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現代の自然科学は社会問題と密接にむすびついています。わたしたちは科学者と科学の動向についてつねに注目していかなければなりません。


池内了編著『これだけは読んでおきたい科学の10冊』(岩波ジュニア新書)は自然科学とその社会への影響を知るための読書ガイドです。本書をまず読んでそれぞれの要点をつかんでおくと、以下の「10冊」の本に挑戦しやすくなります。各章の最後には、さらにまなびたい人のために参考文献が紹介されていてとても役立ちます。


目 次
1 ワインバーグ『宇宙創成はじめの三分間』
2 ローズ『原子爆弾の誕生』上・下
3 吉田洋一『零の発見』
4 本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間』
5 ローレンツ『ソロモンの指環』
6 カーソン『沈黙の春』
7 ワトソン『二重らせん』
8 モリソンほか『POWERS OF TEN』
9 ガモフ『不思議の国のトムキンス』
10 アインシュタイン、インフェルト『物理学はいかに創られたか』上・下


自然科学というと、最先端の研究に注目するのが一般的であり、名著とか古典といったとらえ方はあまりないですが、これらはいずれも名著あるいは古典といってもよい本です。




自然科学は非常にたくさんの分野が現代ではあってとても複雑そうにみえますが、基本的な方法はみなおなじで、次のようになっています。

  1. 課題を設定する
  2. データをあつめる
  3. 仮説をたてる

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そして仮説がただしいかどうかは実験をくりかえすことによって検証します。仮説を支持しないデータがえられた場合は仮説をたてなおします。実験とは科学の基本的な実践形態です。

また研究結果を発表(アウトプット)するときには、データ(事実)と仮説(解釈)とを区別して記述することがルールになっています。




上記の10冊の本のなかでわたしがまず注目したのは『沈黙の春』です。これは、農薬や化学物質による生態系の破壊を告発した最初の本でした。産業界からは大きな反発がおこりましたが、「沈黙の春」は今や現実のものとなっています。環境問題にとりくむ上でさけてはとおれない一冊です。

たとえば北イタリアのセベソは化学工場が爆発してゴーストタウンになりました。インドのボパールでは化学工場の爆発により2500人が死亡、被害者は20万人におよびました。ベトナム戦争では枯葉剤がつかわれ多くの人々がその後遺症で今でもくるしんでいます。

日本でも、水俣病・イタイイタイ病など枚挙にいとまがありません。そして原発事故・放射能汚染です。科学の結果が悪い方向にでたもっともシンボリックな事例が日本において生じてしまったことをわたしたち日本人は再認識しなければなりません。




つぎに『原子爆弾の誕生』です。原爆の誕生から使用までの歴史を多くの資料と、開発に参加した科学者たちへのインタビューをもとにくわしくたどりました。もとの英語の本は900ページにおよび、日本語訳は上・下あわせて1500ページにちかい大著です。純粋に真理探究をしていた物理学者が悪魔へと姿を変えた歴史的事件がここにはきざまれています。科学者はおそろしい時代をつくりだしてしまいました。

現代の科学者は研究をすすめるだけではなく社会的責任をおわなければなりません。一方、一般の人々も科学者の動向につねに注意していなければなりません。物理学や化学だけではありません。現代では生命科学も社会問題と密接にむすびついています。科学のつかい方をあやまるととんでもないことになります。




零の発見』もおもしろいです。現代人にとっては零(ゼロ)があるのはあたりまえであり、零(ゼロ)をみても何もおもわないかもしれませんが、零(ゼロ)が発見されたことによりどれだけ世の中が進歩したことか。

零(ゼロ)は中国にいって「空」(くう)と訳され、日本にもつたわってきました。




本書『これだけは読んでおきたい科学の10冊』を読んでおけば、ニュースや新聞・雑誌などをとおしてつたわってくる科学の最新の動向も理解しやすくなるとおもいます。



▼ 引用文献
池内了編著『これだけは読んでおきたい 科学の10冊』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2004年1月20日
これだけは読んでおきたい科学の10冊 (岩波ジュニア新書)




生命の誕生と進化についてまなぶと、歴史的・時間的に生命をとらえなおすことができます。


『 生命の誕生と進化の38億年』(ニュートンプレス)(注1)は、生命の誕生と進化の歴史をイラストをつかって解説しています。


目 次
1 生命の誕生
2 生命のビッグバン
3 生命の進化と大陸の移動
4 生命の進化はなぜおきる?
5 イラストで見る進化の情景


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生命は、約40億年前から38億年前に誕生したとかんがえられています。最初の生命が誕生した場所は海の中であるとされ、海の中の熱水噴出孔がその有力な候補地です。

生命とは、自己複製と代謝の二大機能をもつのが特徴であり、これが生命と他の物とを区別する決定的な条件になっています。

今から5億4000万年ほど前には、原始的な生命が急激に多様化し発展した時期がありました。この出来事は「カンブリア爆発」あるいは「生命のビッグバン」とよばれています。環境の変化やあたらしい遺伝子の出現があったためとかんがえられています。

そしてその後の進化の結果 人類が出現してきました。人類は進化した順に、猿人→原人→旧人→新人(現代人)にわけられます。猿人の化石がアフリカでしか見つかっていないことなどから、最初の人類はアフリカで誕生したとかんがえられています。




生命の誕生と進化の研究から、地球の生命は、元ひとつのものから分化・発展してきたことはあきらかです。その結果が今日、生物多様性として認識されています。

生命は、分化する一方で生態系を成立させています。これは生命の世界は、分化しつつ体系化(システム化)されていることをあらわしています。分化しつつ体系化されるとは、発展しつつ維持されるということです。発展と維持というと一見 矛盾するようですが実際にはうまくいっています。

物事や組織は、発展する一方だと分解してしまいます。他方で維持しているだけだと発展できません。発展と維持の両者が必要です。生物多様性や環境問題にとりくむときにも、環境をただ維持・保守しようとするだけだとうまくいきません。発展しつつ維持されなければなりません。そのためには生命の進化や生態系について知ることが重要です。




ニュートン別冊『生物多様性』では生物の多様性について解説しています。生物多様性は空間的な見方です。一方、『生命の誕生と進化の38億年』では生命の進化を解説しています。進化とは歴史的・時間的な見方です。このように空間的な見方と時間的な見方をセットにしてとらえると認識が非常にふかまります




現代の進化論では、進化の仕組みを説明する仮説として、「遺伝子の突然変異→小さな差が生じた個体間での競争→自然選択」という説をうちだしています。しかしこの仮説によって「小進化」は説明できても、遺伝子の突然変異で生じた小さな差がどうして別の種に変化するのか? つまり「大進化」を説明することはできません。進化論の研究はつづきます。
 


▼ 注1
『 生命の誕生と進化の38億年』(ニュートン別冊)ニュートンプレス、2012年11月15日
生命の誕生と進化の38億年―いかに生まれ,いかに進化してきたのか? (ニュートンムック Newton別冊)

▼ 注2
『生物多様性』(ニュートン別冊)ニュートンプレス、2010年9月15日
生物多様性―地球の未来を考えるための重要ワード (ニュートンムック Newton別冊) 

▼ 関連記事
絶景から一歩ふみこむ -『地球科学を知る厳選33の絶景』(ニュートン別冊)-
生物多様性の減少をくいとめる -『生物多様性』(ニュートン別冊)-
歴史的・時間的に生命をとらえなおす -『生命の誕生と進化の38億年』(ニュートン別冊)-

▼ 参考書籍
地球の入門書として最適です。
空間的な見方がわかります。
 



歴史的・時間的な見方がわかります。



生物多様性の危機がつづいています。エコツアーに参加して生物多様性の危機について知るとともに、外来種のもちこみを根絶するなどして、生物多様性の減少をくいとめなければなりません。


ニュートン別冊『生物多様性』(ニュートンプレス)は、生物多様性の歴史と現状、その危機についてイラストを使ってわかりやすく解説しています。


目 次
1 生物多様性とは何か?
2 生態系の多様性
3 失われゆく生物の多様性
4 データでみる生物多様性 〜ミレニアム生態系評価〜
5 データでみる生物多様性 〜生物多様性条約目標達成状況〜


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現在、絶滅危惧種をもっとも多くふくむ生物グループは両生類であり、もっとも急速に絶滅がすすんでいるグループはサンゴです。保全活動を早急にすすめなければなりません。

