される、黒石寺(岩手県)、勝常寺(福島県)、双林寺(宮城県)の薬師如来像をはじめ、東北各県を代表する仏像と対面することができました。

「東北の三大薬師」は、会場の奥に、かこむようにならべられていました。むかって右から順に、双林寺(宮城県)の《薬師如来坐像》と《二天立像(持国天・増長天)》、勝常寺(福島県)の《薬師如来坐像および両脇侍立像》(国宝)、黒石寺(岩手県)の《薬師如来坐像》と《日光菩薩立像・月光菩薩立像》であり、とても印象にのこりました。

また、天台寺(岩手県)の《聖観音菩薩立像》 は、像の表面に荒々しいノミ目をあえてのこしながら、木の質感を可能なかぎり生かした鉈彫(なたぼり)像で、樹木の中から仏像が出現してくることを想像することができました。

そのほかで印象にのこったのは、給分浜観音堂(宮城県)の《十一面観音菩薩立像》でした。牡鹿半島の給分浜の高台にまつられているそうです。

「みちのくの仏像」は、美を追求するというよりも、素朴さのなかの力強さや生命力を感じとることができました。

また、本展とあわせて、特別展「3.11大津波と文化財の再生」も開催されていました。東日本大震災による大津波は文化財にも甚大な被害をもたらしました。東京国立博物館は被災文化財の再生にもとりくんできたそうです。これまでの約4年にわたる成果を知ることができました。

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東京国立博物館(庭園より撮影)


東京・上野の東京国立博物館で開催された「日本国宝展」を先日みました。

東京国立博物館「日本国宝展」 >> 

仏足石からはじまり、仏像、土偶、文学など、日本美術の圧縮体験をすることができました。日本美術を短時間で概観してみると、やはり日本は仏教文化を基軸にした国だということがよくわかりました。

141204 日本国宝展


個人的に印象にのこったのは、平安時代(12世紀)にえがかれた掛け軸装の絵画作品「虚空蔵菩薩像」(こくうぞうぼさつぞう)(東京国立博物館蔵)でした。奥行き20センチメートルの薄型ケース内に、また、通常よりもひくい位置に展示されてあったため、繊細精緻な文様や微妙でうつくしい色づかい、金箔の線などを細部まで間近で見ることができました。

「金箔のみ、銀箔のみ、金と金の間に銀を挟み込んだもの、というように色味の違う截金を、全体の描写の中でかなり意識的に使い分けたり、組み合わせたりしている」とのことでした。

この、東京国立博物館蔵の虚空蔵菩薩像を撮影した写真は Wikipedia にでていました。
東京国立博物館蔵の虚空蔵菩薩像 >>

虚空蔵菩薩とは、広大な宇宙のような無限の智恵と慈悲を持った菩薩であり、記憶力をさずける菩薩として信仰されてきました。

わたしは、今回は、この虚空蔵菩薩を中核にして、展示品リスト・フロアーマップ・音声ガイドを利用して、空間記憶法を実践しました。

各展示品を、おいてあった場所で記憶するのがポイントです。展示品リストとフロアーマップは、インデックス(体験想起のための手段)としてファイルしておきます。 


▼ 参考文献
Amazon:仏像の事典

東京、練馬区美術館で開催された「見つめて、シェイクスピア!」展を先日みました。

本年が、16世紀のイングランドを代表する劇作家で詩人、ウィリアム=シェイクスピアの生誕450年にあたることを記念して企画された展覧会でした。

シェイクスピアの作品に主題をえた絵画作品や挿絵が多数展示されていて、シェイクスピアを短時間で圧縮体験することができました。

フランス・ロマン主義の旗手、ウジェーヌ=ドラクロワによる版画《ハムレット》や、エコール・ド・パリの画家、マルク=シャガールの版画による挿絵本《テンペスト》、イギリスの挿絵画家アーサー=ラッカムやアーツ・アンド・クラフツのメンバーでもあったウォルター=クレインによる挿絵本などを見ました。

静止画をみて、物語をおもいだいし、とらえなおすという体験をすることができました。『オセロー』の第5幕第2場は印象的でした。

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ジョシュア=ボイデル:「オセロー」より、「第五幕第二場 眠るデスデモーナ」(図録より引用)


それぞれの絵は、物語の一場面をきりとったものですが、その前後を想像してみるのはたのしいものです。また、画家は、どうしてこの場面を選択したのかを想像してみるのもよいです。

それぞれの絵は、ストーリーの目印として利用できます。題名と絵をセットにしておぼえておけば、そのストーリーをおもいだしやすくなります。わたしは、図録を買ってきましたので、この図録に掲載されている絵は、ストーリーのインデックス(想起のための手段)としてつかえます。つまり、絵は「アイコン」の役割をはたします。

あるいは、印象的な絵を見て、原作にあたってみるという逆コースもおもしろいです。

こうして、イメージと言語を自由に往復しながらたのしめる展覧会でした。

141208 言葉とイメージ



▼ 文献
「見つめて、シェイクスピア!」展(図録)、マンゴスティン制作・発行、2014年


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シェイクスピアの四大悲劇のひとつをオペラ化した - トマ作曲『ハムレット』(METライブビューイング)-
あらすじを予習してから鑑賞する - オペラになったシェイクスピア《テンペスト》-
感情が意識をゆさぶる グノー作曲『ロメオとジュリエット』-
音楽と演技が融合して一本のストーリーになる - ヴェルディ作曲『マクベス』-
絵の前後を想像する -「見つめて、シェイクスピア!」展 -
「自分が見えていない」をキーワードにして - シェイクスピア -

