発想法 - 情報処理と問題解決 -

情報処理・学習・旅行・取材・立体視・環境保全・防災減災・問題解決などの方法をとりあげます

タグ:美術

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写真1 第3展示室「新しい生命観 - 宇宙人はいるのか?」
パトリシア=ピッチニーニ《ザ・ルーキー》2015年
(平行法で立体視ができます)
「宇宙と芸術」展は宇宙をイメージするよい機会です。時間・空間・暦・フラクタルをキーにしてイメージするとおもしろいです。

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浦井正明著『上野公園へ行こう 歴史&アート探検』をよんで、訪問先を事前に選択してから上野公園をおとずれれば、現地での体験をふかめることができます。
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「若冲展」で『動植綵絵』(どうしょくさいえ)をみて、梅原猛著『人類哲学序説』をよむと、「草木国土悉皆成仏」(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)の現代的な意味(解釈)がわかります。イメージをみてから言語で確認するという順序がおすすめです。
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東京都美術館(入り口)

若冲展に行って個々の作品を味わうと同時に、会場の三次元空間の中に自身をくみこんでみると、動植物が共生する生態系の再現空間を体験することができます。

東京・上野の東京都美術館で「生誕300年記念 若冲展」が開催されています(注1)。生誕300年を記念して、初期から晩年までの若冲の代表作がかつてない規模で結集しています。若冲(1716-1800)は、18世紀(江戸時代中期)に京都で活躍した画家です。続きを読む

自分にとって居心地のよい場所に身をおくとあらたな情報処理がすすみアイデアが生まれやすくなります。


"Asahi Shinbun Degital &" で「アイデアの生まれるところ」という記事を特集していました。


デザイナーの人たち10数人に、「あなたにとって、アイデアの生まれるところはどこですか?」とインタビューしています。アイデア・着想・ヒント・イメージなどはどこで生まれているのか。一箇所にじっとして仕事をしているのではなく、「アイデアの生まれるところ」をデザイナーたちはそれぞれにもっているようです。


街を歩くのはここ2~3年の習慣で、コレクションに関わることを整理するため。(中略)情報があふれかえっている環境から距離を置き、街を歩きながら思考を巡らす中でアイデアを具現化していくことが多いんです。(木村晶彦さん)

博物館で見聞するものは、服作りのアイデアにつながります。たとえば、葉っぱの形や葉脈の模様はテキスタイルのディテールに。動植物の造形的な部分は、服のフォルムに活かされることもあります。もうひとつ、重要なインスピレーションは色彩。(中略)植物の色や貝の色などの自然の色やグラデーションは美しく、魅力的ですね。(廣川玉枝さん)

僕は自然豊かな岐阜県・高山市で生まれ育ちましたから、幼少期の原風景に似た環境に安堵(あんど)感を抱くのかもしれませんね。自然の中に身を置くことで、都会の喧噪(けんそう)や日々の活動から距離をとって、無心の状態で自分を見つめ直すことができます。(研壁宣男さん)

この場所に自分を置くことで体感できる開放感や感動は、ものづくりの動機や原動力にもなります。東京のギャラリーの中でもこれだけ巨大で、なおかつモダンで何もない空間というのは他にあまりないですよね。独特な抜け感と空気感があって、気持ちさえも解き放してくれる自由な感覚があるけれど、白い壁の存在感にはそれを抑制するような絶妙な緊張感がある。(八木奈央さん、勝井北斗さん)

パリから東京に戻ってきてすぐの頃ふらっと初めて科学博物館に来たとき、ふつふつとインスピレーションがわいてきたんです。自分のなかに蓄積しておけば、半年後か1年後、あるいはもっと何年も経ってから、コレクションのイメージのひとつとして浮上してくるかもしれない。この博物館に限らず、気になった場所には繰り返し行くことが多いんです。(堀内太郎さん)

インターネットの普及によって、“場所”というものが意味を持たなくなっているような気がしますが、人のアイディンティティーとしての場所は絶対に取り替えられない。自分の身体で場から感じる多くのことは、いつもアイデアのヒントになりますね。(堀畑裕之さん、関口真希子さん)