日本では、沖縄本島北部に位置するヤンバルの森が非常にあぶない状況です。また小笠原諸島では、独自に進化した生物たちが姿を消しつつあります。ニホンカワウソ、ツシマヤマネコ、イリオモテヤマネコなども絶滅しようとしています。イヌワシにも危機がせまります。日本ですでに絶滅した種は、哺乳類4種、鳥類14種、汽水・淡水魚類4種、合計22種におよびます。

南米のアマゾンでは、開発・焼畑農業により森林が急速に減少しており大問題になっています。

世界中の島々では、外来種が在来種を減少させ、生物多様性がいちじるしく低下しています。




このような状況をかんがみ、個人でもできることとしてはたとえば次のようなことがあります。
  • エコツアーに参加して生物多様性の危機を知る。
  • 外来種を持ちこんだり捨てたりしない。
  • 省エネにとりくむ。




生物多様性とは、生物種の多様性、種内の遺伝的多様性、生態系の多様性のことをさします。生態系とは、そこに生息するあらゆる生物と生物、それらをとりまく環境が、密接な関係をきずいてなりたっているシステムのことです。すべての生物は生態系のなかでくらしています。

そして地球が人類に提供している資源、自然からの恵みをまとめて「生態系サービス」とよびます。木材や農作物、家畜、魚介類、水、洪水や気候の調整、観光資源など、さまざまな恩恵をわたしたち人間は生態系からうけています。

しかし現代の人間は、生態系が供給できる供給量の範囲をこえてより多くの生態系サービスを利用してしているのが現状です。

一方で、土地の開発など人間の活動によっても生態系は破壊されています

生態系の過剰な利用と、過剰な開発が自然環境を破壊してさまざまな生物の生存を危機においやり、生物多様性を減少させているのです。生物種の数の減少あるいは生物多様性の減少は環境破壊の指標です。




このような自然環境の破壊、生物多様性の減少は〈インプット→プロセシング→アウトプット〉のモデルでとらえなおすことができます(下図)。

160203 生態系
図 インプットとアウトプットが過剰になった

 
生態系サービスとは、自然環境から人間社会への物質やエネルギーなどのインプットです。一方の開発とは、人間社会から自然観環境への作用(土地の改変や不要な物質の排出など)でありアウトプットです。

インプットとアウトプットの両者が過剰になり、自然環境を圧迫して自然環境を破壊しているのです。人間社会と自然環境とのバランスはあきらかにくずれました。地球は有限の空間ですから、過剰にインプットし過剰にアウトプットすればバランスがくずれるのは当然です。もう限界にきています。



▼ 『生物多様性』(ニュートン別冊)ニュートンプレス、2010年9月15日
生物多様性―地球の未来を考えるための重要ワード (ニュートンムック Newton別冊)
 
▼ 追記
〈インプット→プロセシング→アウトプット〉システムは個人レベルでもおこっていますが、人類あるいは地球レベルでもおこっています。

▼ 関連記事
絶景から一歩ふみこむ -『地球科学を知る厳選33の絶景』(ニュートン別冊)-
生物多様性の減少をくいとめる -『生物多様性』(ニュートン別冊)-
歴史的・時間的に生命をとらえなおす -『生命の誕生と進化の38億年』(ニュートン別冊)-
立体視をして眼力をきたえる - やんばる亜熱帯園 -

▼ 関連参考書籍
  




人口問題は、地球上のあらゆる問題にからんでいます。

『まもなくやってくる100億人時代』(ニュートンプレス)によると、世界の人口は今日70億に達しました。ここ数百年の人口増加はまさに爆発的でした。国連は、2083年に世界の人口は100億を突破すると予測しています。
 
世界の人口の約6割はアジアに集中しています。

一方、人口増加率はアフリカと中東が非常に高くなっています。経済発展が一段落した国々では人口増加が止まるあるいは減少しているのですが、これから経済発展がすすもうとしている国々では人口が非常に急増しています。

先進国では「人口転換」はおわりましたが、アフリカや中東の国々では「多産少死」がおきていて人口が増えているのです。「多産多死」→「多産少死」→「少産少死」という一連のうつりかわりを「人口転換」といいます。とくにアフリカでは、今後ともいちじるしく人口が増えつづけます。アフリカが人口増加の鍵をにぎっているといってよいでしょう。

人類は、地球の人口の "定員" ギリギリのところでこれまでも人口を増しやしてきました。今後とも、農業生産性の向上と新しいエネルギー源の開発が人口を "やしなう" ために大きな課題になります。




以上のように、人口急増は人類および地球の大問題になっています。

しかし現状では人口増加はくいとめることはできません。したがってわたしたち人類は、人口が増加することはそのままうけいれ、 農業生産性の向上とあたしいエネルギー源の開発によって大問題をのりきろうとしているのです。

このような事態になり地球環境は今後どうなるのでしょうか? 環境破壊はさらにすすみ、地球はバランスをくずすことがかんがえられます。想定できないこと、たとえば大災害などがおこるかもしれません。

人口問題は、地球上のあらゆる問題にからんでいます。人口が増えたために各地で紛争がおきやすくなっているともいえるでしょう。わたしたちは人口問題にしっかりむきあっていかなければなりません。


▼ 引用文献
『まもなくやってくる100億人時代』ニュートンプレス、2015年11月19日
Newton まもなくやってくる 100億人時代: 「食糧」「エネルギー」「長寿命化」

自然環境の保全には、人間の手をいれないで本来の自然をそのままのこす方法と、人間の手をいれる人為的保全の2通りの方法があります。


自然環境復元協会編『写真で見る自然環境再生』(オーム社)は、自然環境の再生あるいは復元の事例が「再生前→再生後」の複数の写真を見てわかるようになっています。以下のような具体的な事例が地域ごとテーマごとに掲載されていて、自分が暮らしている地域でも参考になるようなことが見つかります。


目 次
北海道編
1 魚道の思想 -魚類が安心して暮らせる河川環境づくり-
2 石狩川に河畔林再生の取組み -蛇行河川の豊かな生態系を復元する試み-

東北編
3 不毛の原野から多自然な環境へ -岩手県小岩井農場120年の歩み-
4 岩手県宮古発・水産高校生の素朴な発想からの環境貢献 -うちの川は本当にキタナイのか?-

関東編
5 地域資源の循環で里山と町がよみがえる -栃木県茂木町のユニークなリサイクルシステム-
6 伝統的な谷津田はヒトと生き物の里 -千葉県における原風景の保全・復元-
7 ゴミの島が自然の力で夢の島へ -東京の下町で憩いの演出-
8 団地の森づくり30年 -町山を住民とともにつくった環境再生医の物語-
9 道路法面にふるさとの植生を! -こどもたちも参加する景観づくり-
10 横浜発・よみがえれヨシ原 -荒廃した人工堤防を緑のベルトへ-
11 生物多様性を谷戸が守る -神奈川県恩田の谷戸住民の取組み-
12 金沢八景・海浜風景150年の対話 -横浜唯一の塩性湿地,野島水路の今昔-

中部編
13 よみがえった荒廃棚田-標高差150mの伊豆石部棚田-
14 静岡発・町山再生物語-竹林化した町山を市民の集う公園に-
15 住民総出でつくる棚田ビオトープ-生物多様性と文化的景観-
提言1 自然と文化をはぐくむ 森林再生のすすめ
提言2 間伐材を多使用した快適住宅

近畿編
16 生き物を呼ぶ わくわく保育園の庭づくり-ちょっとのリスクを乗りこえよう-
17 すみ場を失った希少種ヒメタイコウチを救え-代償としての生息湿地の再生-
18 神戸発・学校ビオトープ-命をいつくしむ和みの空間づくり-
提言3 わらの家とつながりの再生-森と田と人の暮らしの循環-

中国編
19 耕作放棄水田の再生とそのフォローアップ -湿地ビオトープと生態系ネットワーク-

四国編
20 松山発・よみがえる豊かな泉のネットワーク -農を支えた水路網の再生-
21 自然石による水流の制御と川の多様性の回復 -再生した淵にアマゴが大集合!-

九州編
提言4 ただの風景の発見-百姓の仕事を通して語る方法-
付録 自然環境復元協会と環境再生医


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たとえば北海道チエンベツ川では治山ダムに魚道をつくりました
 
日本の河川にはいたるところに治山ダムができています。これは、豪雨のときの水災害防止や治山のために役立ちますが、その一方で川における魚の行き来は遮断してしまいました。その結果 生態系が破壊されてしまいました。そこで北海道チエンベツ川では治山ダムを改修して魚道をつくる工事をおこないました。すると23年ぶりに魚が遡上してきました。産卵場所も確認され、生態系が回復しつつあります。