自分のアウトプットを見直して、自分で自分を見る




東京都渋谷区広尾にある山種美術館の展覧会「水の音 - 広重から千住博まで -」をみました(会期:2014年7月19日~9月15日)。

山種美術館「水の音 - 広重から千住博まで -」 >
 
本展は、画面から感じられる「水の音」に焦点をあて、川、海、滝、雨の主題に沿って厳選した山種美術館の所蔵品を通して、近世から現代までの画家たちの試みをふりかえるという企画でした。

水は、その形態を多様に変化させ、決まった形をもたないからこそ画家たちのインスピレーションを刺激したとかんがえられ、形のない対象をいかにして描くかという課題は、多くの画家が挑戦した重要なテーマでした。

わたしは、美術館のなかをあるきながら一枚一枚の絵に接し、水の視覚的な造形美を見ながら、川の音、波の音、滝の音、水面の音、雨の音をおもいおこしていきました。音をきいて映像(イメージ)を想像するということはよくおこなっていますが、絵をみて音を「想像」するという、普段はあまりしないおもしろい体験を集中的にすることができました。自分の意識のなかで音をひびかせながら絵をみているとその場の体験は一層ふかまり、記憶にのこります。

江戸時代から現代にいたるまでのたくさんの水の絵画を通して、さまざまな形に変化する水は環境の指標でもあることを再認識し、水をとらえなおすことによりわたしたちの世界の変動と成りたちがよく見えてくることを実感できました。

個人的には、奥田元宗の「奥入瀬(秋)」が印象にのこりました。わたしは奥入瀬をおとずれたことがあり、そのときの実体験と絵画と音のひびきが共鳴して心ゆたかなひとときをすごすことができました。

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国立新美術館


東京・六本木の国立新美術館で開催中の「オルセー美術館展 印象派の誕生 - 描くことの自由 -」を見ました。“印象派の殿堂” として知られるパリ・オルセー美術館から珠玉の絵画86点が来日しました(会期:2014年10月20日まで)。

▼ オルセー美術館展 印象派の誕生 - 描くことの自由 -
http://orsay2014.jp

今回は、アルフレッド・シスレー《洪水のなかの小舟、ポール=マルリー》が印象にのこりました。

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「セーヌ河畔の地を転々としたシスレーは、モネと同じく水辺を愛し、画業の大半をセーヌの風景画に捧げました。本作は、1876年のセーヌ川増水に際して描かれた6枚の作品のうちの1点」(注1)です。

イメージ訓練「拡大法」(注2)をおこないました。
 

ボートにのって家のちかくまでいってみます。すると家はどんどん小さくなっていきます。手のひらにのってしまいました。洪水のなかでも水びたしにはなりませんでした。今度は、家がどんどん大きくなってきました。見上げるように大きくなります。 わたしは小人のようです。洪水の増水など些細なことです。


物事をイメージして拡大縮小すればあたらしい見方が生まれます。たとえば、いやなことがあったら、そのイメージをどんどん小さく縮小していき消滅させてしまいます。願望があったら、それをイメージして拡大し、夢を大きくふくらませます。これは発想法としてもつかえます。



▼ 参考文献
注1:『オルセー美術館展 印象派の誕生 - 描くことの自由 -』(ミニ図録)読売新聞東京本社、2014年
出品全作品の図版と主要21作品のミニ解説を収録。展覧会の魅力がつまった1冊です。国立新美術館のミュージアムショップで買うことができます。ミニサイ(155×131mm)、全210ページ。1300円(税込)。
 
注2:栗田昌裕著『心と体に効く驚異のイメージ訓練法』廣済堂出版、1993年8月1日 

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東京・上野の東京国立博物館で開催されている特別展「台北 國立故宮博物院 -神品至宝-」を先日みました。台北 國立故宮博物院が収蔵するひときわすぐれた中国の文化財から、特に代表的な作品を厳選し、中国文化の特質や素晴らしさを紹介するという企画です(会期:2014年9月15日まで)。

▼ 東京国立博物館・特別展『 台北 國立故宮博物院 - 神品至宝 -」
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1647



1.展示物を、部屋のなかの要素としてとらえる
平成館2階・第1会場の入口にいくと展示作品リストをもらえます。そこに、会場図(フロアーマップ)がでているので、これを見ながら見学します。


140715 台北 國立故宮博物院 展

図 展示作品リストの会場図(フロアーマップ)


会場はつぎの10のセクション(部屋)から構成されています。各部屋の空間的な位置(場所)を確認しながら展示物を見ることが大事です。展示物を空間の中の要素としてとらえます。

第1室 中国皇帝コレクションの淵源 ― 礼のはじまり
第2室 徽宗コレクション ― 東洋のルネサンス
第3室 北宋士大夫の書 ― 形を超えた魅力
第4室 南宋宮廷文化のかがやき ― 永遠の古典
第5室 元代文人の書画 ― 理想の文人
第6室 中国工芸の精華 ― 天と人との競合
第7室 帝王と祭祀 ― 古代の玉器と青銅器
第8室 清朝皇帝の素顔 ― 知られざる日常
第9室 乾隆帝コレクション ― 中国伝統文化の再編
第10室 清朝宮廷工房の名品 ― 多文化の交流

