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自然をシステムとしてとらえると自然の構成と進化が理解できます。

F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(NHK出版)は、「自然・人類・文明」という壮大なテーマについて西洋の視点と東洋の視点から対論の形式で論じています。

目 次
I 自然
II 人類
III 文明
附論1 人間的価値の三つの起源
附論2 進化と突然変異
附論3 経済発展と日本文化

この世界というものは秩序のある世界である。(今西錦司)

地球上のすべての生物に社会をみとめることができます。生物的自然というのはそうした社会のつみかさなりであり、全体でひとつの「生物全体社会」、一つのまとまりのある構築物をつくっています。いいかえるならば生物的自然は一つのシステムであるということです。

この生物的自然は個体と種とから構成され、これら二つはいずれも実在して世界の構造に参加しています。

西洋人は、種の起源や進化をかんがえるときに、個体がもとになってそれから種というものができていくという見方をしますが、実際にはそうではなくて個体と種とは最初から同時に成立していて、どちらが先でもどちらが後でもありません。個体と種とは二にして一のものです。

また西洋人は、生存競争と適者生存つまり自然淘汰によって新種ができるとかんがえますが、種と種(種の社会と種の社会)とはおたがいに棲み分けていて、ほかのものの縄張りをおかしません。生物の進化は自然淘汰によっておこるのではなくて、進化とは変わるべくして変わるものであり、ひとつの歴史であるととらえることができます。進化は要因論で割りきれるものではありません。

本書は、1978年に京都でおこなわれた対論を収録したものです。西洋人のかんがえ方と比較しながら今西錦司あるいは東洋のかんがえ方を理解できる好著です。

今西錦司は「自然の進化は遺伝子や遺伝学だけで解けるようなものではない」と主張し、生物の行動をもっと追跡しろと指導しています。つまりフィールドワークをするようにということです。


▼ 引用文献
F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(NHKブックス)NHK出版、2014年11月25日
自然・人類・文明 (NHKブックス No.1224)

▼ 関連記事
自然をシステムとしてとらえる - F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(1)-
進化論的に人類をとらえなおす - F.A.ハイエク・今西錦司著『自然・人類・文明』(2)-
人類進化のモデルをつかって自然・人類・文明について理解をすすめる


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古今東西の地図の歴史をみると、空間あるいは地球の認識をどのように人類が拡大してきたかがわかります。

ジョン=レニー=ショート著『世界の地図の歴史図鑑 - 岩に刻まれた地図からデジタルマップまで』(柊風舎)は、先史時代の岩に刻まれた最古の地図から今日のデジタルマップまで古今東西の地図をあつめた地図の図鑑です。

地図は、文字の発明以前から人間社会にかかせない情報の伝達や記録の手段でした。アボリジニの砂絵、イスラーム世界の天文学的な地図、中世ヨーロッパの絵画のように美しい地図、戦争中の征服地図や戦略図、そして今日のデジタル地図にいたるまで、時代をうつしだすさまざまな地図を多数の図版とともにわかりやすく解説しています。

目 次
第1部 序
 1 地図のはじまり
 2 最古の地図

第2部 古代
 3 古代世界
 4 古典時代の地図

第3部 中世
 5 中世ヨーロッパの地図
 6 イスラームの地図
 7 中国と極東

第4部 探検時代のはじまり
 8 新世界における地図学の伝統
 9 新世界の地図
 10 ヨーロッパのルネサンス時代の地図
 11 国家の地図
 12 地図帳の作製者たち

第5部 植民地時代の地図製作
 13 大英帝国の地図製作
 14 地図作製をを鼓舞する啓蒙運動
 15 新国家の地図化
 16 地図学との出会い
 17 万国共通の地図化

第6部 現代世界の地図化
 18 主題図
 19 地図と権力
 20 現代社会の地図学


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最古の地図は岩にきざんだ地図でした。

実用のための地図づくりは、農業革命を人類がおこしたころからはじまりました。それは文明のはじまりでもありました。地図は、農地や灌漑システムの管理のために重要な道具であり、土地を統制することに役立ちました。

やがて帝国が台頭してくるとともに測量技術が発達し、帝国を管理するために地図は不可欠なものとなりました。

大航海時代になると、新大陸の探検と発見においても地図は重要な役割を演じました。地球上の空白地域を調査し記載するための道具として地図が必要でした。

ヨーロッパ人が海外の領土を占領するための不可欠な要素と地図はなりました。ヨーロッパ人に新世界は従属させられ、新世界の地図ができました。あたらしい帝国は支配する領土の地図をえがき、権利を主張しました。

そして世界地図ができあがりました。

そのご世界地図は精密化がすすみ、また地図の世界でも専門分化がおこってきて、現代では、さまざまな主題図がつくられるようになりました。地質図・気候図・天気図・路線図、そのた多数の主題図が作製されています。

今日は、人工衛星による観測によるマッピング、コンピューター・マッピング、地理情報システムの時代になり、地図の歴史もまったくあたらしい段階にはいりました。


本書の特色は、古今東西の地図を大量にあつめて図鑑にしたところにあります。それぞれの言語による解説は若干わかりにくい面もありますが、さまざまな地図をたくさん見ることに大きな意義があります。

私たち人類は地図をつくりながら世界あるいは地球の認識を拡大し、意識の空間(広がり)を大きくしてきました。本書でその歴史をふりかえってみると、わたしたちは今日、グローバル化・高度情報化への歴史的な大転換期に生きていることがよくわかります。


▼ 引用文献
ジョン=レニー=ショート著『世界の地図の歴史図鑑 岩に刻まれた地図からデジタルマップまで』柊風舎、2010年11月15日
ビジュアル版 世界の地図の歴史図鑑―岩に刻まれた地図からデジタルマップまで


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ニール=マクレガー著『100のモノが語る世界の歴史』は「大英博物館展 ― 100のモノが語る世界の歴史」(注1)の関連解説書です。その第3巻は「近代への道」をテーマにしています。

ついに帝国は、膨張をつづけて外洋にのりだしました。文明の衝突と悲劇が世界各地でくりかえされるようになりました。奴隷貿易や世界の再分割がのこした傷跡はさまざまなモノが今も鮮明にしめしています。

そして産業革命をへて、世界は、グローバルな物と人の移動を基盤とした近代への道をあゆみはじめました。わたしたち人類がたどりついた近代とは何なのか。大英博物館とBBCによる世界史プロジェクトが完結します。

目 次
第14部 神々に出会う(1200~1500年)
 ホーリー・ソーン聖遺物箱
 「正教勝利」のイコン
 シヴァとパールヴァティー彫像
 ワステカの女神像
 イースター島のホア・ハカナナイア像

第15部 近代世界の黎明(1375~1550年)
 スレイマン大帝のトゥグラ
 明の紙幣
 インカ黄金のリャマ像
 ヒスイの龍の杯
 デューラーの「犀」

第16部 最初の世界経済(1450~1650年)
 ガレオン船からくり模型
 ベニン・プラーク - オバとヨーロッパ商人
 双頭の蛇
 柿右衛門の象
 ピース・オブ・エイト