 

千葉県では、里山を再生させるプロジェクトがすすんでいます。里山とは、田畑・河沼・雑木林などが複合的に一体になった領域で、集落の周辺部にひろがっています。

集落で暮らす人々は自然環境を改変し、その恵みを ながいあいだ利用してきました。水田にみられる連続的な水環境の創出、森林管理、節度ある資源利用などを実現し、生物多様性は疲弊することなく高いレベルに維持されてきました。里山は、資源・エネルギーの循環システムが確立した持続可能な生態系モデルでした。人々の暮らしが自然環境と調和したゆたかな文化がはぐくまれてきました。



 

自然環境の保全には2通りの方法があります。ひとつは人間の手をいれないで本来の自然環境をそのままのこす方法です。もうひとつは魚道や里山のように人間の手をいれて保全する人為的保全です。この二つの方法の違いを明確に区別して計画的に保全をすすめていくことが大切です。
 
たとえば里山は、人の手が入った人為的保全の地域の典型です。一般的には里山のように、集落の周辺領域では人為的保全をおこない、さらにその外側では人の手をいれない本来の自然をのこすようにします。人為的保全の領域は集落と本来の自然環境とのあいだに位置して緩衝帯としての役割も果たします(下図)。

160124 人的保全
図 集落の周辺部では人為的保全をおこない、
その外側では本来の自然環境を保全する


上図のように、集落(人間)と自然環境とのあいだには相互作用があり、人間と自然環境とはやりとりをたえずしています。自然環境から人間への作用はインプット、人間から自然環境への作用はアウトプットとよんでもよいでしょう。インプットとアウトプットの両者に注目することが大事です。

このような相互作用のつみかさねにより、人間と自然環境とが調和したゆたかな文化がはぐくまれるとかんがえられます。

 
▼ 引用文献
自然環境復元協会編『写真で見る自然環境再生』オーム社、2011年1月20日
写真で見る 自然環境再生



 

東京都港区白金台にある自然教育園へいくと照葉樹の森のなかをあるくことができます。


東京都港区白金台に、国立科学博物館付属 自然教育園という植物園があります。
国立科学博物館付属 自然教育園 >>

浜尾章二・松浦啓一編『大都会に息づく照葉樹の森』(東海大学出版会)はやや専門的ですが、この自然教育園を活用するために大変役立つ参考書です。


目 次
1 森をつくる植物
2 森の動物たち
3 土の中の動物たち
4 森が生み出す豊かさ


園内にはコナラ・ケヤキ・ミズキなどの落葉樹、スダジイ・カシ類・マツ類などの常緑樹がひろがり、ススキやヨシの草はら、池や小川などもあります。四季にわたってさまざまな草花や昆虫などの生きものを身近に観察できます。

この植物園は国立科学博物館の付属ということもあって植物の種名表示板や解説板がしっかりしていて自然についての理解をふかめることができます。

大都会にのこされたオアシス的存在であり、森林浴や散歩にも最適です。JR目黒駅からあるいて約10分のところにあります。


▼ 引用文献
浜尾章二・松浦啓一編『大都会に息づく照葉樹の森 - 自然教育園の生物多様性と環境 -』(国立科学博物館叢書)、東海大学出版会、2013年3月20にち
大都会に息づく照葉樹の森―自然教育園の生物多様性と環境 (国立科学博物館叢書)

▼ Google マップ



▼ 関連記事
照葉樹の森をあるく - 自然教育園 -
立体視をして遠近の両方を同時に意識する - 自然教育園(1)-
遠近をみて、周辺視野をつかう - 自然教育園(2)-
立体視をして視覚的情報処理能力を高める - 自然教育園(3)-
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平行法と交差法で目線のアンバランスを改善する - 自然教育園(5)-
3次元の内面空間を確立する - 自然教育園(6)-
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目のシステムをレベルアップする - 自然教育園(8)-
自然をみて目のつかれをとる - 自然教育園(9)-
見る力とわかる力をきたえる - 自然教育園(10)-


〈インプット→プロセシング→アウトプット〉のモデルをつかうと地球環境問題と自然災害とを統一的に理解することができます。
 

松原彰子著『自然地理学(第4版)』(慶應義塾大学出版会)は、地球環境問題と自然災害に力点をおいた自然地理学の入門書です。多様な情報が整然と整理されていてとてもわかりやすく、自然地理学の入門書として最適です。自然地理学といっても文科系の学生用教科書として企画されたようなので、数式などはつかわずに図表や写真をつかって誰が見てもよくわかる内容になっています。


目 次
1章 地球環境の変遷とその原因
2章 古気候・古環境の復元
3章 旧海水準および海岸線の復元
4章 年代測定の方法
5章 地球環境の諸問題(1)
6章 地球環境の諸問題(2)
7章 地震活動
8章 プレート境界で発生する地震(プレート境界型地震)
9章 活断層の活動によって発生する地震(活断層型地震)
10章 地震災害の実態と将来予測
11章 火山活動と火山災害
12章 水害・土砂災害
13章 人為的要因による災害
14章 身近な地形と人間活動


本書は、地球環境問題と自然災害の両者を概観できるのが最大の特色です。

地球環境問題では、地球温暖化・ヒートアイランド現象・オゾン層破壊・エルニーニョ現象/ラニーニャ現象・地球砂漠化・水資源問題・エレルギー資源問題について解説しています。

自然災害では、地震・津波・液状化現象・火山災害・水害・土砂災害・地盤沈下現象・海岸侵食について解説しています。




わたしはこれらの現象を整理するために下のモデルをえがいてみました。

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図 自然災害はインプット、環境破壊はアウトプット



自然災害は、自然環境から人間社会にはたらく作用つまりインプットです。これはは不利益なインプットです。
 
環境破壊は、人間社会が自然環境にあたえる作用つまりアウトプットです。アウトプットが巨大化しすぎたために環境が破壊されています。

このモデルが本書にでているわけではありませんが、本書中の膨大な情報をこのモデルをつかって整理すれば、自然災害と地球環境問題とについて統一的・端的に理解することができます。

そして今日、自然災害を軽減するための技術と環境破壊をくいとめるための技術の開発がすすんでいます。これらの技術は、インプットとアウトプットを適切な状態に改善したりおさえたりするためのものであり、こうした技術は、人間社会と自然環境とのあいだに介在するものとして位置づけることができます。 

わたしたち人間は、このような技術を介して自然環境と今後かかわっていくことになります。こらからのあたしい時代の技術(テクノロジー)はこのように位置づけられるとかんがえられます。


▼ 参考文献
松原彰子著『自然地理学(第4版)』慶應義塾大学出版会、2014年5月8日
自然地理学(第4版)



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地球環境問題はとても複雑ですが、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉システムのモデルでとらえるとわかりやすいです。


西岡秀三・宮崎忠國・村野健太郎著『地球環境がわかる』(技術評論社)は地球環境問題の一般むけ入門書です。多数のイラストをつかってわかりやすく解説しています。


目 次
第2章 エネルギー・物質の循環
第3章 地球温暖化
第4章 自然環境の改変と汚染
第5章 自然環境と生物多様性
第6章 都市化と環境問題
第7章 環境をよくするためのしくみと行動


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図1 環境問題の構造


本書の12-13ページに「環境問題の構造」という図がでていてこれが本書の全体像をあらわしています(図1)。




わたしはこれをさらに簡略化して下図のようにモデルをえがいてみました(図2)。

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図2 物質・エネルギーの循環システムのモデル


ある地域においてその中心には人間社会が存在し、人間社会は地域の主体として機能しています。そしてその周辺域には環境が存在します。環境は緑色でしめしました。

地域では、人間社会と環境とを通して物質・エネルギーの流れと循環がたえずおこっています。物質・エネルギーの流れと循環は矢印でしめしました。


 

■ インプット
物質・エネルギーが人間社会に環境から入ってくるのがインプットです。いわゆる自然からの恩恵というものです。

■ プロセシング
人間は自然からの恩恵を利用して、食料を食べ、エネルギーを消費し、さまざまなあたしい物質を生産します。環境から入ってきたエネルギー・物質を処理する過程です。

■ アウトプット
人間社会にとって不要な物質・エネルギーを環境へ排出することです。




環境は自浄作用や調整作用をもっているので、環境へアウトプットされた物質・エネルギーは環境における循環の中に本来ならば吸収されていきます。

しかしながら現代では環境問題が発生しています。環境問題とは、人間活動が拡大し、環境への圧力がとても強力になったためひきおこされたと説明されています。これはつまりアウトプットが巨大化しすぎて、環境の自浄作用や調整作用がおいつかなくなったということです。その結果、次のような自然環境の汚染がすすんでいます。
 