これらは、およそ中国の歴史順に配列されています。



2.中国の歴史をとらえなおす
2-1.新石器時代から都市国家の時代をへて帝国の時代へ
ここで、中国の歴史を、宇都木章監修『すぐわかる中国の歴史』によって整理しておきます。この本は、東京国立博物館のミュージアムショップで見つけました。図表が多くてとてもわかりやすいです。

紀元前10000〜前2000年頃 新石器時代
前2000年頃〜前1023年頃 青銅器時代〜殷王朝
紀元前1023年頃〜前770年 西周王朝
紀元前770年〜前221年 春秋・戦国時代
紀元前221年〜前206年 秦王朝
紀元前202年〜紀元後8年 前漢王朝
紀元後8年〜220年 新と後漢王朝
184年〜280年 魏晋南北朝1
265年〜589年 魏晋南北朝2
604年〜618年 隋王朝
618年〜690年 唐王朝1
690年〜907年 唐王朝2
907年〜1126年 五代十国・宋王朝1
916年〜1227年 宋王朝2
1115年〜1279年 宋王朝3
1206年〜1260年 モンゴル帝国
1260年〜1368年 元王朝
1368年〜1424年 明王朝1
1424年〜1644年 明王朝2
1616年〜1662年 清王朝1
1661年〜1820年 清王朝2
1820年〜1850年 アヘン戦争
1885年〜1895年 日清戦争
1901年〜1911年 清朝末年
1911年〜1916年 辛亥革命
1935年〜1938年 日中戦争
1939年〜1945年 第二次世界大戦
1945年〜1949年 新中国の成立


上記を、わかりやすく簡単に整理するとつぎのようになります。

I.紀元前10000〜前2000年頃まで:新石器時代(素朴社会の時代)

II.紀元前2000年頃〜前221年:都市国家の時代
 (青銅器時代、殷、西周、春秋・戦国時代)

III.前221年〜1911年:帝国(領土国家)の時代
 (秦、漢、魏、晋、隋、唐、五代、宋、元、明、清)

IV.1911年以後:近代化にむけた混乱と近代化



2-2.各部屋の時代を確認する
つぎに、展示会場の各部屋の時代を確認してみます。おもに、つぎのような時代の位置づけになっています。

第1室 西周、戦国、元〜明、宋
第2室 宋
第3室 宋
第4室 唐、五代、宋
第5室 元
第6室 明
第7室 新石器、殷、西周、春秋、戦国、漢、唐
第8室 明、清
第9室 清
第10室 清


新石器時代の宝物は第7室にあります。都市国家の時代の宝物は、第1室と第7室にあります。 第1室と第7室はいくつもの時代にまたがっているので注意しなければなりません。 帝国(領土国家)の時代の宝物については、各部屋ごとに時代を確認しながら見学するとよいでしょう。



3.会場図と宝物を情報のインデックスにする
各宝物(展示物)に、中国の歴史と文化の情報をむすびつけて記憶するとよいです
 
宝物の数々は、インパクトがつよくて印象的なものが多く、パッと見ただけでも記憶にのこりやすいので、このつよい印象と体験をうまくつかっていくのです。特に、立体的な宝物はその効果が大きいです。印象的な宝物は記憶の目印として活用することができ、記憶情報あるいは体験記憶のインデックス・イメージとすることができます

そして、宝物をイメージとしておもいだせば、時代などの情報もおもいだせるという想起のしくみをつくるようにします

このために、会場図(フロアーマップ)と作品リストは必要なので保存しておきます。会場図は、各部屋の空間とそのなかの要素(宝物)をイメージするために有用です。

また、代表的な宝物のイメージはウェブサイトにもでているのでこれも利用します。保存しておくとよいです。
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1647#top

もっとふかく学習したい人は図録を買ってかえってくれば、さらに記憶を深化させることができます。

このような記憶法をつかえば、2〜3時間で効率的に中国史の概要がたのしく理解・記憶できます。そして、この日の体験は一生わすれることができない思い出となります。記憶や学習では、おぼえようおぼえようとウンウンうなっていてもおぼえられません。体験的、印象的に実践した方が手っとりばやくおもしろいですし、それ以上に、自分の心の内面世界をひろげることができ、あらたな発想も生まれやすくなります。


▼ 参考文献
宇都木章監修・小田切英執筆『すぐわかる中国の歴史』(改訂版)東京美術、2012年1月31日
東京国立博物館のミュージアムショップでみつけました。図表が多く、素人にもわかりやすく記述してあります。

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東京都美術館


東京都美術館で開催されている「古代エジプト展」を先日みました。

ニューヨークのメトロポリタン美術館がほこるエジプト・コレクションをまとまった形で紹介する展覧会で、「女王と女神」をテーマに厳選された約200点の至宝が日本初公開されていました(会期:2014年9月23日まで)。