第17部 寛容と不寛容(1550~1700年)
 シーア派の儀仗
 ムガルの王子の細密画
 ビーマの影絵人形
 メキシコの古地図
 宗教改革100周年記念パンフレット

第18部 探検、開拓、啓蒙(1680~1820年)
 アカンの太鼓
 ハワイの羽根の兜
 北米の鹿革製地図
 オーストラリアの樹皮製の楯
 ヒスイの壺

第19部 大量生産と大衆運動(1780~1914年)
 ビーグル号のクロノメーター
 初期ヴィクトリア朝ティーセット
 北斎「神奈川沖浪裏」
 スーダンの木鼓
 女性参政権を求めるペニー硬貨
 
第20部 現代がつくりだす物の世界(1914~2010年)
 ロシア革命の絵皿
 ホックニーの「退屈な村で」
 武器でつくられた王座
 クレジットカード
 ソーラーランプと充電器


第14部では、宗教が発達したことにより生みだされた、人間と神々との対話につかわれたさまざまなモノをみます。

第15部では、近代化がはじまる前の最後の時代の帝国成熟期のモノをみます。

第16部は、ヨーロッパ人が、とおくはなれた場所にのりだした時代についてのべています。海軍技術の発達によって海の帝国が実現し、最初のグローバル経済がもたらされました。

第17部では、宗教の改革と対立あるいは寛容がしめされ、あらたな宗教が従来の儀式とのおりあいをつけようと模索したことがわかります。

第18部は、ヨーロッパが帝国主義的な拡大をとげた時代であり、奴隷貿易が最盛期をむかえました。一方で、科学と哲学がさかんになった時代でもありました。

第19部では、産業革命がおこり、農業社会から工業社会へと大変貌をとげます。技術革新は物の大量生産へとつながり、国際貿易が発達しました。一方で、多くの国々で大衆運動がおこり、普通選挙権など政治・社会の改革をうったえるようになりました。

最後の第20部は、前例のない紛争と変化の時代です。技術革新によって、歴史上のどの時代よりも多くの物が生産されるようになり、物質社会がもたらされました。同時に資源問題や環境問題が生じてきました。


このように第3巻では、帝国の発達と巨大化、産業革命をへて近代化がはじまる様子をみることができます。帝国は、都市国家にくらべて非常に強大なものでしたが、現代の近代化でおこっていることはそれをはるかにうわまる規模の巨大化です。

このようなわたしたちの歴史は文明が発生し発達し巨大化していく過程でもありました。その将来の到達点はグローバル文明であることはあきらかでしょう。近代化とは結局はグローバル化であり、大局的にみて現代はそれが進行しつつある段階ととらえることができます。わたしたち人類は、今後、健全なグローバル文明を生みだすことができるのでしょうか。


▼ 引用文献
ニール=マクレガー著(東郷えりか訳)『100のモノが語る世界の歴史 3 近代への道』筑摩選書、2012年6月15日
100のモノが語る世界の歴史〈3〉近代への道 (筑摩選書)
※ この解説書は、別途発売されている図録(注2)とは別の本ですので混同しないように注意してください。

▼ 注1
「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」特設サイト
九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)

▼ 注2
図録『大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史』筑摩書房、2015年3月25日
大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史 (単行本) 
図録は展覧会場でも買えますが一般書店でも販売しています。「100のモノが語る世界の歴史」をより簡潔に知るためにはこちらの図録をおすすめします。あるいは、この図録をまず見てから全3巻の解説書をよむとわかりやすいです。

▼ 関連記事
数字イメージにむすびつけて100のモノをおぼえる - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(1)-
作品の解説を音声できいて物語を想像する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(2)-
人類史を概観する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(3)-
建物の階層構造との類比により世界史をとらえなおす - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(4)-
文明のはじまりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第1巻〉文明の誕生』/ 大英博物館展(5)-
前近代文明の発達をみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第2巻〉帝国の興亡』/ 大英博物館展(6)-
近代化への道のりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第3巻〉近代への道』/ 大英博物館展(7)-
モノを通して世界史をとらえる - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(8)-
世界史を概観 → 特定の時期に注目 → 考察  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(9)-
文明と高等宗教について知る  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(10)-


ニール=マクレガー著『100のモノが語る世界の歴史』は「大英博物館展 ― 100のモノが語る世界の歴史」(注1)の関連解説書です。その第2巻は「帝国の興亡」をテーマにしています。

人類は定住生活から都市をきずき、そして文明を発展させ、帝国の時代をむかえます。強大な権力を手にした帝国のどの支配者たちも、ことなる民族やことなる宗教、ことなる文化をいかにして統治すればよいか、難題に直面していきます。

そこでカリスマ性をうみだし、権威を見せつけ、宗教にすがりました。彼らのうみおとしたモノから人類の苦闘と発展の歴史よみとることができます。

目  次
第7部 帝国の建設者たち(紀元前三〇〇~後一〇年)
 アレクサンドロスの顔が刻まれた硬貨
 アショーカの石柱
 ロゼッタ・ストーン
 漢代の中国の漆器
 アウグストゥスの頭部像

第8部 古代の快楽、近代の香辛料(一~五〇〇年)
 ウォレン・カップ
 北米のカワウソのパイプ
 球技に使われる儀式用ベルト
 女史箴図(じょししんず)
 ホクスンの銀製湖沼入れ

第9部 世界宗教の興隆(一〇〇~六〇〇年)
 ガンダーラの仏坐像
 クマーラグプタ一世の金貨
 シャープール二世の絵皿
 ヒントン・セントメアリーのモザイク画
 アラビアのブロンズの手

第10部 シルクロードとその先へ(四〇〇~八〇〇年)
 アブド・アルマリクの金貨
 サットン・フーの兜
 モチェの戦士の壺
 新羅の屋根瓦
 蚕種西漸図(さんしゅせいぜんず)

第11部 宮殿の内部ー宮廷内の秘密(七〇〇~九〇〇年)
 放血するマヤ王妃のレリーフ
 ハレム宮の壁画の断片
 ロタール・クリスタル
 ターラー像
 唐の副葬品

第12部 巡礼、侵略者、貿易商人たち(八〇〇~一三〇〇年)
 ヴァイキングのお宝
 ヘドウィグ・ビーカー
 日本の銅鏡
 ボロブドゥールの仏像頭部
 キルワの陶片

第13部 ステータスシンボルの時代(一一〇〇~一五〇〇年)
 ルイス島のチェス駒
 ヘブライのアストロラーベ
 イフェの頭像
 デイヴィッドの花瓶
 タイノ族儀式用の椅子


本書の第7部は、紀元前334年に、アレクサンドロス大王が〔アケメネス朝〕ペルシャ帝国を征服、それ機に壮大な帝国の時代が到来した話からはじまります。

第8部では、近代の快楽や娯楽の活動は古代の宗教に由来することを解説しています。

第9部では、仏教・ヒンドゥー教・ゾロアスター教・キリスト教・イスラームの興隆をしめしています。世界宗教あるいは高等宗教とよばれる大宗教がはたした役割がいかに大きかったを知ることができます。