オゾン層破壊、大気汚染、酸性雨、水質汚濁、海洋汚染、土壌汚染、森林破壊、砂漠化など。その他にも、生物多様性の危機、外来種問題、地球温暖化などが生じています。

そして図2の循環システムにおいてあらたなインプットをするときに、人間社会の中に汚染物質も入ってくるようになってしまいました。環境からの物質・エネルギーの過剰な摂取つまり過度なインプットも問題になっています。

あるいはプロセシングがうまく機能しなくなりました。廃棄物処理問題などはその最たるものです。廃棄物を環境にアウトプットするにもアウトプットできず、人間社会の中(あるいはそば)においてあるという問題も生じています。




このように〈インプット→プロセシング→アウトプット〉システムは現代文明をうごかしている重要なシステムであるとかんがえることができます。このシステムにおいて、エネルギー・物質の流れに情報をくわえてもよいです。
 
このようにみてくると、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉がうまくいかずバランスがくずれるとさまざまな問題がおこってくるということがわかります。
 
したがって問題を解決するためには、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉をあらためてとらえなおし改善していかなければなりません。

このように〈インプット→プロセシング→アウトプット〉はとても重要な概念だといえます。たとえばニュースを見たときにさまざまな情報を、インプット・プロセシング・アウトプットのそれぞれに整理してとらえなおすだけでも環境問題に関する理解は一気にすすむでしょう。



▼ 関連記事
地球環境問題と機械文明(1) -『地球環境がわかる』-

▼ 引用文献
西岡秀三・宮崎忠國・村野健太郎著『地球環境がわかる』(改訂新版)技術評論社、2015年7月6日
[改訂新版] 地球環境がわかる





沖縄・海洋博公園には、熱帯ドリームセンターとは別に熱帯・亜熱帯都市緑化植物園(注1)があります。こちらはやや地味ですが、野外をあるきながら熱帯・亜熱帯の世界を堪能することができます。

園内には、耐潮風植物ヤシ類見本区、立体花壇、トロピカルガーデン、生け垣・つる植物見本区、ハーブ見本区、チョウの食草園などがあり、熱帯・亜熱帯植物の多様性を実感することができます。



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耐潮風植物ヤシ類見本区
ヤエヤマヤシ、ユスラヤシ、マニラヤシなどの耐潮風のつよいヤシ類を植栽展示しています。世界には、ヤシ類が200属2600種あるといわれています。この見本区では、うつくしい樹形をもつ熱帯性ヤシがそれぞれの特徴をみせています。 



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ハーブ見本区
ハーブ(Harb)とは人間の生活に役立つ植物の総称です。種類やその使用法はさまざまであり、この見本区では、料理やお茶やポプリ(注2)などにおもに利用されるセージやバジル、ミント類をはじめ、料理や薬草として沖縄でつかわれるボタンボウフウやリュウキュウヨモギなどを植栽展示しています。



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ラベンダーセージ(平行法で立体視ができます、注3)
セージとは地中海沿岸原産のハーブの一種です。シソ科の多年草で、古代ギリシア・ローマ時代から薬草・香辛料として利用されてきました。「ラベンダーセージ」は、花の形がラベンダーに似ているのでこのようによばれます。高さは1、2メートルほどになり、あざやかな青紫色の花をさかせます。




海洋博公園の熱帯ドリームセンターは温室が中心になった展示であるのに対し、こちらの熱帯・亜熱帯都市緑化植物園は屋外での植栽展示になっていますので、野外をあるきながらさまざまな植物に出会うことができます。沖縄の気候を体感しながらゆっくり散策をしてみるとよいでしょう。

わたしは今回は時間がなくて、熱帯・亜熱帯都市緑化植物園はあまり見られませんでしたので、次回おとずれたときにはじっくり観察してみたいとおもっています。



▼ 注1
熱帯・亜熱帯都市緑化植物園



※ 沖縄・海洋博公園へは、那覇空港でレンタカーをかりるか、あるいは「やんばる急行バス」でいくのが便利です。
やんばる急行バス

▼ 注2:ポプリ
香りのよい花葉樹皮香料などをとりあわせて瓶や壺などに入れたもの。

▼ 注3
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -

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自然環境と人々との間のやりとりによって独自の生活様式さらに独自の文化が生みだされました。人々は独自の文化を介して自然環境に適応し、また自然環境を利用して生きてきました。

『気候帯でみる! 自然環境〈4〉冷帯・高山気候』(少年写真新聞社)の後半では高山気候をとりあつかっています。


目 次
高山気候の気候区分
高山気候の植物
高山気候の動物
高山気候の農業
鉱山気候の都市
 エクアドル キトのくらし
 中国・チベット自治区 ラサのくらし


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高山気候は、標高の高い地域に特有のすずしい気候です(注1)。気温は、標高が100m高くなるごとに0.6〜0.7℃さがります。

気温が低くなると水蒸気量も減るため、標高が高くなるにつれて高山地域では降水量が少なくなる傾向があります。また水蒸気や空気中のちりが少ないので晴れた日には、地表にとどく太陽光(日射)が強く、多くの紫外線がふりそそぎます。

標高が高くなるにつれて気圧が低く酸素が少なくなるので普通の人が高所にいくと高山病になります。


■ 高山気候の植物
高山気候の植物には垂直分布が見られるのが特徴です。

たとえばネパールのヒマラヤ山脈では標高が上がるにつれて次の分布が見られます。

落葉広葉樹林→照葉樹林→針葉樹林→(森林限界)→低木林や草地

エクアドルのアンデス山脈では次の分布が見られます。

熱帯雨林→常緑樹林→雲霧林→(森林限界)→低木と草地→イネ科を中心とした草原


森林限界より上には、きびしい環境に適応した非常に特徴的な高山植物が生えています。
  • ヒマラヤ山脈:メコノプシス・ホリドゥラ(ヒマラヤの青いケシ)、レウム・ノビレ(セイタカ・ダイオウ)など
  • アンデス山脈:プヤ・ライモンディなど
  • ヨーロッパ・アルプス:セイヨウウスユキソウ(エーデルワイス)、アルペン・ローゼ(アルプスのバラ)など


■ 高山気候の動物
気象条件がきびしく餌が少ない高山気候の地域では動物の数はかぎられていますが次のような動物が生息しています。
  • ヒマラヤ山脈:ユキヒョウ、アネハズルなど
  • アンデス山脈:ビクーニャ、アンデスコンドルなど
  • その他の高山地域:オジロライチョウ、ナキウサギ、シロイワヤギ、アイベックスなど


■ 高山地域の農業
夏もすずしい高山気候では独特の農業が発達しました。
  • アンデス高地の段々畑(アンデネスとよばれる):それぞれの標高(気温)にあわせて家畜(リャマやアルパカ)の飼育、トマト・カボチャ・トウモロコシ・トウガラシなどの栽培がおこなわれています。
  • エチオピアの農業:コーヒー、テフ(エチオピア原産のイネ科の穀物)、トウモロコシ、ソルガム、ゴマなどを栽培しています。ウシやヒツジやヤギなどの牧畜もおこなわれています。
  • チベット高原の農業:オオムギ(ハダカムギ)やコムギなどの栽培がおこなわれています。ヤクやヒツジの牧畜もおこなわれています。ヤクは「高原の舟」ともよばれ荷物の運搬に利用されるほか、その肉や乳は食料に、皮や骨・角は衣服や住居に、ふんは燃料にされるなど無駄なく利用されます。


■ 高山気候の都市

次の都市が紹介されています。
  • エクアドル、キト
  • 中国・チベット自治区、ラサ

キトは、赤道直下に位置するにもかかわらず標高が2800mをこえるので温暖でしのぎやすい気候です。さまざまな種類のトウモロコシが食べられています。ジャガイモやタマネギなどを牛乳と一緒に煮込んだ「ロクロ」が代表的な料理です。クイ(テンジクネズミの一種)やウサギの肉は貴重なタンパク源です。

ラサは、標高が約3700mであり、乾燥した気候です。「1日のうちに四季がある」といわれるほど昼と夜の気温差が大きいです。

ラサでくらしているのはチベト族です。丈の長い襟を前でななめにあわせて着る「袍」(ほう)とよばれる上着を着ています。袍の上から腰帯をまき、女性はその上からエプロンのような前掛けを身につけます。太陽からのつよい紫外線をさけるためにフエルトや毛皮の帽子をかぶることもあります。