このようにアイデアが生まれる特定の場所がそれぞれにあるようです。人がいればどこでもよいということではありません。

人を、情報処理をする存在としてとらえなおしたとき、情報は環境から人へインプットされ、人から環境へアプトプットされます。つまり情報処理は人間が単独でできるものではなく、人間と環境とがセットになってはじめて可能になります。情報処理は、人間と環境との "共同作業" といってもよいです(下図)。

16227 アイデアの生まれるところ
図 情報処理のモデル

 
したがって場所を変えれば環境が変わり、インプットされる情報(刺激)も変わります。情報処理も普段とはちがったものになり、アウトプットもあたらしいものになります。

そうだとするならば、どのような場所に自分の身をおくかが重要になってきます。つまりは自分自身にとって居心地のよい場所に行けばよいのです。自然の中でも街中でも旅先でも、自分にとって居心地のよい場所は誰にでもあるとおもいます。もしなければこれからさがせばよいではないですか。

そのような居心地のよい場所にはもう一度 行ってみる。滞在してみる。そしてくりかえして何回も行くようにします。自分の生き方や自分の道をもっている人は自分の居場所をかならずもっているものです。居場所のある人は生きていきます。居場所がなくなると生きていくのが困難になります。

このように居場所はとても大事です。居場所を変えてみる。居心地のよい場所に身をおいてみるという方法はとても簡単なことですが、あらたな情報処理をすすめアイデアを生みだすために大きな効果がある方法といえるでしょう。

左右の眼は光をうけるセンサーであり、脳は色を知覚するプロセッサーです。『Newton』2015年 12 月号では、シリーズ「感覚のふしぎ 第2回」として- 「色覚のしくみ」を掲載しています。


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わたしたちの眼に外界からとどいた光は、眼球のレンズ(角膜と水晶体)を屈折しながら透過し、眼球の内部にはりついている「網膜」に到達します。

網膜には、「錐体細胞」(すいたいさいぼう)とよばれる細胞があり、これが色覚のセンサーになっています。錐体細胞は網膜に約600万個あります。

錐体細胞は光を吸収する「視物質」をもち、この視物質に光が吸収されると電気信号が生じます。視物質は、光を吸収する低分子である「レチナール」と細胞内に信号をつたえる機能をもつたんぱく質分子である「オプシン」からできています。

分子構造のちがいにより3種類のオプシンがあり、錐体細胞は次の3種類に分類されます。それぞれに吸収しやすい次のような光の波長があります。
  • L錐体細胞:565ナノメートル前後
  • M錐体細胞:540ナノメートル前後
  • S錐体細胞:430ナノメートル前後

光にはさまざまな波長があり、わたしたちの眼がとらえられる光は約400ナノメートルから約800ナノメートルの範囲です。1ナノとは100万分の1ミリのことです。


錐体細胞で生じた電気信号は、基本的には「双極細胞」にまずつたわり、さらに「神経節細胞」へつたわり、神経節細胞が電気信号を脳へおくりだします。

左眼の網膜の鼻側半分からの信号は右脳側へ、右眼の網膜の鼻側半分からの信号は左脳側へ、左眼の耳側半分からの信号は左脳へ、右眼の耳側半分からの信号は右脳へそれぞれおくられます。鼻側半分の信号はクロスして脳内の中継地点である「外側膝状体」(がいそくしつじょうたい)におくられます。この構造を「視交叉」といいます。

そして外側膝状体は一次視覚野へ信号をおくります。一次視覚野から二次視覚野など、ヒトでは少なくとも16種の領域に信号がつたわります。そのうちの四次視覚野やそれより先の領域が色覚の中枢だとかんがえられています。

こうして脳は、電気信号を処理してカラフルな色を知覚します。


以上から、わたしたちの眼はセンサー、脳はプロセッサーであることがわかりました。センサーとプロセッサーの連携によりわたしたちは色を知覚していたのです(下図)。


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図 左右の眼が光をうけ、脳が色を知覚する


注意点は、光そのものには波長があるだけで色そのものはついていなということです。光の波長が電気信号に変換されて脳におくられて、脳が色をつくりだしているのです。実体は波長(波動)であり、プロセシングにより波長のちがいを色で区別して知覚しているということです。