第10部では、シルクロードについてのべています。中国から地中海までつづくシルクロードは、西暦500年から800年にかけて最盛期をむかえました。人々や物資だけでなくアイデアもひろがりました。

第11部では、世界各地の華麗な宮廷内の生活を垣間見ることができます。世界の支配者たちがみずからの権力を主張するために生みだした数々のモノがみられます。

第12部では、西暦800年以降も、戦士や巡礼者、商人たちが定期的に大陸を横断し、文化の交流がすすんだことをしめしています。


『100のモノが語る世界の歴史』第1巻では、文明のはじまりと都市国家の誕生をみました。都市国家の時代の後期には戦争がはじまったこともわかりました。

その結果出現してきたのが帝国です。都市国家は都市を中心とする小規模な国家でしたが、帝国は、都市国家とはちがい広域な領土をもつことが最大の特色であり、都市国家とはくらべものにならないほど巨大化しました。

領土を主張し拡大しようとすれば、他国との国境紛争がたえずおこるようになります。このことは現代までつづいています。


▼ 引用文献
ニール=マクレガー著(東郷えりか訳)『100のモノが語る世界の歴史 2 帝国の興亡』筑摩選書、2012年6月15日
100のモノが語る世界の歴史〈2〉帝国の興亡 (筑摩選書)
※ この解説書は、別途発売されている図録(注2)とは別の本ですので混同しないように注意してください。

▼ 注1
「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」特設サイト
九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)

▼ 注2
図録『大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史』筑摩書房、2015年3月25日
大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史 (単行本) 
図録は展覧会場でも買えますが一般書店でも販売しています。「100のモノが語る世界の歴史」をより簡潔に知るためにはこちらの図録をおすすめします。あるいは、この図録をまず見てから全3巻の解説書をよむとわかりやすいです。

▼ 関連記事
数字イメージにむすびつけて100のモノをおぼえる - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(1)-
作品の解説を音声できいて物語を想像する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(2)-
人類史を概観する - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(3)-
建物の階層構造との類比により世界史をとらえなおす - 大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史(4)-
文明のはじまりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第1巻〉文明の誕生』/ 大英博物館展(5)-
前近代文明の発達をみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第2巻〉帝国の興亡』/ 大英博物館展(6)-
近代化への道のりをみる -『100のモノが語る世界の歴史〈第3巻〉近代への道』/ 大英博物館展(7)-
モノを通して世界史をとらえる - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(8)-
世界史を概観 → 特定の時期に注目 → 考察  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(9)-
文明と高等宗教について知る  - 大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史(10)-


『インド古寺案内』は、インドの古寺を宗教別に分類してやさしく解説したガイドブックであり写真集です。たくさんの建築物を通してインドの多様性をみることができます。

インドには、仏教・ヒンドゥ教・ジャイナ教・イスラム教・シク教・キリスト教・ユダヤ教・ゾロアスター教・トダ族の宗教など信じられないほど多くの宗教が今なお併存しています。インドはまさに多様性の国です。

多様性がわかると観察力がつよまります。また連想や発想の幅がひろがります。インドは多様性をまなぶために大変よいフィールドになっています。ひとつの地域・空間のなかで多様性を理解することはとても重要なことです。
 
目 次 
はじめに
 水辺の重要性
 インド宗教建築地図
 インダス文明の遺跡
 
第一章 仏教
 チャイティヤとしてのストゥーパ
 ガンダーラの遺跡 ほか
 
第二章 ヒンドゥ教
 初期の石造建築
 石彫寺院 ほか
 
第三章 ジャイナ教
 石窟寺院と石彫寺院
 南インドの空衣派 ほか
 
第四章 イスラム教
 デリーのスルタン朝
 西インドのモスク ほか
 
第五章 その他の宗教
 アージーヴィカ教の石窟寺院
 トダ族の宗教
 シク教の寺院
 キリスト教の聖堂
 ユダヤ教

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第一章では古代の仏教寺院を紹介しています。

第二章ではヒンドゥ教の寺院をとりあげています。ヒンドゥ教は、現在のインド国民の80パーセント以上が信仰する宗教です。北方型と南方型の二つのことなる様式があります。

第三章はジャイナ教です。ジャイナ教は仏教の兄弟宗教とよべる宗教であり、現代まで2500年の歴史をほこり、すばらしい建築遺産をかかえています。インド建築の最高傑作はジャイナ教の寺院です。

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第四章はイスラム教です。イスラム教は13世紀に西方からやってきました。ヒンドゥ教の寺院が神々の像であふれているのとは対照的に、礼拝堂にはまったく偶像がありません。

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第五章はその他の宗教寺院です。これらは日本では存在すらほとんど知られていません。ラーマクリシュナ・ミッションのベルール・マタ本堂は、ヒンドゥ教の伝統に、仏教・イスラム教・キリスト教の伝統をも総合した建築物であり興味ぶかいです。多様性の統合の一例がここでみられます。

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このようにインドは多くの宗教寺院が混在し多様性の宝庫になっています。ヨーロッパ世界などとは大きくことなります。

この多様性の全体像を把握するのは非常にむずかしいですが、本書は、インドにのこる寺院建築を宗教別に分類、各章の記述は、ふるい時代からあたらしい時代へと歴史的変遷をたどれるように構成してあるのでわかりやすいです。冒頭の「インド宗教建築地図」も有用です。時代的・地域的特色をみながらインド建築の全体的な見取り図をえることができます。

インドを旅行したことがある人にとってはあらためてインドをとらえなおすことができますし、これからインドを旅行する人にとっては非常にすぐれたガイドブックとしてつかえます。1冊もっていて決して損はしません。 



▼ 引用文献
神谷武夫著『インド古寺案内』小学館、2005年7月20日
インド古寺案内 (Shotor Travel)


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ニール=マクレガー著『100のモノが語る世界の歴史』は「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」(注1)の関連解説書です。展覧会のショップなどで売られている図録(注2)よりもはるかにくわしく各作品について解説しています。「大英博物館展」での体験を言語をつかって確認し、認識をさらにふかめたいという人におすすめします。

「大英博物館展」は人類史を体験的に概観できるまたとない機会になっています。具体的なモノを通して理屈ではなく視覚的にまなべるのが大きなポイントです。

『100のモノが語る世界の歴史』(解説書)は、第1巻『文明の誕生』・第2巻『帝国の興亡』・第3巻『近代への道』という全3巻構成になっていて、「100のモノ」すべてについてきれいなカラー写真とくわしい解説が掲載されています。

第1巻『文明の誕生』では、200万年前の簡素な道具を出発点にしてヒトがいかに人になり、文明を誕生させたかをみることができます(注3)。

目 次
第1部 何がわれわれを人間にしたのか(二〇〇万年前~紀元前九〇〇〇年)
 ホルネジュイテフのミイラ
 オルドゥヴァイの石のチョッピング・トゥール
 オルドゥヴァイの手斧
 泳ぐトナカイ
 クローヴィス尖頭器
 