▼ 東京都美術館「メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神」

見どころはつぎのとおりでした。

1 ファラオになった女王 ハトシェプスト
2 古代の女神たちが一堂に
3 王家の女性たちが愛用したアクセサリーやメイク道具


わたしは、音声ガイドとそのリストをつかって見学し、空間記憶法を実践しました。

音声ガイド

音声ガイドリスト



記憶法の手順はつぎのとおりです。

 1.美術館の各階の構造(フロアーマップ)を確認する
 2.各展示物が展示されている場所をおぼえる
 3.音声ガイドリストをみて、各展示物をおもいだす



1.美術館の各階の構造(フロアーマップ)を確認する
まず、美術館の建物の空間的な構造を確認し、おぼえることからはじめます。

今回は、上野公園内にある東京都美術館・企画棟(地下1階・地上1階・2階)が会場でした。これが今回の記憶情報の入れ物(記憶の倉庫)になります。

会場入り口で音声ガイドにもうしこみ、音声ガイドリストをもらいましたが、今回もらった音声ガイドリストにはフロアーマップがついていませんでした。

美術館のなかをしばらくあるいていると、自分がどこにいるのか、建物のなかのどの位置なのか、北はどっちの方向なのかなどがわからなくなることがあります。場所がわからないと空間記憶はできません。そこで役立つのがフロアーマップです。

東京都美術館のウェブサイトを見たところ、「ジュニアガイド」のサイトにフロアーマップがでていました。

20140625_egypt_juniorguide

ジュニアガイド (中央部にフロアーマップがのっている)


これにより、自分があるいたルートを空間的に確認しおぼえることができました。

今後、「古代エジプト展」を見学する方は、事前に、フロアーマップを印刷してもっていった方がよいです。



2.各展示物が展示されている場所をおぼえる
音声ガイドをつかいながら、各展示物を見ていきます。このとき、各フロアーのどこに、どの位置にその展示物があるのか、場所をしっかり確認しおぼえます。

各フロアーの特定の場所に展示物とその情報をむすびつけて記憶するのがポイントです。



3.音声ガイドリストをみて、各展示物をおもいだす
ひととおり見おわったら休憩所にいって、音声ガイドリストを見なおし、1番から順番に、いま見てきた展示物を、それがおいてあった場所とともに順序よくイメージとしておもいだします。どこまで正確にイメージできるでしょうか。

よくイメージできないところは、再度、その場所にいって展示物を見なおします。

展覧会の会場(改札)から一度でてしまうと、再入場できない場合がありますので、地下1階の改札の手前で右にまわり、最初の展示のところにいくようにします。




以上の方法を整理するとつぎのようになります。

1.ファイリングシステム
フロアーマップを利用して美術館の各階の構造を確認しおぼえることは、多数の展示物とその情報を各場所に結合して記憶するための基礎になります。

美術館の建物は、展示物とともにそれらを解説する情報の入れ物(倉庫)ですから、美術館の建物がつくりだす空間は、情報のファイリングシステムのようにして利用できるのです建物は、情報をファイルする大きなファイリングシステムであり、展示物とその情報がそのなかにファイルされているとイメージするのです

美術館や博物館は、重要情報とそれらをたくわえる場所がすでに用意されているので、記憶法の実践のためにとてもむいています。

2.順番
情報を記憶し想起するためには順序があった方がやりやすいです。そのためは、各展示物と情報に順番があたえれれていなければなりません。

順番は、音声ガイドリストに1番から20番まで番号がふられていますので、それをそのまま利用すればよいです

3.想起
情報は、心のなかにただインプットすればよいというのではなく、想起してアウトプットにつなげていかなければなりません。

そこで想起訓練が必要です。ここでのポイントはイメージ想起です。まず、展示物をイメージとして想起して、そのイメージから言語的な詳細情報もひきだすように訓練をします

想起の手段として、音声ガイドリストの作品名がインデックスとして利用できます。これは、インターネットでいうと、キーワードによる検索に相当します




■ 空間と順序を確立して見通しをよくする
このようにして、心のなかに空間と順序を確立できれば見通しがよくなって想起がたのしく簡単にできるようになります。そして、このような体験記憶は心を活性化するために役立ちます。

上記の手順により、記憶がすすむだけでなく、古代エジプトの異空間を比較的短時間で手軽に自分の内面世界にとりこむことができます。

今回の古代エジプトの世界は、われわれ日本人から見るとかなりの異空間であり、普段とはまったくちがう非日常体験をすることができました。このような異空間の体験情報は潜在意識にインパクトをあたえることにもなり、心の活性化に役立つでしょう。




▼ 参考文献

ポーラ美術館のコレクションのなかから、19-20世紀のフランスの風景画を特集して、北部から南部までのフランス各地にわけて紹介、モネと印象派の画家たちの旅20世紀の画家たちの旅、さらに想像の世界の旅に案内してくれる風景画集です。

2007年9月〜2008年3月にポーラ美術館で開催された展覧会の図録を書籍として出版したものです。

画家たちが実際に旅し、えがいた場所によって風景画を分類していて、えがいた場所や土地とのむすびつき、その土地がはたした役割に焦点をあてています。

目次は以下の通りです。

I. パリ近郊 -近代風景画の揺籃
II. パリを離れて -自然との対話
III. 南へ - 光、色彩、エキゾティシズム
IV. 想像の旅

本書は、それぞれの風景画とともにフランスの地図を掲載していて、その風景の場所を地図上で特定できるところに特色があります

フランスに行ったことがある人は旅の記憶を想起しながらたのしむことができ、これから行く人にとってはフランス風景ガイドになるでしょう。

1ページが単位になり、画家・題・地図・解説文・写真・風景画がセットになっていてレイアウト的にもとてもわかりやすい構成になっており、旅をしながら風景を見るように、ページをめくってたのしむことができます。