なおメダカ(魚類)・カエル(両生類)・カメ(爬虫類)・カラス(鳥類)などは、ヒトが知覚できない紫外線を知覚することができます。紫外線とは、紫色に感じられる400ナノメートルよりもさらにみじかい波長の光です。

このことから、外界に存在する光はおなじでも色覚のシステムがことなると見える世界はことなってくるということがわかります。この点に気がつくことも重要なことだとおもいます。わたしたちもほかの動物たちも独自のプロセシングの結果として世界を認知しているということです。



▼ 引用文献
「色覚のしくみ」Newton, 2015年12月号, ニュートンプレス, 2015年12月7日発行
Newton(ニュートン) 2015年 12 月号 [雑誌]


▼ 関連記事
情報処理をすすめるて世界を認知する -『感覚 - 驚異のしくみ』(ニュートン別冊)まとめ -

感覚器をつかって情報をインプットする 〜 岩堀修明著『図解・感覚器の進化』〜
錯視を通して情報処理を自覚する - 杉原厚吉著『錯視図鑑』-
3D世界を知覚する仕組みを知る - 藤田一郎著『脳がつくる3D世界 立体視のなぞとしくみ』-
わたしたち人間は情報処理をする存在であることに気がつく
総合的に丸ごと情報をインプットする






アウトプットをしようとおもってインプットすると、インプットがよくできるだけでなくプロセシングもすすみます。

NHKの美術番組を見ていたら、美術館で絵を見るときの一つの見方として、「どの作品を買おうかとおもいなが見ると見方がとてもふかまる」という方法を提案していました。たとえば「自分のオフィスに書斎に寝室にどの絵をかざろうか」とかんがえながら作品を見ていくのです。もちろん、本物は買えないのでポスターや絵葉書や模写を買うことになるのですが。

人間行為を〈インプット→プロセシング→アウトプット〉ととらえた場合、美術館で絵を見ることはインプットにあたります。どの作品を買うか心のなかで判断することはプロセシングです。すると買うという行動はアウトプットとしてとらえることができます。

アウトプットをしようとおもってインプットをするとインプットがよくできるだけでなく、プロセシングもすすむというわけです。

151213 アウトプットをしようとおもって
図 アウトプットをしようとおもってインプットする

* 

たとえばどの分野でも昔からよくいわれることに、「他人におしえてみると自分自身の理解がすすむ」ということがあります。「おしえる」というアウプットを想定しながらが勉強(インプット)するとプロセシングがいちじるしくすすみます。

わたしは、インド料理がすきで自分でつくったりもするのでインド料理のレシピ本を先日みていました。このときも、何をつくろうかとおもいながら見ていたので本の内容がとてもよく理解でき記憶にものこりました。しかしほぼ同時に読んだフランス料理の本は興味はあったのですがほとんど記憶にのこりませんでした。なぜならフランス料理はつくろうとはおもっていないからです。

あるいはブログやツイッターやフェイスブックなどにどんな記事を書こうかとおもって情報をインプットしていると、インプットとプロセシングが通常よりもはるかによくすすみます。わたしはこれをつねに実践しています。

あるいはブログやツイッターやフェイスブックなどにどんな写真をアップしようかとかんがえながら撮影をしているとよい写真が撮れるようになります。これなども多くの人々が経験していることです。

以上から、何かを生み出そうアウトプットをしようという意識をはじめからもって見たり聞いたり読んだりすると情報処理は一層すすむということがわかります。


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東京国立博物館・平成館1階の考古展示がリニューアルされました。展示品が一新されただけでなく、展示ケースのガラスのうつりこみがなくなり大変みやすくなりました。考古ファンの方は必見でしょう。