第2部 氷河期後 ー 食べものとセックス(紀元前九〇〇〇~前三五〇〇年)
 鳥をかたどった乳棒
 アイン・サクリの恋人たちの小像
 エジプトの牛の粘土模型
 マヤ族に伝わるトウモロコシの神の像
 縄文の壺
 
第3部 最初の都市と国家(紀元前四〇〇〇~前二〇〇〇年)
 デン王のサンダル・ラベル
 ウルのスタンダード
 インダスの印章
 ヒスイの斧
 初期の書字板
 
第4部 科学と文学の始まり(紀元前二〇〇〇~前七〇〇年)
 フラッド・タブレット - 洪水を語る粘土板
 リンド数学パピルス
 ミノアの雄牛跳び
 モールドの黄金のケープ
 ラムセス二世像
 
第5部 旧世界、新興勢力(紀元前一一〇〇~前三〇〇年)
 ラキシュのレリーフ
 タハルコのスフィンクス
 中国の周の祭器
 パラカスの布
 クロイソスの金貨
 
第6部 孔子の時代の世界(紀元前五〇〇~前三〇〇年)
 オクソスの二輪馬車の模型
 パルテノンの彫刻 - ケンタウロスとラピテース族
 バス - ユッツのフラゴン
 オルメカの石の仮面
 中国の銅鈴


1 道具がわれわれを人間にした
人類はアフリカで誕生しました。わたしたちの祖先はそこで最初の石器つまり道具をつくり、肉や骨や木をきざみました。わたしたち人類は物をつくることによって、ほかのすべての動物とはことなる存在になり、さまざまな環境に適応し、世界各地へと居住範囲をひろげていきました。

オルドゥヴァイの石のチョッピング・トゥール」(タンザニア)は人類が意識的につくった最古の物の一つであり、これが、すべてのはじまりです。


2 狩猟採集の生活から農耕定住の生活へ
1万年前の最終氷河期のおわりに、世界のすくなくとも7つの場所で農耕が発達しました。それまでの狩猟採集の生活から、作物をそだて、動物を家畜化したことにより、大勢の人々が一緒にすめるだけの余剰食糧が生みだされ、人類は定住生活をするようになりました。

こうしてわたしたちは、均衡のとれた生態系の一部としてのくらしからはなれて、環境に手をくわえ、自然を支配しようとこころみはじめました。

エジプトの牛の粘土模型」は、人々が野生の牛をどうにか飼いならす方法をみつけたことをしめしています。食料を手に入れるために一頭一頭を追いかける必要はなくなりました。


3 都市と国家が誕生する
5000年前から6000年前には世界で最初の都市と国家が北アフリカとアジアの河川流域に出現しました。支配者が登場し、富の不平等が生じてきました。増大する人口を管理するための手段として文字も開発されました。

都市が象徴する富や権力を維持するためには、それらをねらう人々から守ろうとしなければなりません。いったん裕福になると裕福でありつづけるために戦いつづけなければならなくなりました。

ウルのスタンダード」(イラク南部)は、都市をゆたかにする権力が戦争で勝つ権力とむすびついていたことをしめしています。古代メソポタミアの都市のうちもっとも有名なのはシュメールの都市ウルでした。

ウルのスタンダードをのこした人々は、最古の筆記の一例「初期の書字板」(イラク南部)ものこしました。内容はビールと官僚制度についてです。うまいビールをのむことをたのしみにして働く人々は当時すでに出現していました。都市を統治しようとした支配者は、文字によって民を統制しようとしました。


4 数学や科学、文学が生まれる
都市と国家が出現し、文字が生まれたことによって、科学や数学、高度な技術を要する物、また文学が生まれました。そこには権力を誇示する目的もありました。

リンド数学パピルス」(エジプト)は、古代エジプト人が数をどのようにかんがえていたかをしめしています。行政の実務で遭遇する課題を解決するために、さまざまな場面でつかわれたであろう計算がしめされています。全部で84の問題が掲載されています。


5 大規模な戦争がはじまる
紀元前1000年ごろ、世界のいくつかの地域に新興勢力が生まれ、既存の都市国家をほろぼしました。戦争は、まったくあらたな規模でおこなわれるようになりました。

紀元前700年には、イラク北部を拠点としたアッシリアの支配者がイランからエジプトまでにまたがる帝国をきずいていました。これは桁外れの軍事力の成果でした。

ラキシュのレリーフ」(イラク北部)をみると、最初の場面は侵略軍が行軍する様子、つづいて包囲された町での血みどろの戦闘場面となり、やがて死者と負傷者および無抵抗の避難民の列へとうつります。最後には、勝利した王が占領地を勝ちほこって支配する様子がみられます。アッシリアの軍事作戦が圧倒的な勝利であったことは、この浅浮き彫りの彫刻をみればあきらかです。


6 精神の国家 - 精神文化が発達 -
ソクラテスはアテネの人々にどう異議をとなえるかを説きました。孔子は中国で和の政治哲学を提唱しました。ペルシャ人は広大な帝国内でことなる民族が共存するための方法をみいだしました。中米では、オルメカ人が歴・宗教・芸術をうみだしました。

中国の銅鈴」がつたえる主たるメッセージは所有者の権力だったにちがいありませんが、それはまた社会と秩序に関する見解もあらわしていました。


本書は、「大英博物館展」を実際にみてから読むととてもわかりやすく、世界史を一層ふかく理解することができます。展覧会の会場での歩行や視覚などの実体験を本書をつかって言語(文字)で確認するという手順をふむとよいでしょう。言語は確認の道具として非常に有用です



▼ 引用文献
ニール=マクレガー著(東郷えりか訳)『100のモノが語る世界の歴史 1 文明の誕生』筑摩選書、2012年4月
100のモノが語る世界の歴史〈1〉文明の誕生 (筑摩選書)
※ この解説書は、別途発売されている図録(注2)とは別の本ですので混同しないように注意してください。

▼ 注1
「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」特設サイト
九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)

▼ 注2
図録『大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史』筑摩書房、2015年3月25日
大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史 (単行本) 
図録は展覧会場でも買えますが一般書店でも販売しています。「100のモノが語る世界の歴史」をより簡潔に知るためにはこちらの図録をおすすめします。あるいは、この図録をまず見てから全3巻の解説書をよむとわかりやすいです。

▼ 注3
全3巻の解説書に掲載されている「100のモノ」は、日本の展覧会場で展示されている「100のモノ」とは完全には一致せず一部いれかわっていますが、大局的にはおなじであり問題はありません。どれが入れかわっているか、気がつくかどうかためしてみるのもおもしろいとおもいます。

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バクタプル

ネパールのカトマンドゥ盆地内にはかつての都市国家の面影をのこす3都市があります。都市国家の構造は環境保全のモデルとしてつかえます。

世界各地の都市国家はほとんどが遺跡になり往時の姿をうしなっているのに対し、ネパール・カトマンドゥ盆地内にあるカトマンドゥ・パタン・バクタプル(とくにバクタプル)の3都市は当時の様子をとてもよくのこしていて、世界遺産に登録されています。