チベット族の主食は「ツァンパ」です。オオムギ(ハダカムギ)のつぶをいって粉にしたものに水や茶をくわえて手で練って作ります。また、茶葉にヤクのバターと塩をくわえてつくる「バター茶」を飲む習慣があります。その他、コムギからつくる「トゥクパ」「モモ」、ヤク肉、ヤクチーズなども独自の食べ物です。




以上のように高山地域でくらす人々は、独自の農牧業・料理・衣服などつまり独自の生活様式を発達させて自然環境(高山気候)に適応し、一方で自然環境をたくみに利用して生きていました(下図)。


160107 高山
図 高山地域のモデル


自然環境から人々への作用・流れはインプット、その反対の人々から自然環境への作用・流れはアウトプットであり、インプットとアウトプットの間にはプロセシングがあります。人が生きるということは〈インプット→プロセシング→アウトプット〉をくりかえすことにほかなりません。

こうして、自然環境と人々との間のやりとりにって独自の生活様式が発達してきました。独自の生活様式はその地域や民族の独自の文化とよびかえてもよいでしょう。人々は、独自の文化を介して自然環境に適応し、また自然環境を利用して生きてきたのです。文化には、自然環境と人々とを介在する役割が本質的にあるとかんがえられます。モデルであらわすと上図のようになります。このようなモデルをもつことにより、一見複雑に見えるその地域の民族・文化・自然環境を統合的に整理し端的に理解することができます。

たとえば外国旅行に出かけて地元の料理を食べたりするときに、上記のモデルを意識してみるとあらたな発見がきっとあるにちがいありません。



▼ 引用文献
こどもくらぶ著・高橋日出男監修『気候帯でみる! 自然環境〈4〉冷帯・高山気候』少年写真新聞社、2013年2月22日
気候帯でみる!自然環境〈4〉冷帯・高山気候 (気候帯でみる! 自然環境)

▼ 注1
ケッペンの気候区分には高山気候はありませんでしたが、アメリカの気候学者トレワーサによって標高が影響する特徴的な気候として高山気候がしめされました。このため、ケッペンの気候区分と高山気候とは分布が重複する地域があります。

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〈インプット→プロセシング→アウトプット〉のモデルをえがくと冷帯地域の様子を端的にとらえることができます。『気候帯でみる! 自然環境〈4〉冷帯・高山気候』(少年写真新聞社)の前半では冷帯気候についてとりあつかっています。

冷帯は、1年のなかの気温差が大きく、冬の寒さがきびしい地域です。ケッペンの気候区分では、「もっともあたたかい月の平均気温が10℃以上、もっともさむい月の平均気温がマイナス3℃未満」とされています。より寒冷な気候である寒帯よりもややあたたかい気候であることから「亜寒帯」とよばれることもあります。

北緯40度以上の地域に集中し、ロシアやカナダは国土の大部分、日本では北海道が冷帯にふくまれます。


目 次
冷帯の気候区分
冷帯の気象災害
冷帯の植物
冷帯の動物
冷帯の産業
冷帯の都市
 日本 札幌のくらし
 ロシア イルクーツクのくらし


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■ 冷帯の気候区分
冷帯は降水量の季節変化によって次の2つの気候に区分されます。
  • 冷帯湿潤気候:あまり量は多くはないものの1年を通して降水があります。
  • 冷帯冬季少雨気候:夏に雨が多く、冬は雨・雪の量が少なく乾燥します。


■ 気温の年較差
1年のうちのもっともあたたかい月(最暖月)の平均気温と、もっとも寒い月(最寒月)の平均気温の差(年較差)が大きく、熱帯の年較差は2〜5℃ほどであるのに対し、冷帯では30℃以上になる地域があります。


■ 冷帯の気象災害
次のような気象災害があります。
  • 吹雪
  • なだれ
  • 雪解け水による災害(土石流など)


■ 冷帯の植物
「タイガ」とよばれる針葉樹林が特徴的です。代表的な針葉樹としてはエゾマツやモミがあります。


■ 冷帯の動物
  • 冬眠をする哺乳類:クマ型冬眠、ヤマネ型冬眠、シマリス型冬眠
  • 針葉樹林の動物:キンメフクロウ、ホシガラス、アメリカテン、ユキウサギ、ヘラジカ(ムース)、アムールトラ、カワヒメマス、その他


■ 冷帯の産業
  • 土壌と農業:チェルノーゼム(ロシア語で黒い土)やプレーリー土の地域では春小麦の生産がさかんです。
  • 林業:針葉樹林(タイガ)がひろがるカナダやロシアでは、エゾマツ・カラマツ・トウヒ・ドドマツなどの木材を輸出したり、木材加工・製紙業がさかんです。
  • 酪農:ウシやヒツジ・ヤギなどを飼育して乳やチーズ・バターなどの乳製品を生産する農業がいとなまれています。
  • 狩猟:農業や酪農ができない地域では伝統的に狩猟がおこなわれてきました。


■ 冷帯の都市と人々のくらし
以下が紹介されています。 
  • 日本、札幌
  • ロシア、イルクーツク
イルクーツクは、シベリア南部に位置するバイカル湖ちかくの都市です。セントラル・ヒーティングがそなわった集合住宅に多くの人々が住んでいます。ながく寒い冬にそなえて次のような保存食をつくっています。
  • バイカル湖に生息する魚、オーリムのくんせい
  • 野菜やキノコの酢漬け
  • ジャム
  • ヴァレニエ(果物の砂糖煮)




以上のように、冷帯地域でくらす人々は、その地域独自の自然環境(冷帯気候)をいかして独自の産業を発達させてきました(下図)。

 
160106 冷帯
図 冷帯地域のモデル
 

ひとつの地域は、このような〈インプット→プロセシング→アウトプット〉システムにそもそもなっています。

このような〈インプット→プロセシング→アウトプット〉の視点をもつと、地理学的な単なる記載をのりこえて、その地域を動的にとらえることができます。

  • 人々は何をインプットしているのか?(食料、物質、エネルギー、情報・・・。気象災害のような不利益なインプットもあります。)
  • 人々は何をプロセシングしているのか?(保存食をつくる、食料を消化する、エネルギーをつかう・・・)
  • 人々は何をアウトプットしているのか?(不要な物質、開拓、開発、自然破壊、情報発信・・・)

たとえば外国を旅行したときにこうした問題意識をもって旅先の地域をじっくり見てみると、自分や自分たちが〈インプット→プロセシング→アウトプット〉をおこなうときに参考になるよい事例が見つかるかもしれません。



▼ 引用文献
こどもくらぶ著・高橋日出男監修『気候帯でみる! 自然環境〈4〉冷帯・高山気候』少年写真新聞社、2013年2月22日
気候帯でみる!自然環境〈4〉冷帯・高山気候 (気候帯でみる! 自然環境)




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測定物に接触せず簡単に温度が測定できる温度計です


モデルをえがくと温帯地域の様子を端的に理解することができます。

『気候帯でみる! 自然環境〈3〉温帯』(少年写真新聞社)は『気候でみる! 自然環境』シリーズの第3巻です(注1)。温帯地域には、日本やヨーロッパやアメリカ合衆国などがふくまれます。日本やヨーロッパやアメリカをほかの気候帯と比較しつつ気候の観点からとらえなおしてみるとあらたな発見がありおもしろいとおもいます。

温帯は冬の寒さがそれほどきびしくなく、1年を通じてすごしやすい気候です。ケッペンの気候区分では、「もっとも寒い月の平均気温がマイナス3℃以上で18℃未満」のところとされています。四季のような季節の変化がみられるのも特徴です。


目 次
温帯の気候区分
温帯の気象災害

温帯の植物
温帯の動物

温帯の農業1 混合農業
温帯の農業2 園芸農業
温帯の農業3 さまざまな農業
温帯の牧畜

温帯の都市
 イタリア メッシナのくらし
 ベトナム ハノイのくらし
 日本 名古屋のくらし
 イギリス ロンドンのくらし


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■ 気温や降水量の特徴によって4つに区分されます。
  • 地中海性気候:夏は乾燥し、冬に雨が多く降ります。
  • 温暖冬季少雨気候(温帯夏雨気候):夏は気温が高くなり雨が多く降ります。冬は寒さはそれほどきびしくなく乾燥します。
  • 温暖湿潤気候:1年のうち、最暖月の平均気温と最寒月の平均気温の差(年較差)が大きいのが特徴です。夏には気温が高くなり、雨が多くなります。日本の大部分はここに属ます。
  • 西岸海洋性気候:夏はすずしく、冬の寒さはそれほどきびしくありません。1年を通じて適度に雨が降ります。