ギャラリートーク「縄文土器の見方」に参加しました。

土器をみて縄文人の当時の生活を想像することはとてもたのしいことです。

また文様の割り付けがよくできている土器とそうでない土器があるそうです。仙台湾周辺の縄文土器はいつの時代でもよくできているそうです。よくできた文様は、つくりはじめる前に割り付けをよくかんがえていたということです。

縄文人は自然環境と共生してくらしていたので環境保全という観点からも興味がわいてきます。


▼ 東京国立博物館
平成館




▼ 関連記事
全体像をイメージしてから作業を実施する - 東京国立博物館・考古展示(3)-




美術館や博物館をめぐることは海外旅行の大きなたのしみのひとつです。体験をふかめ思い出をつくるためには、ガイドブックで全体をまず概観してから、気に入った作品をえらびだし、それらをじっくり鑑賞するようにするとよいです。

具体的にはつぎのようにします。

  1. 事前に開館時間をしらべる。
  2. 混んでいない時間を見はからって行く。できれば美術館・博物館のそばに泊まるとよい。バチカンやウフィツィなど、切符を買うだけのために数時間も行列しなくてはならないことがある。
  3. 美術館の売店に行って、ガイドブックを作品を見る前に買う。大きな美術館なら日本語版を販売している。
  4. その美術館に展示されている作品全体をガイドブックで概観する(注)。
  5. じっくりみたい作品、目的の作品を決め、それがある部屋の位置をしらべる。
  6. そこに行ってじっくり鑑賞する。 
  7. オペラグラスを持参し必要に応じて利用する。巨大な空間などでは威力を発揮する。
  8. 美術館の食堂や売店は町のなかのものよりも質が高いので積極的に利用する。


美術館・博物館めぐりは海外旅行の重要な目的のひとつです。体験をふかめ思い出をつくるためには、すべてを見ようとはせずに対象をしぼりこむことが大切です。その方が印象にのこります。旅行では思い出づくりが大事です。

そのためにはガイドブックで全体をまず概観してから目的の作品をさだめ、その作品を時間をかけてじっくり鑑賞する方法をとるとよいです。

(1)展示作品全体を概観 →(2)対象をしぼりじっくり鑑賞

概観は、ガイドブックなどをつかってあまり時間をかけずに短時間でおこなえばよいです。短時間でおこなってこそ概観ができます。時間をかけると大局よりも詳細が見えてきます。

短時間であっても概観はとても重要な段階です。これがないと現地で対象がさだまらず、ひろくうすいぼやっとした体験でおわってしまいます。

何事も、大局を見てから局所に入るようにするとうまくいくとおもいます。 


▼ 注
日本にいるときに、インターネットや手に入るガイドブックであらかじめ概観しておいてもよいです。

▼ 参考文献
野口悠紀雄著『「超」旅行法』(第9章「個人旅行での美術館巡り」)新潮社、1999年11月25日
Amazon:「超」旅行法 
楽天:【中古】 「超」旅行法 /野口悠紀雄(著者) 【中古】afb




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異国に行って日常を見なおす - 野口悠紀雄著『「超」旅行法』(1)-
旅先で体験をふかめる -『「超」旅行法 』(2)-
空の旅をたのしむ - 『「超」旅行法 』(3)-
レストランで一人で食事をたのしむ -『「超」旅行法 』(4)-
ガイドブックで概観してから、気に入った作品をじっくり鑑賞する - 海外の美術館・博物館めぐり /『「超」旅行法 』(5)-
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東京国立博物館・表慶館

特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」が東京国立博物館で開催されています(会期:2015年5月17日まで、注1)。

今回は、第2展示室「釈迦の生涯」にあった「四相図」(しそうず)に注目してみます。物語と造形と場所とを簡潔にむすびつけた例として参考になります。

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「四相図」は、グプタ朝で花ひらいたサールナート派の作例だそうです。釈迦の生涯から代表的な4つの場面(① 誕生から出家、② 降魔成道、③ 初転法輪、④ 涅槃)をえらんで下から上にむけて配置されています(注2)。

① シッダールタ太子の誕生から出家までの場面である。向かって右にはマーヤー夫人がおり、右脇には生まれ出た子を受けるインドラ(帝釈天)があらわされる。その向かって左方には縦長の空間をつかって七歩を歩むシッダールタ太子が配される。左下には白馬カンタカにのって出家のために城を抜けだす様子がみられる。