これらは中心に都市があり、その周囲に耕作地(農地)がひろがり、さらにその周辺に山・川・森などの自然環境がひろがっています。これは下図のようにモデル化することできます。都市と自然環境とがつくりだす「主体-環境系」になっています。
150620 都市国家の構造
図 都市国家と自然環境がつくりだす「主体-環境系」のモデル


都市は自然環境から恩恵をうけ、一方で都市は自然環境にはたらきかけ環境を改良していきます。このような都市と自然環境との相互作用によって耕作地が生まれました。都市国家の時代にはこのような相互作用がとてもうまくいっていて環境が保全され、全体のシステムが維持されていました。

都市国家の機能は今日ではうしなわれていますが、この都市国家のモデルは環境保全のモデルとして現代に役立ちます。都市と自然環境とにあいだに、かつての耕作地のような緩衝帯をもうけることがポイントです。

2015年4月のネパール大地震でカトマンドゥ・パタン・バクタプルの旧都市国家(世界遺産)も大きな被害をうけましたが、今後、再建のために努力していきたいとおもっています。




東京都美術館
東京都美術館の企画棟(出典:Google Earth)

東京・上野の東京都美術館で「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」(注1)が開催されています。今回は、会場となっている東京都美術館の企画棟(建物)の階層構造をつかって世界史を概観してみたいとおもいます。


■ 企画棟(展覧会場)の階層構造をとらえる
今回の展覧会場には100個の作品モノ)が展示されていて、これらのモノのいくつかがあつまって1つの展示室をつくっていました。展示室はのべ8部屋ありました。

そしていくつかの展示室があつまって1つのフロアができていました。フロアは地下1階・地上1階・地上2階の3フロアとなっていました。

さらに、これらの3つのフロアがあつまって東京都美術館の企画棟(写真)が形成されていました。

展覧会場の東京都美術館の企画棟はこのような階層構造になっていました。


■ 展示内容を階層構造でとらえる
つぎに展示内容をみていきます。

展示室はつぎの8つの部屋から構成されていました。これらは世界史を8つの段階に区分したもので、歴史のなかのそれぞれの時代をあらわしていました。各展示室(部屋の空間)を意識することによりそれぞれの時代を体験できる仕組みになっていました。

第1展示室「創造の芽生え」
第2展示室「都市の誕生」
第3展示室「古代帝国の出現」
第4展示室「儀式と信仰」
第5展示室「広がる世界」
第6展示室「技術と芸術の革新」
第7展示室「大航海時代と新たな出会い」
第8展示室「工業化と大量生産が変えた世界」

つぎにフロアに注目してみると、第1〜3展示室は地下1階にありました。第4〜6展示室は地上1階、第7〜8展示室は地上2階にありました。

第1〜3展示室:地下1階
第4〜6展示室:地上1階
第7〜8展示室:地上2階

フロアの内容はそれぞれつぎのようにとらえられ、文明というより大きな概念が感じられました。フロアの空間を意識すると文明を体験できる仕組みです。

地下1階:文明のはじまり
地上1階:前近代文明
地上2階:もっと大きな文明の形成(グローバル化あるいは近代化)

そしてこれらのフロアがあつまって東京都美術館の企画棟(建物全体)が形成されており、この企画棟は、人類史の舞台あるいは空間であり、つまり地球に相当すると類比することができます。

企画棟:地球


■ 階層構造の類比をつかって理解をふかめる
階層構造とは、あるモノ(要素)が複数あつまってひとつのユニット(集合体)をつくり、そしてそれらのユニットが複数あつまって中ユニットをつくり、さらにそれらの中ユニットがあつまってもっと大きなユニットを形成していく構造のことです。

今回は、建物の階層構造と人類史の階層構造とを類比して理解をすすめてみました(図)。今回の展覧会は、階層構造の類比が特によくみとめられたすぐれた例でした。

150615 会場の階層構造と人類史の階層構造の類比

図 建物の階層構造との類比により世界史をとらえなおす。
 

階層構造に注目すると、個々のモノだけを見ていたときには見えなかったこと(時代とか文明といったこと)がつかみやすくなります。時代はモノを超え、文明は時代を超えていることもわかります。

具体的には、会場に行ったらモノに意識をくばるだけではなく、展示室に意識をくばり、フロアに意識をくばり、企画棟全体にも意識をくばることが大切です(注2)。

この方法は、言葉や理屈で対象をとらえる従来の学習法とはちがい、視覚的・空間的・体験的に物事を認知する方法です。記憶法としてもつかえます。


▼ 注1
東京都美術館「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」
東京都美術館の会期は2015年6月28日まで。その後、九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)に巡回します。

▼ 注2
ここでいう意識をくばるとは、意識してその空間をよくみて感じることです。普通よりも時間をかけるということではありません。時間をかけるよりも視覚をつかうことです。こうすることにより比較的短時間で飛躍的に理解をふかめることができます。

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本書は、東京都美術館で開催されている「大英博物館展 ─ 100のモノが語る世界の歴史」(注1)の公式カタログです(注2)。展覧会場に展示されている100の作品のそれぞれについて、写真・文・地図をつかって簡潔に解説していてとてもわかりやすいです。年表もでています。

本書をみれば、こらから展覧会にいく人にとっては予習になり、すでにみた人にとっては復習になります。


第1章 創造の芽生え
約250万年前、アフリカの初期の人類が最初の道具をつくったとかんがえられています。 そのご人類はアフリカから世界中に拡散していきました。人類の黎明期、アフリカからの旅立ちをしめす数々の道具が紹介されています。

第2章 都市の誕生
約5000年前になると肥沃な大河流域で農耕定住生活をする人々があらわれました。数百人をこえる集団も出現しました。こうして都市が誕生し、そのいくつかは都市国家になりました。そして都市に人口が集中してきたためにあらたな管理運営方法が必要になり、文字が発明されました。

第3章 古代帝国の出現
都市国家はしだいに膨張し、軍事力にものをいわせて強大な勢力へと拡大する国家があらわれました。帝国の時代の到来です。帝国の支配者は権力を掌握し維持するために戦略をねり、戦争をくりかえすようになりました。このような時代的背景のもので数々の思想家や宗教者が生まれました。

第4章 儀式と信仰
西暦300年頃、世界の宗教地図がかわりはじめました。仏教・ヒンドゥー教・キリスト教などのあたらしい宗教がひろまりはじめました。中東では、何百もの神々を崇拝する土着信仰がすたれ、ゾロアスター教・ユダヤ教・キリスト教・イスラームなどの一神教が到来しました。

第5章 広がる世界
800年頃、中国の唐王朝とイラクのアッバース朝イスラーム帝国という2つの超大国がシルク−ロードでむすばれ、東西の交易がすすみました。一方、インド洋を中心にした海路も発達しました。移動したのは人や物資にとどまらず、宗教や思想も広大な距離を旅しました。

第6章 技術と芸術の革新
900年〜1550年のいわゆる中世とよばれる時代には芸術と科学技術が飛躍的に発展しました。世界各地で、経済から天文学まであらゆる分野が発達しました。一方でうつくしく精巧なモノが数多くつくられました。