■ 温帯の気象災害には次のようなものがあります。
  • 熱帯低気圧
  • 温帯低気圧
  • 竜巻
  • 熱波
  • 寒波


■ 温帯には2種類の樹木があります。
  • 常緑樹:1年中葉をつけています。
  • 落葉樹:秋から冬にかけて葉を落とします。
常緑樹のなかで、夏の乾燥にたえられるように葉が小さく分厚い樹木を「硬葉樹」といいます(オリーブやコルクガシなど)。常緑樹のなかで、日光を照りかえすような光沢が葉にある樹木を「照葉樹」といいます(シイ、カシ、ツバキなど)。

また葉の特徴にって「広葉樹」と「針葉樹」があります。


■ 温帯の動物として次が紹介されています。
  • 哺乳類
  • わたり鳥

温帯の動物は、季節にあわせた変化やいとなみに特徴があります。


■ 温帯の農業には次ようなものがあります。
  • 混合農業:農作物の栽培と牧畜とをくみあわせています。
  • 園芸農業:大都市の近郊で、野菜や果物や花などを栽培しています。
  • 地中海式農業:夏には、乾燥にたえられる果物などを栽培し、雨が多くなる冬にはコムギの栽培や、ヤギやヒツジの牧畜をおこないます。夏の代表的にあ農作物は、レモンやオレンジ、オリーブやブドウなどです。
  • 東アジアの農業:おなじ農作物を1年で2回収穫する「二期作」をおこなう地域が多いですが、日本では、1年でおなじ種類を1回収穫する「単作」やちがう農作物を収穫する「二毛作」もおこなわれています。

■ 温帯の一部では牧畜がおこなわれてきました。
  • 企業的牧畜:規模大きく、家畜の肉や毛を売ることを目的として行われる牧畜です。
  • 酪農:ウシやヒツジ・ヤギなどを飼って乳や乳製品生産する牧畜です。

■ 温帯の都市とそこでの人々のくらしについて紹介しています。
  • イタリア、メッシナのくらし
  • ベトナム、ハノイのくらし
  • 日本、名古屋のくらし
  • イギリス、ロンドンのくらし
たとえばベトナムのハノイの気候は温暖冬季少雨気候であり、稲作(二期作〜三期作)がさかんにおこなわれています。米はご飯としてだけでなく、「フォー」や「ブン」とよばれる麺にしてもよく食べられています。また米粉の生地をうすくのばした「バインチャン」(ライスペーパー)は、ベトナム風春巻「ゴイクン」(生春巻)などにつかわれます。



以上のように温帯の地域には大きな都市が多数あり、その周辺には耕作地がひろがって混合農業や園芸農業がおこなわれています。人々は、温帯の自然環境(温帯の気候)に適応しながら農業を発展させてくらしてきました。ここにも、自然環境から人々への作用(インプット)と人々から自然環境への作用(アウトプット)がみられます(下図)。

160106 温帯
図 温帯地域のモデル


このようなインプットとアウトプットとの相互作用によって、自然環境をたくみに利用しながら人々は農業を発展させてきたのであり、このようなことがその地域の独自な生活様式さらに独自な文化を生みだしてきたといえるでしょう。

本書で紹介されている人々のくらしとその地域の気候とをセットにして統合的にとらえる視点をもつとあらたな発見があっておもしろいとおもいます。



▼ 引用文献
こどもくらぶ著・高橋日出男監修『気候帯でみる! 自然環境〈3〉温帯』少年写真新聞社、2013年1月22日
気候帯でみる!自然環境〈3〉温帯 (気候帯でみる! 自然環境)

▼ 注1
『気候でみる! 自然環境』シリーズは、『熱帯』『乾燥帯』『温帯』『冷帯・高山気候』『寒帯』の全5巻からなっています。






モデルをえがくと熱帯地域の様子を端的に理解することができます。

『気候帯でみる! 自然環境〈1〉熱帯』(少年写真新聞社)は『気候でみる! 自然環境』シリーズの第1巻です(注1)。植物園の温室などで熱帯植物を観察したり、動物園で熱帯の動物を見たり、あるいは熱帯地方を旅行したりするときに本書の内容を予備知識としてもっているとたのしみが倍増します。子供むけの本ですが大人が見てもおもしろいです。


目 次
熱帯の気候区分
熱帯の気象災害

熱帯の植物1 熱帯雨林
熱帯の植物2 サバナ

熱帯の動物1 熱帯雨林気候
熱帯の動物2 サバナ気候

熱帯の農業1 焼畑農業
熱帯の農業2 稲作
熱帯の農業3 プランテーション農業

熱帯の都市1 ブラジル マナウスのくらし
熱帯の都市2 バングラデシュ ダッカのくらし
熱帯の都市3 タンザニア ダルエスサラームのくらし
熱帯の都市4 オーストラリア ダーウィンのくらし
 

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気候とは、毎年くりかえす天気の特徴のことをいいます。さまざまな気候の特徴をもった地域が世界各地に存在し、おおまかにいくつかの「気候帯」にわけられています。もっともひろくつかわれているのはドイツ人の気候学者であるケッペンが考案した気候区分であり、生えている植物(とくに樹木)の種類に注目し、気温と降水量をもとにして、「熱帯」「乾燥帯」「温帯」「冷帯」「寒帯」の5つの気候帯にわけられています。




熱帯は、赤道付近に集中して分布します。1年を通じて気温の高い地域であり、ケッペンの気候区分では「もっともさむい月の平均気温が18℃以上」とされています。


■ 熱帯気候は次の2つにさらに区分されます。
  • 熱帯雨林気候:1年を通じて大量の雨がふります。
  • サバナ気候(注2):雨季と乾季とがはっきりわかれています。


■ 熱帯の気象災害としては次があります。
  • 洪水
  • 干ばつ
  • 熱帯低気圧・台風・ハリケーン・サイクロン


■ 熱帯の動植物としては次のようなものが紹介されています。

 熱帯雨林気候
  • 超高木層:鳥や虫が多い
  • 高木層:オラウータン、コモンリスザル、ナマケモノ、コアリクイ、ジャガー
  • 地表層:アグーチ、ラッパチョウ、カピバラ
 これらは高さによって棲み分けています。

 サバナ気候
  • キリン、ジェレヌク、イボイノシシ、ゾウ、シマウマ、クロサイ、ダチョウ
  • ライオン
 99%は草食動物です。別の植物を食べたり、おなじ植物の別の部分を食べて、食べ分けています。


■ 熱帯の農業には次の形態があります。
  • 焼畑農業(注3)
  • 稲作
  • プランテーション農業
 プランテーション農業とは、ひろい農地で一種類の農作物だけを大量に生産する農業のことです。サトウキビ・コーヒー・カカオ・天然ゴム・バナナなどが栽培されています。


■ 熱帯の都市とそこでの人々のくらしについて紹介しています。
  • ブラジル、マナウスの人々のくらし
  • バングラデシュ、ダッカの人々のくらし
  • タンザニア、ダルエスサラームの人々のくらし
  • オーストラリア、ダーウィンの人々のくらし
 たとえばタンザニアのラルエスサラームでは、トウモロコシやキャッサバの粉を水でこねてつくる「ウガリ」という料理が主食として食べられています。おもなおかずとなるのは野菜の入ったトマト味のスープである「ムチュジ」です。




以上のように熱帯地域は実に多様な世界になっていますが、次のモデル(模式図)で端的にあらわすことができます(下図)。

160104 熱帯
図 熱帯地域のモデル


熱帯地域には、マナウス・ダッカ・ダルエスサラーム・ダーウィン、そのた多数の都市が存在し、そこではたくさんの人々が自然環境(熱帯気候)に適応しながらくらしています。都市の周辺には耕作地がひろがり、焼畑農業・稲作・プランテーション農業などがおこなわれています。これらの農業は、熱帯の自然環境(熱帯気候)をたくみに利用していとなまれています。

このような自然環境と人々とのあいだには相互作用があり、自然環境から人々への作用は「インプット」、人々から自然環境への作用は「アウトプット」とよぶことができます。

インプットにより、食料やその他の物質・エネルギーあるいは情報が自然環境から人々のなかへ入ってきます。いわゆる「自然のめぐみ」といわれるものです。しかし不利益なインプットもあります。気象災害がそれです。不利益なインプットは人々のくらしを破壊します。