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情報処理の観点からいうと、風景を見るようにページをめくることは速読法に通じます

地図上の特定の場所にむすびつけてイメージをとらえることは空間記憶法に通じます

風景をえがいたり、想像したりすることは心象法そのものです

いうまでもなく画家がえがいた風景画は、外界の風景をそのままうつしとったものではなく、心のなかに外界を一旦とりいれて(インプットして)、それを編集・加工(プロセシング)、その結果を絵画としてアウトプットしたものです。風景画とは、画家の心のなかを通りぬけてきたものであり、それは画家の情報処理の結果です。情報処理の観点からみるとこれは心象法にあたり、 画家はいわば「心象法のプロ」です。

このように本書は、旅によって、速読法や記憶法や心象法などに総合的にとりくめることをおしえてくれます

わたしたちが実際に旅をしたときも、風景を見て、写真をとったりスケッチをしたり、また、印象的な風景を記憶して心のなかにとりこんだり、あるいは自由に想像の世界をふくらませたりして、内面世界を構築していけばよいのです。本書を味わい参考にして、あるいは実際の旅をして、心の世界をさらにゆたかにしていきたいものです。


国立新美術館の企画展「イメージの力 -国立民族学博物館コレクションにさぐる-」を先日みました。

この企画展は、「世界の本質や構造にかたちや色を与えて視覚化することは、人間に与えられた根源的な資質のひとつ」ととらえ、「イメージの活力を体感することによって、人類の文化に普遍的な『イメージの力』を堪能」するという企画でした。

全体は以下の4章から構成されていました。

第1章 みえないもののイメージ
「1-1 ひとをかたどる、神がみをかたどる」では、自らの身体に似せて神がみをイメージしていました。

「1-2 時間をかたどる」では、物語をイメージにしていました。

第2章 イメージの力学
「2-1 光の力、色の力」では、すでにある物に、あらたな光と色をあたえイメージを強化していました。

「2-2 高みとつながる」では、地上と上方世界とをつなぐことをイメージしていました。

第3章 イメージとたわむれる
よろこびの感情をイメージにしていました。

第4章 イメージの翻訳
「4-1 ハイブリッドな造形」では、外の世界のイメージをこちらにとりこむことであらたなイメージをえがいていました。

「4-2 消費されるイメージ」では、ブリキやアルミ缶を素材にしてあらたなイメージをつくっていました。


このように、何を素材にしてどのようなイメージをえがいたか、また、どのようにしてイメージをふくらませたのかの具体例を見ることができました。

わたしたちが何かをイメージし想像するとき、まったくのゼロからスタートすることはなく、外界からえられた素材を元にして、それをふくらませたり変化させたり発展させたりしてイメージしています。

したがって、イメージには素材がまず必要です。それは過去の体験から(記憶から)もってくることもできますし、現在の感覚体験を素材とすることもできます。

そしてわたしたちは、心のなかにインプットされた情報(素材)をそのままアウトプットするのではなく、イメージ能力をつかって、情報を編集・加工・増幅させて、つまり情報処理をしてアウトプットします。イメージ能力(心象力)は、情報処理をすすめるための基本的な能力であるわけです

今回の企画展などを利用して、まず、心のなかに素材をインプットすることを心がけ、次に、素材を元にしてイメージをふくらませる練習をするとよいでしょう。

東京国立博物館の特別展「栄西と建仁寺」展を先日みてきました。

今回の特別展は、栄西禅師の800年遠忌にあわせ、栄西ならびに建仁寺にゆかりの宝物を一堂にあつめた展覧会でした。俵屋宗達の国宝「風神雷神図屏風」を筆頭に、山内の塔頭につたわる工芸や絵画の名品を見ることができました。

近年の特別展では、音声ガイドのサービスを提供するのが一般的です。わたしも音声ガイドを利用して見学しました。その分野に関しての初心者・入門者は音声ガイドを利用した方が絶対によいです。今回は、女優の中谷美紀さんがナビゲーターを担当していました。

音声ガイドを利用するには別途料金(515円/税込み)が必要です。音声機器をかりると同時に、「音声ガイドリスト」をもらえます。これには、ガイド番号・展示期間・作品名・作者・時代(世紀)・フロアーマップが掲載されています。

140514 栄西と建仁寺 特別展

フロアーマップには、ガイド番号の位置(その作品の展示場所)が明確にしるされていて、記憶法やイメージ訓練(心象法)の観点からは、この「音声ガイドリスト」がとても重要な役割をはたします

1.展示を見る
音声ガイドをききながら、展示室内の立体空間(3D空間)のなかをゆっくりあるいて、各作品(展示物)を3Dイメージとして体験的に心のなかにインプットしていきます。

2.作品を空間的に想起する
ひととおり見おわったら休憩所へ行き、「音声ガイドリスト」にのっているフロアーマップと作品リストを1番から順に見て、いま見てきた作品をイメージとしておもいだします。

「音声ガイドリスト」がかなり正確にできているので、フロアーマップと作品リストを見ればイメージを簡単に想起することができます。フロアーマップは記憶想起(情報検索)のためにとても有用です。イメージが想起できたら、中谷美紀さんの声(ナレーション/何を話していたか)もおもいだすようにします。