② 降魔成道であり、釈迦の右脇に魔王マーラーが、マーラーの右脇と釈迦の左脇には、悟りをさまたげようと誘惑にやってきた魔王の娘3人がいる。

③ 初転法輪であり、椅子に腰かけて説法印をむすぶ姿がみられる。

④ 涅槃の場面であり、寝台上に横たわる釈迦が全体をしめくくっている。

このように釈迦の物語を造形にあらわしました。さらに興味ぶかいのは、4つの場面それぞれが特定の場所にむすびつけられていることです。つぎのようになっています。

① ルンビニー
② ボードガヤー
③ サールナート
④ クシナガラ

これらは四大聖地として原始仏典にも説かれ、その巡礼が推奨されています。

物語の場面をイメージ化して場所にむすびつけることにより、4つの聖地を地図上で確認すれば釈迦の生涯を一望できることになります。時系列の物語をイメージでとらえ、さらに場所でとらえることができるのです。時間的な流れを視覚的空間的にとらえなおすことができるというわけです。

150519 四大聖地
四大聖地の位置(Google マップ)


地図上(地球上)の特定の場所に特定の情報をむすびつけて記憶したり処理する方法はプロセシングの方法としてとくに有用です。旅行法としても活用できます。仏教の聖地をめぐる旅もこのようなことを意識しながらおこなうとより充実したものになるとおもいます。



▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

▼ 注2
東京国立博物館・日本経済新聞社・BSジャパン編集『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』2015年3月17日、日本経済新聞社発行
(展示会場は撮影禁止のため図録の写真を撮った。) 

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インド仏教美術をみる - 東京国立博物館・特別展「インドの仏」(1) -
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各作品の制作年代を年表でみる - 東京国立博物館・特別展「インドの仏」(4) -
情報処理の3場面「大観→並列→統合」を実践する - 東京国立博物館・特別展「インドの仏」(5) - 
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物語とイメージと場所をむすびつける - 東京国立博物館・特別展「インドの仏」(7)「四相図」-

時間と空間を往復する - 物語から場所へ、場所から物語へ -

世界遺産で仏教伝来の足跡をたどる -『世界遺産で見る仏教入門』-
ブッダの生涯と時代的背景を理解する - 中村元著『ブッダ入門』-
都市国家の時代の末期を検証する - 中村元著『古代インド』-
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特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」が東京国立博物館で開催されています(会期:2015年5月17日まで、注1)。

今回は、第1展示室「仏像誕生以前」にある「ムーガパッカ本生」(シュンガ朝、紀元前2世紀頃)に注目してみます。ひとつのイメージで物語を一望する例として参考になります。

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これは、インド、マディア・プラデーシュ州、サトナ、バールフットで発見されました。展示会場は撮影禁止なので図録(注2)の写真をとって説明します。数字でしめしたように6つの部分にわかれていて、それぞれがつぎのことをあらわしています。

①  生まれたばかりのうごかない王子をだく父王
② 森に王子をすてにいくための馬車
③ 王子の墓穴をほる召使い
④ はじめて進退をうごかした王子
⑤ 森のなかで出家した王子
⑥ 王子の教えをきく父王と王族

釈迦前世の物語を1枚のイメージにあらわしたものであり、本来は同時には見えない場面を同時にみることができます。物語の全体を一望でき、全体像がわかります。

これを言語であらわすとつぎのようになります(注2)。

おさないテーミヤ王子(釈迦の前世)は、前世も国王でしたが、死後は、ながく地獄でくるしみました。そのため、また同じ人生をおくらないように今度は出家しようと不自由な身体をよそおいます。16歳になっても身体はうごかず父王は召使いに墓穴をほらせ、王子を森にすてました。そこで王子ははじめておきあがり出家したといいます。

物語の内容そのものは後世の人がつくったものでしょうし、今は問題にはしません。それよりも物語をイメージにすることが情報処理をすすめるために有効であることを強調したいとおもいます。