他方のアウトプットでは、人々は不要になった物質を外部に排出したり、あらたに耕作地を開拓したりして自然環境に作用をあたえています。近年、焼畑農業やプランテーション農業が大規模になり自然環境が破壊されています。これはアウトプットが巨大化し強力になって調和がくずれたことにほかなりません。




熱帯地域は多様な世界であり一見複雑そうに見えますが、このようなモデルをえがくことによってこの地方のさまざまな情報を統一的にとらえることができます。

モデルは、多様な情報を統合し全体の見通しをよくするためにとても役立ちます。



▼ 引用文献
こどもくらぶ著・高橋日出男監修『気候帯でみる! 自然環境〈1〉熱帯』少年写真新聞社、2012年11月22日
気候帯でみる!自然環境〈1〉熱帯 (気候帯でみる! 自然環境)

▼ 注1
『気候でみる! 自然環境』シリーズは、『熱帯』『乾燥帯』『温帯』『冷帯・高山気候』『寒帯』の全5巻からなっています。

▼ 注2
サバナ気候はサバンナ気候とよばれることもあります。

▼ 注3
焼畑農業とは、森の一部を燃やし、あとにのこった灰を肥料などにしておこなう農業です。熱帯の土地はもともと酸性度が高く、農作物をそだてるには適していませんが、焼畑をすると灰が土を中和させまた肥料にもなるためイモ類や穀類やバナナなどがそだつようになります。熱によって、害虫や病原菌をへらす効果もあります。焼畑農業は、数年間おこなうと雑草が増えたり土がやせたりして農作物がそだちにくくなるので別の土地に移動します。これを繰り返して10〜20年後にふたたび元の土地にもどってきます。しかし近年は、人口増加などにより焼畑農業を短期間でくりかえすようになり森が破壊されています。


気候帯で地球をとらえなおす - 気候帯(まとめ)-



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東日本大震災後にはじまった「森の長城」をつくる活動は防災と環境保全とを両立させるプロジェクトとして注目に値します。

「森の長城」プロジェクトの2015年次報告書がとどきました(注)。


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「森の長城」とは「災害からいのちを守る森の防潮堤」であり、植物生態学者の宮脇昭さん(横浜国立大学名誉教授)が提唱したものです。現在、東日本大震災の被災地沿岸部において「森の長城」をきずくプロジェクトがすすんでいてわたしも参加しています。

平成27年の活動は次の通りでした。
  • 植えた本数:81,600本
  • 参加した人数:10,257人

森の長城プロジェクトには年間を通して次ような活動の流れがあります。
  • 秋:採種
  • 冬:育苗
  • 春〜秋:植樹
  • 夏〜秋:育樹

今年の植樹祭の予定は次の通りです。
  • 3月27日:福島県南相馬市
  • 5月28日:宮城県岩沼市
  • 8月上旬:岩手県山田町
  • 9月ごろ:福島県相馬市


東日本大震災では、青森県から千葉県までの海岸線が地震と津波によって壊滅的な被害をうけ、防波堤もクロマツ防潮林もダメになってしまいました。

しかし被災したクロマツ海岸林ではトベラやマサキといった広葉樹が生きのこりました。東北地方の海岸では、タブノキやシロダモといった常緑広葉樹を中心とした森がのこりました。このような教訓から、津波をのりこえて生きる広葉樹が混生する森こそが地域にもっとも適した防潮林だとかんがえられています。

森の長城プロジェクト設立から4年目をむかえ、これまでに2万5千人以上の人々が20万本以上の苗木を植樹してきました。

森の長城プロジェクト >>


▼ 注
『公益財団法人 瓦礫を活かす森の長城プロジェクト 2015年次報告書』2015年12月発行

▼ 参考文献



『自然のめぐみ  〜里山と森林〜』(代々木ライブラリー)をみると自然からのめぐみと環境保全の大切さについてまなべます。イラストや写真が豊富でわかりやす。子供むけの本ですが大人が読んでもおもしろいです。

 
目 次
里山編
 里山のおひっこし?-なやめる生き物たちの会議
 生き物たちの楽園を求めて ー ビオトープへの旅
 やってみよう 見つけた! 近くの小さな自然
 もっと知りたい! 里山と生き物

森林編
 フィトン・チットンとゆかいな森の仲間 ー 木は生きている
 フィトン・チットンと森の旅へ ー 森とともに生きよう
 やってみよう 身近な森を探検しよう
 もっと知りたい! 森林


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里山とは、人里のまわりの雑木林や畑・草地・田んぼ・水路・池など、人が利用し生活とむすびついた場所のことです。たとえば里山の雑木林は、人が木や落ち葉を利用するためにながいあいだ手をいれつづけてきた人工の林です。

一方、森林は、自然環境のもっとも基本的な部分です。わたしたち人間はつぎのようなたくさんの「おくりもの」を森林からもらっています。
  • 森は「緑のダム」
  • 森は水の「クリーニング屋さん」
  • 森は国土の「おもり役」
  • 気温を調節し、空気をきれいにする

里山とは、手つかずの本来の自然ではなく人の手がくわわった土地であり、自然環境(森林)と人里とのあいだの領域に位置します(下図)。


160101 集落-里山-森林
 図 里山のモデル


自然環境(森林)は里山を介してさまざまな「おくりもの」を人里にあたえます。一方の人里は、不要な物質を自然環境に排出したり、土木工事をして自然環境を改変したり、さまざまな作用を自然環境にあたえます。

このような自然環境(森林)から人里への作用・流れは「インプット」、人里から自然環境(森林)への作用・流れは「アプトプット」とよんでもよいでしょう。すると人里で住民は「プロセシング」をおこなっていることになります。

これは〔インプット→プロセシング→アウトプット〕システムです。インプットとアウトプットの相互作用によって里山が形成されてきたのであり、このような仕組みのなかで里山は緩衝帯としての役割も果たしてきました。人里と里山と森林をめぐってはこのようなモデル(模式図)をつかうとわかりやすいです。
 



そしてこのモデルは環境保全のために有用です。人間は、土木工事などのやりすぎで森林破壊・自然破壊をすすめてしまいました。これはアウトプットの巨大化にほかなりません。 

わたしたちは里山の仕組みを再認識し、のこっている里山を保全していかなければなりません。

また本書では「ビオトープ」の活動を推奨しています。「Bio=生き物」「Top=場所」であり、ビオトープとは、もともと地域にいた野生の生き物がくらせる空間といった意味です。このビオトープを再生させることが重要です。たとえばカエルやケモノが移動できるトンネルをつくったり、トンボのビオトープをベランダにつくったり、小さなことでも一人一人ができることを実行することで生き物がまもられていきます。


▼ 引用文献
SAPIX環境教育センター企画・監修『自然のめぐみ 〜里山と森林〜』(環境学習ブックス 2)代々木ライブラリー、2013年4月20日
自然のめぐみ―里山と森林 (環境学習ブックス)



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東京国立博物館・平成館1階の考古展示がリニューアルされました。展示品が一新されただけでなく、展示ケースのガラスのうつりこみがなくなり大変みやすくなりました。考古ファンの方は必見でしょう。

ギャラリートーク「縄文土器の見方」に参加しました。

土器をみて縄文人の当時の生活を想像することはとてもたのしいことです。

また文様の割り付けがよくできている土器とそうでない土器があるそうです。仙台湾周辺の縄文土器はいつの時代でもよくできているそうです。よくできた文様は、つくりはじめる前に割り付けをよくかんがえていたということです。

縄文人は自然環境と共生してくらしていたので環境保全という観点からも興味がわいてきます。


▼ 東京国立博物館
平成館




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全体像をイメージしてから作業を実施する - 東京国立博物館・考古展示(3)-

東京国立博物館 − 歴史をフィールドワークする − (記事リンク集)




自然をシステムとしてとらえると自然の構成と進化が理解できます。

F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(NHK出版)は、「自然・人類・文明」という壮大なテーマについて西洋の視点と東洋の視点から対論の形式で論じています。

目 次
I 自然
II 人類
III 文明
附論1 人間的価値の三つの起源
附論2 進化と突然変異
附論3 経済発展と日本文化

この世界というものは秩序のある世界である。(今西錦司)

地球上のすべての生物に社会をみとめることができます。生物的自然というのはそうした社会のつみかさなりであり、全体でひとつの「生物全体社会」、一つのまとまりのある構築物をつくっています。いいかえるならば生物的自然は一つのシステムであるということです。