3.言語情報から想起する
そして今度は、フロアーマップは見ないで、リスト(作品名・作者)だけを見て、イメージが想起できるかどうかやってみます。今度は、言語情報だけからイメージをおもいおこすのです。やってみるとややむずかしいです。

フロアーマップ(空間配置図)が記憶想起のためにいかに有用であるかがわかります

4.再確認する
イメージがふたしかな作品については、再度、展示物がある場所にいって確認します。

5.「音声ガイドリスト」は保管しておく
こうして、空間的な位置、作品、中谷さんの話、展示解説のすべてを1セットにして、「音声ガイドリスト」にむすびつけて記憶しておけばよいです。「音声ガイドリスト」はもちかえり保管しておき、必要があればとりだして情報をまた想起します。

6.もっとふかく勉強したい人は図録を買う
なお、もっとふかく勉強したい人は、博物館発行の図録を買ってかえります。いつでも、イメージとその解説を再確認することができます。


▼東京国立博物館
tnm.jp 

東京国立博物館のガイドブックです。

東京国立博物館は、上野公園内の大きな敷地内に、本館・表慶館・法隆寺宝物館・東洋館・平成館の5つの展示館が分布しています。

ガイドブックをあらかじめ見てから東京国立博物館を見学すると体験をふかめることができます。 出かける前に本書を見て、今日は、ここを見ようと決めてから出かけるとよいです。よほど時間がある人は別として、ガイドブックを見ないで大きな博物館をやみくもにあるきまわるのは効果的ではありまません。

本書の第一部では、各展示館について概説してあります。

■ 本館
2階「日本美術の流れ」(フロアーマップ:13ページ)
・第1展示室:日本美術のあけぼの(縄文・弥生・古墳)、仏教の興隆(飛鳥・奈良)
・第2展示室:国宝室
・第3展示室:仏教の美術(平安〜室町)、宮廷の美術(平安〜室町)、禅と水墨画(鎌倉〜室町)
・第4展示室:茶の美術
・第5-6展示室:武士の装い(平安〜江戸)
・第7展示室:屏風と襖絵(安土桃山・江戸)
・第8展示室:暮らしの調度(安土桃山・江戸)、書画の展開(安土桃山・江戸)
・第9展示室:能と歌舞伎
・第10展示室:浮世絵と衣装(江戸)

1階「ジャンル別展示」(フロアーマップ:25ページ)
・第11展示室:彫刻
・第12展示室:彫刻と金工
・第13展示室:陶磁、漆工、刀剣
・第14展示室:工芸
・第15展示室:民俗資料(アイヌ・琉球)
・第16展示室:歴史資料
・第17室:休憩室
・第18展示室:近代美術(絵画・彫刻)
・第19展示室:近代工芸

■ 法隆寺宝物館(フロアーマップ:45ページ)
1階
・第1展示室:灌頂幡(かんじょうばん)
・第2展示室:金銅仏・光背・押出仏
・第3展示室:伎楽面(ぎがくめん)
2階
・第4展示室:木・漆工
・第5展示室:金工
・第6展示室:絵画・書跡・染織

■ 東洋館(フロアーマップ:49ページ)
・第1展示室:中国彫刻、インド・ガンダーラ彫刻
・第2展示室:銅鼓・中国彫刻
・第3展示室:エジプト・西アジア、 東南・南アジアの美術と考古
・第4展示室:中国考古
・第5展示室:中国工芸
・第6展示室:画像石
・第7展示室:画像石
・第8展示室:中国の絵画、中国の書跡
・第9展示室:朝鮮考古
・第10展示室:西域美術

■ 平成館(フロアーマップ:58ページ)
1階:
・第1展示室:考古
・第2展示室:企画展示
2階:特別展示室


(注)展示の最新情報はウェブサイトで確認できます 東京国立博物館

博物館をつかって、記憶法やイメージ訓練(心象法)などの情報処理をすすめるには次の方法をつかうと効果的です。

1.空中写真を見る
博物館がある敷地全体を上空から撮影した全体写真をよく見て(インプットして)、建物の分布・配置をおぼえます。本書では、90-91ページに空中写真がのっています。Google Earth をつかってもよいです。

2.平面図(地図)を見る
博物館がある敷地の平面図(地図)を見て(インプットして)、建物の配置を確認します。本書ですと67ページに平面図がのっています。

3.フロアーマップを見る
博物館の建物のフロアーマップを見て(インプットして)、各展示室と各展示分野の分布・配置を確認します。本書では、 13ページ(本館2階)、 25ページ(本館1階)、 45ページ( 法隆寺宝物館)、 49ページ(東洋館)、 58ページ(平成館)にフロアーマップがのっています。

4.展示室を見る
各展示室に行って、その展示室全体の空間の様子をよく見ます(インプットします)。

5.展示物を見る
展示室で展示物を見て、その展示室内のどこに何が展示されているかを空間的にとらえて記憶します。各展示室内の位置にむすびつけてそれぞれの展示物をイメージとして記憶します。 展示物はほとんどが立体ですので、インプットされるものも立体イメージ(3Dイメージ)になります。