第7章 大航海時代と新たな出会い
16世紀になると、ヨーロッパの探検家たちが世界一周に成功しました。これによって、それまでには接触したことのなかった文化同士が出会うことになりました。これらのあらたな遭遇は、よい結果をもたらすこともありましたが、あらたな紛争や戦争に発展することもありました。

第8章 工業化と大量生産が変えた世界
19世紀にはヨーロッパとアメリカで産業革命がおこり、工業と大量生産の時代が到来しました。そしてあたらしい経済・政治大国が登場しました。20世紀には、政治的対立やイデオロギーの衝突も頻発し、紛争と変動の時代になりました。二度の世界大戦も経験しました。人類は、こうした不安を時にモノをつくって表現し、時にモノをつかって対処しようとしています。


100個のモノをならべて、ここまで明快な人類史の物語をあみあげたのは見事です。本展企画者の情報処理能力の高さがうかがわれます。

本書をガイドにして、人類の壮大な歴史の旅を是非たのしんでみてください。


▼ 注1
東京都美術館「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」
東京都美術館の会期は2015年6月28日まで。その後、九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)に巡回します。

▼ 注2:引用文献
『大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史』筑摩書房、2015年3月25日
大英博物館展: 100のモノが語る世界の歴史 (単行本)
本書は展覧会場でも買えますが、一般書店でも販売しています。

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東京・上野の東京都美術館で開催されている展覧会「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」(注1)に関連して、NHKのウェブサイトで展示物の解説をきくことができます。これをきけば、世界の歴史についてさらに理解をふかめることができます。
これは、BBCと大英博物館展が2010年に共同制作したラジオ番組の日本語版で、過去に放送された番組をウェブサイトで公開したものです。
縄文土器からソーラーランプまで30のモノを選択し、それぞれの作品に10分間をかけてくわしく解説しています。人類の歴史をあらたな視点からとらえなおすことができるとおもいます。
 
展覧会をこれから見る人にとっては予習になりますし、すでにみた人にとっては復習になります。わたしはこの解説をきいてみて、もういちど本物をみにいきたくなりました。
ウェブサイトには各作品の写真とともに発掘場所や時代などの情報も掲載されていて、ひとつひとつの作品をとおして地理的あるいは時代的な背景を知ることができきます。音声をききながら、文明発達のさまざまな物語を想像することができ、イマジネーションの訓練にもなります。ひとつひとつの作品がわたしたちにどのようなメッセージをつたえようとしているのか、とても興味ぶかいです。


▼ 注1
東京都美術館「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」
東京都美術館の会期は2015年6月28日まで。その後、九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)に巡回します。

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東京都美術館


東京・上野の東京都美術館で開催されている展覧会「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」(注1)をみました。700万点をこえる大英博物館の収蔵品からえらびだした100作品を通じて、200万年前から現代にいたる人類の創造の歴史をよみとこうとする企画でした。

わたしは今回は、「数字イメージ」をつかってこれら100個の「モノ」を記憶する訓練をしました。

「数字イメージ」を記憶する(その1) >>
「数字イメージ」を記憶する(その2) >>
「数字イメージ」を記憶する(その3) >>


「数字イメージ」とは語呂合わせで数字をイメージ化したものです(注2)。

展覧会場に展示されているそれぞれの作品には通し番号があたえられています。各作品をみながら、各番号の「数字イメージ」をその作品のイメージにむすびつけてあらたなイメージをつくりだし、おもいうかべました。「01=ワイン」「02=王子」「03=王座」「04=ワシ(鷲)」・・・というように数字はイメージ化されていますので、それを各作品にむすびつけてあらたなイメージをつくり記憶していったわけです。

具体的には、下記のイメージをおもいうかべて各作品を記憶していきました。この方法により100の作品を順序よく記憶することができました。

赤字は作品名、青字は「数字イメージ」です。 


地下1階
第1展示室「創造の芽生え」
01 「オルドヴァイ渓谷の礫石器」にワインをかけた。
02 「オルドヴァイ渓谷の握り斧」を王子がもっている。
03 「トナカイの角に彫られた マンモス」が王座のうえにおいてある。
04 「クローヴィスの槍先」をワシがくわえた。
05 「アボリジニの編み籠」にが片足をつっこんだ。
06 「縄文土器」のふちにオウムがとまっている。
07 「鳥をかたどった乳棒」をの人がもっている。
08 「雄牛の頭が描かれた器」をにわたした。
09 「古代エジプトの化粧パレット」をつかってお灸の準備をした。
10 「カルパトス島の女性像」がのうえにおいてある。
11 「ヒスイ製の斧」が医院の天井にある。
12 「玉琮」が皮膚科の玄関においてある。

第2展示室「都市の誕生」
13 「ウルのスタンダード」を小林一茶がもちあげた。
14 「楔形文字を刻んだ粘土板」を医師がもっている。
15 「メソポタミアの 大洪水伝説を語る粘土板」にイチゴをおいた。
16 「インダス文明の印章」を色鉛筆で模写した。
17 「オルメカ文明の仮面」のふちにがとまった。
18 「古代中国の青銅祭器」が市場にかざってある。
19 「ミノス文明の雄牛跳び像」の人物は一休さんである。
20 「金製の半月型装飾」が庭においてある。
21 「ラムセス 2 世像」は爺さんである。

第3展示室「古代帝国の出現」
22 「リディア王クロイソスの金貨」がの輝きをはなっている。
23 「アッシリアの戦士のレリーフ」は兄さんたちである。
24 「タハルコ王のシャブティ」の頭にニシンがのっている。
25 「金製のゾロアスター教徒像」は双子である。
26 「アレクサンドロス大王を 表した硬貨」を風呂にいれた。
27 「ロゼッタ・ストーン」のうえにフナがおいてある。
28 「アウグストゥス帝の胸像」の頭に双葉がある。
29 「アマラーヴァティーの 仏塔彫刻」のうえにがある。
30 「ソフォクレスの胸像」はサンマをたべている。
31 「コロンビアの戦士のヘルメット」をかぶったサイが突進してきた。


 
1階
第4展示室「儀式と信仰」
32 「六博ゲームをする人物像」は(さじ)をもっている。
33 「アメリカ先住民のパイプ」をアメリカ先住民がにかけた。
34 「マヤ文明の儀式用ベルト」のうえにミシンがおいてある。
35 「ミトラス神像」の土台は珊瑚でできている。
36 「アラビアの手形奉納品」とサルが握手した。
37 「ササン朝ペルシャの王を表した皿」がのまんなかにおいてある。
38 「クマーラグプタ 1 世の金貨」を産婆さんが胸につけた。
39 「ガンダーラの仏像」がのなかにある。
40 「ターラー菩薩像」がのなかにある。
41 「預言者ヨナを表した石棺」のうしろにシイの木がはえている。
42 「ウマイヤ朝カリフの金貨」を新聞でくるんだ。