この生物的自然は個体と種とから構成され、これら二つはいずれも実在して世界の構造に参加しています。

西洋人は、種の起源や進化をかんがえるときに、個体がもとになってそれから種というものができていくという見方をしますが、実際にはそうではなくて個体と種とは最初から同時に成立していて、どちらが先でもどちらが後でもありません。個体と種とは二にして一のものです。

また西洋人は、生存競争と適者生存つまり自然淘汰によって新種ができるとかんがえますが、種と種(種の社会と種の社会)とはおたがいに棲み分けていて、ほかのものの縄張りをおかしません。生物の進化は自然淘汰によっておこるのではなくて、進化とは変わるべくして変わるものであり、ひとつの歴史であるととらえることができます。進化は要因論で割りきれるものではありません。

本書は、1978年に京都でおこなわれた対論を収録したものです。西洋人のかんがえ方と比較しながら今西錦司あるいは東洋のかんがえ方を理解できる好著です。

今西錦司は「自然の進化は遺伝子や遺伝学だけで解けるようなものではない」と主張し、生物の行動をもっと追跡しろと指導しています。つまりフィールドワークをするようにということです。


▼ 引用文献
F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(NHKブックス)NHK出版、2014年11月25日
自然・人類・文明 (NHKブックス No.1224)

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自然をシステムとしてとらえる - F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(1)-
進化論的に人類をとらえなおす - F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(2)-
人類進化のモデルをつかって自然・人類・文明について理解をすすめる


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伊藤弥寿彦(執筆)・佐藤岳彦(写真)『生命の森 明治神宮』(講談社)は明治神宮の森の多様な生態系を紹介した写真集です。

本書をまず見てから明治神宮の森へ行ってふたたび本書を見直せば、森林に関して認識をふかめることができます。

目 次
第1章 明治神宮の森
 コラム 明治神宮の森の歴史

第2章 明治神宮の生きもの
 コラム 明治神宮の生態調査

第3章 生命のつながり

解説

あまり知られていないかもしれませんが、明治神宮の森はおよそ100年前に人の手によってつくられた人工の森林です。

100周年の記念事業として最近おこなわれた大規模な生物調査の結果、さまざまな貴重な生物が生息していることがあきらかになりました。本書はその記録でもあります。

最初の植林はおよそつぎのようにおこなわれました。

スギやヒノキなどの単一な種ではなく、さまざまな種類の樹木をうえて自然にまかせて競い合わせ、未来永劫につづく森の完成を目指した。具体的には、この地域の潜在的な植生であるカシやシイなどの常緑樹の森を作ることを目指した。

  1. まず、50年後、100年後、150年後の変化をかんがえた3段階の予想林相図をつくりました。
  2. 最初に、日光をこのみ北風にたえられる大きなアカマツとクロマツを植えました。
  3. それら間に、やや低いヒノキやサワラ、スギ、モミなどの針葉樹を植えました
  4. そしてそれら間に、将来の主林木となるカシ、シイ、クスノキなどの常緑広葉樹を植えました。
  5. さらに、イヌツゲ、クロガネモチ、サンゴジュ、マサキ、ネズミモチなどの大気汚染につよい常緑広葉樹を植えました。
  6. 森にいろどりをそえるイロハモミジやケヤキ、エノキなどの落葉広葉樹を植えました。
  7. こうして100年後にカシやシイなどを主体とする「極相林」とよばれる安定し森にすることを目指しました。

このように明治神宮の森は世界的にみてもユニークな実験の森だったのです。そして100年ちかくたった今、そのとおり見事な極相林となって成長をつづけています。実験は成功したというわけです。

そして森林はさまざなな動物もはぐくみゆたかな生態系を形成しました。本書にはつぎよう鳥類や昆虫が紹介されています。

オオタカ、オシドリ、ダイサギ、カワセミ、アカゲラ、ハクセキレイ、コゲラ、キビタキ、シロハラ、ルリビタキ、ヤマガラ。

ヤマトタマムムシ、ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミ、アサギマダラ、アオバハゴロモ、オニヤンマ、トゲアリ、カブトムシ、コカブトムシ、ノコリギクワガタ、コクワガタ。

その他、タヌキやアオダイショウもいます。

きれいな写真がでていますのでこれらの動物の姿と名称をおぼえてしまうのがよいでしょう。

本書を見たら、明治神宮の森に実際に行って見るのがよいです。そしてふたたび本書を見れば、森林の見え方がちがってきます


151026 森林


こらまでの100年間の森の変化を想像し、森や生態系について認識をふかめることができるでしょう。


▼ 引用文献
伊藤弥寿彦 (執筆)・佐藤岳彦 (写真)『生命の森 明治神宮』講談社、2015年4月22日
生命の森 明治神宮





自分がくらしている地域の身近な地形をしっかり読みとり、自然災害にまきこまれたり落とし穴におちたりしないようにすることが大切です。

地形は、わたしたち人間をとりまく環境のなかのもっとも基本的な要素です(図)。

151014 人間と環境
図 人間と環境のモデル


身近な地形を認識することは環境を効率的に理解することにつながります。どのような地形のうえで生活し、どのような地形をあるいているのか、また地形がおよぼす作用や地形が形成された仕組みを知ることも重要なことです。

地形は、生活や人生の基盤としてふかくかかわっていますが、土木工事をおこなわないかぎり変えることはできません。地形はすでにきまっています。自分がくらしている地域の地形はうけいれるしかありません。それは宿命といってもいいかもしれません。

その地形をみずから読みとり理解し、自然災害にまきこまれたり、あるいは落とし穴におちたりしないようにしていきたいものです。


▼ 参考文献
青木正博・目代邦康・澤田結基著『地形がわかるフィールド図鑑』誠文堂新光社、2009年8月31日
地形がわかるフィールド図鑑 

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防災のために、自分たちがくらしている地域についてしらべる - 牛山素行著『防災に役立つ 地域の調べ方講座』-
地形図を読む - 山岡光治著『地形図を読む技術』-


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『地形がわかるフィールド図鑑』(誠文堂新光社)は絶景を旅しながら地形について理解をふかめるためのガイドブックです。

日本各地で見ることができる興味ぶかい地形を全国から33ヵ所えらびだしてわかりやすく解説しています。見ているだけでもたのしいですが、気にいった所には実際に行ってみるとよいでしょう。アクセス情報もでています。

目 次
北海道
 礼文島/霧多布湿原/大雪山/東大雪山/洞爺湖・有珠・昭和新山

東北
 恐山/磐梯山と猪苗代湖

関東
 袋田の滝と男体山/筑波山/鹿島灘海岸/筑波台地/浅間山・草津白根山/高原山と那須野が原/秩父盆地と長瀞渓谷/養老渓谷/武蔵野台地/江ノ島/富士山・箱根火山・愛鷹火山/コラム 地形・地層の保護

中部
 大谷崩・赤崩/上高地/佐渡島/黒部川

近畿
 伊吹山/田上山/淡路島と六甲山

中国
 出雲平野/久ち井の岩海/コラム 風穴/秋吉台と秋芳洞

四国
 讃岐富士と屋島/吉野川

九州・沖縄
 阿蘇山/雲仙/沖縄島南部

日本の地形の基礎知識
空中写真の実体視
ブックガイド
用語集


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写真が豊富で地図がでています。また鳥瞰図も掲載されていて、これがいいです。鳥瞰図と写真・図・地図をあわせて見ると理解がすすみます。

地形を見るときのポイント(着眼点)としてはつぎの点をアドバイスしています。

  1. 傾斜が変わる場所を探そう
  2. 川の様子を観察しよう
  3. 地形と植生との関係を観察しよう
  4. 土地利用との関係を観察しよう
  5. 同じ場所を何度も訪れてみよう

書名は図鑑ということになっていますが旅行ガイドブックとしてつかえます。本書をもって出かければ、絶景がどのようにして形成されたのかを知ることができ、さらに一歩ふみこんだ旅をすることができます。

本書を通して、自然の仕組みのさらなる認識へとすすんでもよいですし、地形のうえでくらす人々に注目していってもよいでしょう。自然環境あるいは人間のどちらの方向へもすすめるのが地形のおもしろいところです。地形は風景や地域をながめるときのもっとも基本的な要素であり、地域を総合的に理解するための出発点としてつかえます。

本書は、著者らの調査・研究に裏打ちされた学術的にも立派なガイドブックです。情報は非常に正確であり、自信をもっておすすめします。


▼ 引用文献
青木正博・目代邦康・澤田結基著『地形がわかるフィールド図鑑』誠文堂新光社、2009年8月31日
地形がわかるフィールド図鑑


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