物語は時系列的な流れですから言語をつかった方が細部まで表現しやすいかもしれませんが、このように1枚のイメージとして空間的にあらわすこともできます。空間をつかうことによって視覚的に全体を瞬時にとらえることが可能になります。イメージと言語とは時と場合によってつかいわけ、またくみあわせて使用するとよいでしょう。

たとえば、ことなる時代のことなる条件下での出来事を地図上にすべてプロットするとすべての情報を瞬時に一望することができるようになります。地図の便利さはここにあります。情報を並列させて並列的に処理することができるようになるのです。地図をつかった情報処理システムとして Googleマップ や Google Earth をつかいこなすヒントもここにあります。

このようにプロセシングのポイントは空間をうまくつかうところにあります。「ムーガパッカ本生」は記憶法やイメージ訓練(心象法)を実践するうえでも参考になります。



▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

▼ 注2
東京国立博物館・日本経済新聞社・BSジャパン編集『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』2015年3月17日、日本経済新聞社発行

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東京国立博物館の特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」(会期:2015年5月17日まで、注1)は仏教史を俯瞰できるまたとない機会でした。

わたしは会場の展示を見たあと、地図そして年表をみて理解をふかめました。ここには理解をふかめる3つの場面がありました。

展示 → 地図 → 年表

第1の場面では、各作品(展示物)をよく見るとともに、展示室(展示空間)全体にも意識をはらい大局をとらえるようにしました。これは展示を大観したといってもよいです。

インド仏教美術をみる - 東京国立博物館・特別展「インドの仏」(1) - >>
展示室に意識をくばって仏教史の大きな流れをつかむ - 東京国立博物館・特別展「インドの仏」(2) - >>


第2の場面では、南アジアの地図をつかって出土地や遺跡の空間分布をとらえました。地図がおもしろいのは、歴史的段階や時間軸にはかかわりなく、情報を一望して並列的にとらえられるところにあります。

各作品が出土した場所を地図でみる - 東京国立博物館・特別展「インドの仏」(3) - >>


そして第3の場面では、年表をつかって情報を歴史的な一本の流れのなかでとらえました。時間軸をつかうと情報を一本に統合することができます。物語とはこうしてあらわれてくるのだとおもいます。


つまり、第1場面では展示を大観し、第2場面では情報を並列的にとらえ、第3場面では情報を統合したというわけです。

大観 → 並列 → 統合

こららの3場面は、人がおこなう情報処理のひとつのモデルとしてつかえます。つまり、「大観→並列→統合」は「インプット→プロセシング→アウトプット」にそれぞれ対応させることができます。

インプット→プロセシング→アウトプット

インプットでは周囲を大観し、要素だけにこだわるのではなくその空間全体をまるごとインプットするようにします。プロセシングでは情報を並列的に処理します。アウトプットでは情報を統合してメッセージを相手につたえるようにします。

理解をふかめるということは現代の情報化の観点からみると、このような情報処理をすることであるととらえなおすことができるでしょう。
 

▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

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時間と空間を往復する - 物語から場所へ、場所から物語へ -

世界遺産で仏教伝来の足跡をたどる -『世界遺産で見る仏教入門』-
ブッダの生涯と時代的背景を理解する - 中村元著『ブッダ入門』-
都市国家の時代の末期を検証する - 中村元著『古代インド』-
伝記と歴史書をあわせて読む - 釈迦の生涯と生きた時代 -


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東京国立博物館・表慶館の入り口

東京国立博物館・表慶館で開催されている特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」(会期:2015年5月17日まで、注1)は仏教史を俯瞰できるまたとない機会になっています。

会場のショップで売っていた特別展のカタログ(図録、注2)を見たところ190〜191ページにはインド地域の歴史をしめす年表がでていました(図1、2)。これが役立ちます。わたしは各作品(展示物)が制作された年代を年表上でたしかめてみました。年代は以下のとおりです。