第5展示室「広がる世界」
43 「唐三彩の官吏俑」のケースに染みがついている。
44 「敦煌の旗」をつけた獅子がやってきた。
45 「ハレム宮の壁画片」が信号の下においてある。
46 「キルワ採集の陶片」が跡にある。
47 「ボロブドゥールの仏頭」が支那竹(しなちく)をたべている。
48 「ホクスンの銀製胡椒入れ」が芝生のうえにおいてある。
49 「カロリング朝の象牙彫刻」を漆喰でかためて保護した。
50 「ヴァイキングの遺宝」のなかに独楽(こま)がある。
52 「モチェ文化の壺」に護符がつけてある。
53 「マヤ文明の祭壇」のわきにゴミ箱がおいてある。

第6展示室「技術と芸術の革新」
54 「聖ヒエロニムスのイコン」の人物には筋肉質で つよいがある。
55 「シヴァ神とパールヴァティ神像」がココアをのんでいる。
56 「ワステカ文化の女神像」のゴムの人形をつくった。
57 「アステカ文明の悪霊の像」にがかかった。
58 「インカ文明の黄金のリャマ小像」がごはんをたべている。
59 「イースター島の石像」はコックである。
60 「聖エウスタキウスの聖遺物容器」をもってロマンダンスをおどる人々がいる。
61 「タイノ族の儀式用椅子」にロビンがとまった。
62 「ルイス島のチェス駒」をロープでつないだ。
63 「聖ヘドウィグの杯」でムーミンが水をのんだ。
64 「イフェの頭像」にがとまった。
65 「青花皿」を婿にプレゼントした。
66 「金継ぎされた碗」のうえにムームーをたたんでおいた。
67 「イズニク陶器の花紋皿」のうえにがおいてある。
68 「ヘブライ語が書かれたアストロラーベ」をロバが首からかけている。
69 「明の紙幣」がロックコンサートで配布された。
70 「デューラー作『犀』」の犀をでつないだ。


 
2階
第7展示室「大航海時代と新たな出会い」
71 「世界一周記念メダル」が地衣植物のうえにおいてある。
72 「初めての世界通貨」のうえに夏蜜柑がおいてある。
73 「柿右衛門の象」にがかかる。
74 「ゴアのキリスト像」のそばにがある。
75 「シーア派の儀杖」のふちに軟膏がついている。
76 「ムガル王子の細密画」をナイロンの袋にいれた。
77 「両面式のカメオ」をがつけている。
78 「宗教改革 100 周年記念ポスター」が納屋にかざってある。
79 「ナイジェリアのマニラ(奴隷貨幣)」が地球儀の下においてある。
80 「ベニン王国の飾り板」がのうえにおいてある。
81 「ジャワの影絵人形」にがかかった。
82 「シエラレオネの儀式用仮面」を(やに)で修復した。
83 「贈答用に作られたこん棒」がのなかにある。
84 「ハワイの冑」のなかにヤシがある。
85 「カナダ先住民のフロックコート」にヤゴがとまっている。
86 「乾隆帝の詩を刻んだ璧」にハムがおいてある。

第8展示室「工業化と大量生産が変えた世界」
87 「ビーグル号のクロノメーター」にがおいてある。
88 「ヴィクトリア朝の ティーセット」でが紅茶をいれている。
89 「北斎漫画」をで装飾した。
90 「バカラの水差し」をがくわえている。
91 「自在置物(ヘビ)」のそばにをうった。
92 「アメリカの選挙バッジ」をのなかにいれた。
93 「ロシア革命の絵皿」がのうえにおいてある。
94 「ホックニー作『退屈な村で』」の人物はで髪をすいている。
95 「アフガニスタンの戦争柄絨毯」のうえでクコ茶をのんだ。
96 「パプアニューギニアの盾」のところにネコがやってきた。
97 「銃器で作られた『母』像」にがある。
98 「クレジットカード」をつかってクッパーをたべた。
99 「サッカー・ユニフォームのコピー商品」をきた人が救急車にのっている。
100 「ソーラーランプと充電器」のうしろにヒマワリがある。


以上により100個の「モノ」を順序だてて記憶することができました。あとは、目をつぶって何も見ないで01から順番にイメージをおもいだせるかどうか確認してみます。イメージ訓練とともに想起訓練もするのです。

記憶法の基本は理屈や言葉ではなくイメージをつかうところにあります。それらのイメージが情報処理あるいはアウトプットのために役立ちます(注3)。

記憶法を実践したほうが、あるきながら作品をただ見ていくだけのときよりも、かけた時間はおなじでも体験はよりふかまるとおもいます(注4)。


「数字イメージ」による記憶法をつかうと、100個のモノとはかぎらず100件の情報を記憶しやすくなります。世の中では、「○○○の100」といったよく整理された体系をしばしばみかけます。これらをつかわない手はありません。これらの情報に「数字イメージ」をむすびつけることにより、たのしみながら比較的短時間でらくに100件の情報を記憶することができ、情報が活用しやすくなります。

今回の大英博物館展では「100のモノ」とありましたので、「数字イメージ」をつかった記憶法を訓練するにはちょうどよいとおもい実践してみました。



▼ 注1
東京都美術館「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」
東京都美術館の会期は2015年6月28日まで。その後、九州国立博物館(2015年7月14日〜9月6日)、神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)に巡回します。

▼ 注2:参考文献
栗田昌裕著『記憶力がいままでの10倍よくなる法』三笠書房、2002年5月
※ 今回は、線形法(Linear method)と埋込法(Key method)をおもにつかいました。「数字イメージ」をイメージのキーとしました。

▼ 注3
記憶法は、情報処理でいうとおもにプロセシングの方法であるととらえるとわかりやすいです。

▼ 注4
今回の展覧会場を一通りみおわるまでにかかった時間は約2時間でした。

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鳥獣戯画(模本、東京国立博物館 本館)
(本館では撮影が許可されていました)
 
鳥獣戯画は、自然環境と人間との相互浸透的な世界を表現しています。

続きを読む

『日本史の謎は「地形」で解ける』など、歴史や文明に関する竹村公太郎さんの一連の著作を読んでいると、竹村さんがもちいている研究の方法が一般の人文学者とはことなることに気がつきます。竹村さんの探究の方法は「仮説法」であることをここで確認しておきたいとおもいます。

たとえば『本質を見抜く力 - 環境・食料・エネルギー -』のなかで竹村さんは、人文学者は「概念で表現されますが、私は理科系の人間なのでデータに基づいて話します」とのべています。

一般の人文学者は、概念がまずあって、つぎにさまざまなケースをとりあげたり想定したりして概念を論理的に展開し、そして結論をつぎつぎにひきだしていきます。

それに対して竹村さんは、まず現場と現場のデータに注目します。そして、自然の法則やさまざまな外的条件などを参照のうえ、仮説をたてます。仮説をたてたら、ふたたび現場を調査して仮説を検証していきます。

現場のデータ → 法則や条件を参照 → 仮説をたてる → 検証する

これは自然科学の方法です。仮説を検証するとはいいかえると実験をするということです。竹村さんは、物理学者や化学者が室内で実験をするかわりに現地調査をしているのです。