6.解説をおぼえる
あわせて、各展示物の解説の要点も記憶します。

7.あらたなイメージのための素材をえる
あわせて、各展示室内で、あらたなイメージをえがくために役立ちそうな素材をさがします。

8.想起する
ひととおり見終わったら、休憩室(休憩所)に行って、各フロアーマップを見なおし、各展示室の空間と各展示物をイメージとして順次想起します。

9.再確認する
よくおもいだせない場所については、もう一度そこに行って確認し、再度インプットします。


以上は、記憶法とイメージ(心象法)の訓練であり、全体写真・平面図・フロアーマップは、記憶とイメージをえがくためのベースとなっています。

ここでは、最初から理屈でとらえるのではなく、まず、イメージをインプットすることが重要です。

第1に、敷地内における各建物(各展示館)の配置(敷地内の位置)、第2に、各建物内における各展示室の配置(建物内の位置)、第3に、各展示室内における各展示物の配置(展示室内の位置)をそれぞれ空間イメージとして記憶します。そして、各展示物にむすびつけてその解説や関連情報を記憶していくわけです。

こうして次のような階層構造ができあがります。

 上 空中写真
 | 平面図(地図)
 | フロアーマップ
 | 展示室の空間イメージ
 下 展示物のイメージと解説

上部構造ほど、細部は見えませんが全体が見えます。下部構造では、全体は見えませんが細部が見えます。

たとえば、武士について理解し記憶したいとおもったら、空中写真と平面図で本館の位置を確認し、本館のフロアーマップを見て、2階第5-6展示室に行きます。展示室の空間全体を見てから、各展示物の前に行きます。展示室の空間内のどこにその展示物があるのか、場所を確認しおぼえます。そして展示物をよく見て、その解説を読みます。

さらに、その分野をふかめたいとおもったら、武士に関する適当な本を第5-6展示室にもっていき、その場で読んで、第5-6展示室にむすびつけて書名や要点を記憶します。

こうして、第5-6展示室は、武士に関する情報と記憶の倉庫になります。

そして、武士についておもいだすときは、まず、第5-6展示室の空間をおもいだせばよいことになります。空間から言語情報もひきだすことができます。

また、たとえば、「中国考古」について学習したいとおもったら、東洋館の第4展示室に行って同様なことをすればよいわけです。

このようにして、第一に、つかえる知識を体系的に増やし、第二に、あらたなイメージをえがくための素材がえられるように訓練していけば、博物館は単なる宝物の倉庫であることをこえて「情報の宝庫」としてつかえます

しかも、机のうえで本を読んでいるのとはちがい、体をうごかしながら体験的にとりくめるので、体験情報が心のなかにファイルされ、それは一生の思い出としてのこすことができます。


文献:新潮社編『こんなに面白い東京国立博物館』 2005年04月21日

▼ DVDはこちらです

仏像の見方・たのしみかたがよくわかる本です。

仏像に関する本は多数ありますが、この本はとても見やすく、わかりやすいです。1ページあるいは見開き2ページをつかって写真とともに簡潔に解説されています。わかりやすくつたえるためにはレイアウトも重要だということを再認識させてくれます。
 
第1章「やさしい仏像の見方」では、如来、菩薩、明王、天部、羅漢・高僧についてそれぞれ説明しています。

 
1)如来(にょらい)とは、真理の世界から来た者の意で、仏陀と同意です。釈迦如来、阿弥陀如来、弥勒如来、薬師如来、毘盧遮那如来、大日如来などです。

2)菩薩(ぼさつ)とは、自らの覚りを求めるとともに、人々の救済を願い、福徳をもたらす仏をさしています。弥勒菩薩、聖観音、十一面観音、不空羂索観音、千手観音、如意輪観音、馬頭観音、准胝観音、文殊菩薩、普賢菩薩、虚空蔵菩薩、地蔵菩薩、勢至菩薩、日光菩薩・月光菩薩などです。

3)明王(みょうおう)とは、如来の教えに従わないものたちを忿怒相(ふんぬそう)の恐ろしい姿で懲らしめ、教化しようとする、密教の仏たちの総称です。不動明王、愛染明王、五大明王、孔雀明王、大元帥明王などです。

4)天部(てんぶ)とは、バラモン教やヒンズー教の神々が仏教に取り入れられたものの総称で、仏やその教えを護り、人々に現世利益をもたらす役目があります。梵天、帝釈天、金剛力士、八部衆、二十八部衆、四天王、毘沙門天、十二神将、吉祥天、弁財天、鬼子母神などです。

5)羅漢・高僧(らかん・こうそう)は、釈尊の高弟や最高位の僧、宗派の開祖など、仏教の普及に深くかかわった人々です。十大弟子、十六羅漢、 無著・世親、達磨大師、聖徳太子、義淵、行基、鑑真、空海、最澄などです。


情報処理・問題解決の観点からは、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、普賢菩薩(ふげんぼさつ)、虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)に注目するとよいでしょう。

文殊菩薩は「智を象徴する菩薩」です。それに対して普賢菩薩は「行(行動)の菩薩」です。虚空蔵菩薩は「記憶力をさずける菩薩」です。虚空(こくう)とは「何もさまたげるものがない空間」の意であり、記憶は、このような広大な空間をつかっておこないます。空間記憶法は大昔から実践されていたわけであり、注目しなければなりません。

本書をつかって、 インドから日本までいたる東洋の広大な精神世界を、仏像たちを通して具体的に認識することができます。精神的・抽象的なことがらを、仏像を見ることにより、視覚的にとらえなおすことができるのです。

また、本書全体を心の中にインプットすることにより、東洋の精神世界全体の仏像による見取り図(スケッチ、インデックス)が心の中に生じます。抽象的なことがらは記憶しにくいですが、仏像はとても記憶しやすくできています。活用していきたいものです。