1 仏像誕生以前
シュンガ朝:紀元前2世紀頃

2 釈迦の生涯
クシャーン朝:2世紀頃
グプタ朝:5世紀頃
パーラ朝:10世紀頃

3 仏の姿
クシャーン朝:1世紀頃
クシャーン朝:2世紀頃
グプタ朝:5世紀頃
パーラ朝:8〜9世紀頃
パーラ朝:9〜10世紀頃
チョーラ朝:12〜13世紀頃

4 さまざまな菩薩と神
クシャーン朝:1〜2世紀頃
クシャーン朝:2世紀頃
パーラ朝:8〜9世紀頃
パーラ朝:10世紀頃

5 ストゥーパと仏
パーラ朝:8世紀頃
チョーラ朝:10世紀頃
パーラ朝:10世紀頃
パーラ朝:11世紀頃
パーラ朝:12世紀頃

6 密教の世界
パーラ朝:9世紀頃
パーラ朝:9〜10世紀頃
パーラ朝:10世紀頃
パーラ朝:11世紀頃
パーラ朝:10〜11世紀頃
パーラ朝:11〜12世紀頃

7 経典の世界
パーラ朝:11世紀頃
14世紀頃

附編 仏教信仰の広がり
16〜17世紀頃
17世紀頃
18世紀頃 
18〜19世紀頃
19世紀頃

今回でてきた王朝を年表上でたしかめ赤枠でかこみました(図1、2)。

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図1 インド地域の歴史年表(その1)
(今回みられた王朝を赤枠でかこった)

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図2 インド地域の歴史年表(その2)
(今回みられた王朝を赤枠でかこった)

上記の王朝とともにつぎの事柄にも注目するとよいでしょう(年表上で青色下線をひいたところ)。

前600頃 十六大国の並立
前5世紀頃 釈迦(ブッダ、仏陀)
前3世紀頃 アショーカ王碑文(マウリア朝)
1〜5世紀 ガンダーラ美術が栄える
630〜644 玄奘のインド旅行

文字でおっていても年代はよくわかりませんが、上図のような年表を主催者がつくっておいてくれたので歴史的な流れがよく理解できました。


そもそも釈迦が活動した時代の南アジア地域は「十六大国時代」という群雄割拠の時代でした。そしてそのご紀元前4世紀末に、インド初の統一王朝である「マウリア朝」がおこりました。

ここでの注目点は、「十六大国時代」とは古代の都市国家の時代(段階)であり、その後のマウリア朝はより大規模な領土国家(帝国)であったということです。

十六大国の時代:都市国家の段階
マウリア朝:領土国家(帝国)

都市国家は、それぞれが小規模なうちはよかったのですが、それぞれの都市国家がしだいに勢力を拡大してくると摩擦や対立がおこり、たがいにあらそうようになります。そしてその後、より強力な都市国家が勝って生きのこり、それがより広範囲の地域を支配するようになり領土国家(帝国)になっていきました。

したがって釈迦が活動した時代とは、いくつもの都市国家が崩壊して領土国家が生じてくる時代であったのであり、都市国家の時代から領土国家の時代へと転換する過渡期であったのです。

つまり、この時代は戦争がはじまった時代であったということができるでしょう。だからこそ救済を必要とする人々があらわれたのではないでしょうか。

そしてさらに、領土国家(帝国)は領土をめぐる戦争をくりかえしていくことになります。戦争の規模が大きくなるにしたがって救済を必要とする人々の数も増えたことでしょう。それにこたえるかたちで仏教の様式も変化し、より多くの人々を救済するようになります。このような過程で仏像そして大乗仏教が発達したと想像することができます。

今回の特別展と関連資料からはこのような仮説がたてられるのではないでしょうか。このような歴史は作品(展示物)そのもに記入されているわけではないので、それらの背景を想像するしかありません。それぞれの時代がそれぞれの作品を生みだし、それぞれの作品はそれぞれの時代を反映しているはずです。したがって背景として時代はあらわれるのであり、それらを想像するところに歴史のおもしろさがあるのだとおもいます。

東京国立博物館の特別展は今回も充実した内容でとてもたのしめました。


▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

▼ 注2
東京国立博物館・日本経済新聞社・BSジャパン編集『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』2015年3月17日、日本経済新聞社発行

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東京国立博物館・表慶館で開催されている特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」(会期:2015年5月17日まで、注1)は仏教史を俯瞰できるまたとない機会になっていますが、一方で、南アジアの仏教遺跡の分布を地図上でくわしく見ることもできます

会場のショップで売っていた特別展のカタログ(図録、注2)の164〜166ページには南アジア地域の地図がでていました(図1〜3)。これが役立ちます。わたしは各作品(展示物)が出土した場所を地図上でたしかめてみました。出土地は以下のとおりです。 

1 仏像誕生以前
インド、バールフット

2 釈迦の生涯
パキスタン、マルダーン
パキスタン、ユスフザイ
パキスタン、ロリアン・タンガイ
インド、ナーランダー
インド、ビハール州
インド、クルキハール
インド、サールナート

3 仏の姿
アフガニスタン、カーブル周辺
パキスタン、ロリアン・タンガイ
パキスタン、タキシラ&チルトープ
インド、アヒチャトラー
インド、サールナート
インド、ナーランダー
インド、ビラト
インド、ナーガパッティナム
バングラデシュ、ジェワーリ

4 さまざまな菩薩と神
パキスタン、ロリアン・タンガイ
パキスタン、ジャマール・ガリ
パキスタン、ユスフザイ
パキスタン、ペシャーワル周辺
インド、ボードガヤー
バングラデシュ、ラージシャーヒー&パハールプル
イン、ナーランダー
イン、マトゥラー

5 ストゥーパと仏
インド、チェンナイ
バングラデシュ、アシュラフプール
インド・ビハール州、ボードガヤー

6 密教の世界
インド、ボードガヤー
インド、ビハール州
インド、クルキハール
バングラデシュ、ラージシャーヒー&チョウラパーラ
インド、北ベンガル

7 経典の世界
東インド

附編 仏教信仰の広がり
ミャンマー、ヤンゴン
ミャンマー、プローム
ミャンマー、アラカン
ミャンマー、バガン


IMG_1804b
図1 南アジア地域の地図(出土地に赤色下線をひいた)


IMG_1805
図2 図1のガンダーラ周辺地域の拡大図(出土地に赤色下線をひいた)


IMG_1806
図3 図1の東ガンジス地域の拡大図(出土地に赤色下線をひいた)


これらの場所とともに、仏教の四大聖地、ルンビニー(釈迦誕生の地)、ボードガヤー(成道の地)、サールナート(初転法輪の地)、クシナガラ(涅槃の地)もおさえておくとよいでしょう。

これらの地図上で出土地の分布をみると、ガンジス川流域の東ガンジス地域インダス川上流域のガンダーラ地域(図1・2で赤枠でかこまれた2ヵ所)に出土地(遺跡)が集中していることがわかります。そしてガンダーラ地域が仏像の形成に非常に大きな役割をはたしたこともわかってきます。

地図上で場所を確認することは最初は時間がかかりますが、地名と位置を一旦おぼえてしまえばあとはらくです。地図がおもしろいのは、各作品の位置をひとつひとつおさえながらも、地図全体ではすべての情報が一望できるわけで、仏教史の歴史的段階には関係なく空間的・並列的に情報がとらえられるところにあります。

こうして南アジア地域に意識をくばるようにすると、南アジアの空間が自分の意識のなかにすっぽりと入りはじめて一気に世界がひろがる感じがします。たとえばこのあたりを旅行をしようとおもったときも旅行計画がたてやすくなります(注3)。わたしはこれまでにルンビニーとサールナートに行きましたのでそのほかにも行ってみようとおもっています。


▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」

▼ 注2
東京国立博物館・日本経済新聞社・BSジャパン編集『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』2015年3月17日、日本経済新聞社発行

▼ 注3
上記の地域をはじめて旅行する場合はルンビニーをおすすめします。他の場所がインド領などに属しているのに対して、ルンビニーはネパール領に属し、治安も比較的よく、一大観光地になっていてよいホテルもあり滞在しやすいです。

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