文献:熊田由美子監修『仏像の辞典』成美同出版、2014年2月20日

 
仮説を形成することは発想法のなかでもとくに本質的な行為です。

哲学者の梅原猛さんは、縄文人がつくった土偶について大胆な仮説をうちだしています(注)。仮説をいかに形成するかという点で参考になります。


縄文時代の土偶は縄文文化のかがやかしき遺物ですが、それが何を意味するのかは謎でした。梅原さんは、まず、すべての土偶に共通する事実を枚挙し、つぎのようにまとめました。


1「土偶は女性である」
2「土偶は子供を孕んだ像である」
3「土偶は腹に線がある」
4「土偶には埋葬されたものがある」
5「土偶はこわされている」


そして、これらにもとづいて次のような考察をしました。


1と2から、土偶は、子供の出産にかかわっているものであると考えられる。

3から、 妊娠した女性が死んだとき、腹を切って胎児をとりだしたのではないだろうか。

4から、死者の再生をねがって埋葬したのではないだろうか。

5から、あの世はこの世とあべこべの世界であるという思想にもとづいて、この世でこわれたものはあの世では完全になるのであるから、こわれた土偶はあの世へおくりとどけるものとしてつくられたのではないだろうか。 土偶は死者を表現した像であり、死者の再生の願いをあらわしていると考えられる。土偶の閉じた目は再生の原理を語っている。


以上から、「妊娠した女性が死んだとき、腹を切って胎児をとりだし、その女性を胎児とともに土偶をつけて葬ったのではないか」となり、そして最後に、土偶は、「子をはらんだまま死んだ妊婦と腹の子をあわれんでの、また、再生をねがっての宗教的儀式でつかわれた」という仮説を形成しました。

このように、土偶の謎をときあかすためには、すべての土偶に共通する事実を枚挙し、それらの事実すべてを合理的に説明しうる仮説をかんがえればよいわけです。

梅原さんは、仮説形成の仕事をつねにしています。仮説形成の観点から梅原さんの著作に注目していきます。


▼ 注
梅原猛監修『縄文の神秘』(人間の美術1)学習研究社、1989年11月3日(初出)
梅原猛著『縄文の神秘』(学研M文庫)学研パブリッシング、2013年7月9日
 
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「モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新」(国立西洋美術館)(注)を先日みました。

風景にそそがれたモネの「眼」の軌跡を、絵画空間の構成という観点から、他の作家の作品との比較しながらたどります。国内有数のモネ・コレクションをほこる国立西洋美術館とポーラ美術館の共同企画展です。

わたしはいつものように、館内をゆっくりあるきながら、まず、展示されているすべての作品を一気にみてしまいます。

そして次に、気に入った一枚の絵の前に行き、数分をかけてその絵を今度はじっくりとみつめます。そしてイメージトレーニングに入ります。今回は、クロード・モネ『セーヌ河の日没、冬』(1980年 ポーラ美術館蔵)を選択しました。

* 

目の前にひろがるその風景の全体をすっぽり心の中にいれたあと、夕日と夕焼け、それらがつくりだす陰影 、河・水・岸・対岸・木々、雲がつくりだす模様など、各要素の形と大きさをひとつひとつ丁寧にみていきます。

次に、今度は目を閉じて、今みた風景と各要素をありありとおもいだしてみます。自分自身の心の中で、モネの風景をイメージし、再現しとらえなおしてみるのです。

そして目を閉じたまま、今度は絵の世界の中へ入りこんでしまいます。わたしは、セーヌ河の河岸を自由にあるきまわり、そして空にまいあがります。上空からみると、みえなかったところも今度は自由に想像してみることができます。

東西南北からセーヌ河がうかびあがります。対岸の街並はどこまでもひろがっています。夕日はしだいにしずんでいき、夕焼け色のうつくしい世界がひろがります。その後、色彩感ゆたかな空間だけがのこり要素はなくなってしまいました。

そして、ふたたび美術館にもどってきます。

* 

このようなイメージトレーニングはとてもたのしい体験です。

対象の中に入りこみ、その世界を立体的にみて体験することにより、風景は、より鮮明に感動をともなってみえるようになります。 視野のひろがりのなかのそれぞれの場所でそれぞれの要素を記憶することもできます。

こうして、この日の美術展での体験は、一生に一度の、かけがえのない思い出となります。この日この場所をわすれることはもうありません。

このようなイメージトレーニングは、眼力の訓練でありますが、記憶法や能力開発の訓練にもなっています。


注:
「国立西洋美術館×ポーラ美術館 モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新」
会期:2013年12月7日(土)~2014年3月9日(日)


▼ 参考文献:高橋明也監修『モネと画家たちの旅 -フランス風景画紀行-』西村書店、2010年1月15日

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遠くからみて、近くでみて、離れてみる - 「モネ展」-
見る仕組みを知る - 藤田一郎著『「見る」とはどういうことか』-

 

151212 美術・言語・音楽

美術は視覚あるいは目の芸術であり、音楽は聴覚あるいは耳の芸術です。

これらに対し言語あるいは文学は、文字を見ることもできるし、音で聞く(あるいは音読する)こともできます。このような観点からは、言語は、美術と音楽との境界領域に位置づけることができます。
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