竹村さんは、従来は人文学者の研究領域だった歴史や文明を自然科学の方法で研究してみたわです。そもそもこのようなことをした先駆者は梅棹忠夫さんです(注1)。梅棹忠夫さんの『文明の生態史観』などを竹村さんも実際に読んでいます。一方、人文学者のなかでは梅原猛さんが同様な方法をもちいて研究をしています(注2)。このような方法は「仮説法」とよんでもよいでしょう。

「仮説法」は推理小説の方法と実はおなじです。現場のデータから仮説をたて、そして検証していく一連の流れは推理の過程にほかなりません。

竹村さんらは、その推理の過程(研究のプロセス)をそのまま書きあらわしているので文章が教科書的にならず、読者も一緒に推理をたのしめるようになっています。このあたりのところを意識しながら竹村さんのらの本を読んでみるとおもしろいとおもいます。



▼ 注1

▼ 注2

養老孟司・竹村公太郎著『本質を見抜く力 - 環境・食料・エネルギー -』は文明をささえる下部構造に注目しながら、文明の本質にアプローチしていく本です。

目 次
第1章 人類史は、エネルギー争奪史
第2章 温暖化対策に金をかけるな
第3章 少子化万歳! - 小さいことが好きな日本人
第4章 「水争い」をする必要がない日本の役割
第5章 農業・漁業・林業 百年の計
第6章 特別鼎談 日本の農業、本当の問題(養老孟司&竹村公太郎&神門善久)
第7章 いま、もっとも必要なのは「博物学」


■ 人類史はエネルギー争奪史である
アメリカの覇権は1901年に石油が大量に出たことからはじまりました。アメリカの大国化や覇権については人文科学の方がいろいろ分析していますが、単純に石油の力だったと言いきることができます。先の日米戦争も油ではじまり油でおわったのです。

日本国内をみても徳川幕府にはエネルギーに関する長期戦略がありました。

このようにエネルギーの面からみると歴史がかなりちがってみえてきます。人類史とはエネルギー争奪史であるという仮説をたてると、かくれていた下部構造にこそ真実があったことがわかります。


■ 未来の日本文明は北海道がささえる
地球温暖化問題が大きくとりあげられていますが、温暖化対策に金をつかうことは無意味です。原因はともかくとして温暖化は今後ともすすんでいきます。

それではたとえば日本はどうのるのでしょうか? 温暖化した未来では北海道の気候が今の関東平野ぐらいの気候になります。そして北海道が大穀倉地帯になります。北海道は、東北6県プラス茨城県・栃木県という広大な面積があり、日本文明にとっての切り札になります。首都を札幌にうつしてもよいです。

いまは大都会ばかりが繁栄していますが、将来は、こういった自然の恵みのある地域が強くなるのはあきらかです。情報は、インターネットでどこにでもいきわたりますから情報の問題ではありません。

そもそも今日の日本文明が発展できたのは、日本中の英知と力を集中させることができる関東平野があったからです。この関東平野は徳川幕府が湿地帯だった関東地方を「関東平野」につくりかえたのです。この関東平野のインフラが日本文明を今日にいたるまでささえてきたのです。したがって未来は、北海道が「第二の関東平野」になって将来の日本文明をささえることになります。

地球温暖化のもとでは、南北に長い国土をもつ日本は大変有利な条件にあります。国土が小さかったり東西に長かったら環境変動についていけません。それにくわえて日本人は、環境・食料・エネルギーに関する対策をこれまでもしてきた民族です。人類の文明史のなかで、山の木を植林でまもろうとしたのはおそらく日本文明だけでしょう。したがって日本文明は今後とも崩壊しません。

それに対して、二度と回復することのない「化石地下水」のくみあげなどを継続しているアメリカの農業はいずれたちゆかなくなることはあきらかです。


■ インフラは文明をささえる
インフラには人に見えないという意味があります。インフラ・ストラクチャーとは「人には見えない構造物」のことです。文明をささえている下部構造は意識しないと見えない宿命をもっていますが、インフラは文明を下部からささえています。

このようなインフラは自然環境をそのままつかうのではなく、自然をいかしながらもそれを改良してつくります。「環境派」の人々も人間の手をくわえたほうがいいことに気づきはじめました(注)。


■ 五感をはたらかせる
これからは概念で理論を構築する分野ではなくて、博物学のように五感をはたらかせるやり方が必要です。博物学のように、帰納的に下からつみあげる学問は普遍性をえることができます。今まで見えてこなかったこと、あるいは見なかったことが見えてくるようになります。
 
このような博物学的な感覚と、それから第一章で述べたモノからかんがえる方法、この二つを組みあわせて物事をとらえることが、今後の日本あるいは世界の行方をきめてゆくうえで必要なことです。


どうでしょうか。この斬新な視点。説得力があるとおもいますがそれ以上におもしろい。まずは本書を読んで自分なりに推理をたのしんでみるのがよいでしょう。



▼ 引用文献
養老孟司・竹村公太郎著『本質を見抜く力 - 環境・食料・エネルギー -』(Kindle版)PHP研究所、2008年9月12日
本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー PHP新書


▼ 注
わたしの意見では、国立公園のように自然をそのまま保全する地域を確保したうえで、別の地域では自然環境をいかしながらも手をくわえるのがよいとおもいます。


現場のデータから仮説をたてる - 竹村公太郎さんらの方法 -


竹村公太郎著『日本史の謎は「地形」で解ける(文明・文化篇)』は、前著『日本史の謎は「地形」で解ける』の続編です。前著にひきつづいて本書を読むと日本文明に関する理解が一層すすみます。

本書の中核をなすのは、第4章〜第7章の江戸の都市づくりに関する論考です。ここを中核にして、その前の時代の織田信長、その後の日本の近代化に関する論考を読むと、日本列島という地形のうえで日本文明がいかに成長したかについて理解をふかめることができます。

目 次
第1章 なぜ日本は欧米列国の植民地にならなかったか ①
第2章 なぜ日本は欧米列国の植民地にならなかったか ②
第3章 日本人の平均寿命をV字回復させたのは誰か
第4章 なぜ家康は「利根川」を東に曲げたか
第5章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか ①
第6章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか ②
第7章 なぜ江戸は世界最大の都市になれたか ③
第8章 貧しい横浜村がなぜ、近代日本の表玄関になれたか
第9章 「弥生時代」のない北海道でいかにして稲作が可能になったか
第10章 上野の西郷隆盛像はなぜ「あの場所」に建てられたか
第11章 信長が天下統一目前までいけた本当の理由とは何か
第12章 「小型化」が日本人の得意技になったのはなぜか
第13章 日本の将棋はなぜ「持駒」を使えるようになったか
第14章 なぜ日本の国旗は「太陽」の図柄になったか
第15章 なぜ日本人は「もったいない」と思うか
第16章 日本文明は生き残れるか
第17章 【番外編】ピラミッドはなぜ建設されたか ①(注1)
第18章 【番外編】ピラミッドはなぜ建設されたか ②

たとえば徳川家康は、関東の弱点が関宿にあることを見ぬいたり、利根川を東にまげる大工事をおこなったり、東京湾岸に運河をつくったりして関東と江戸をみごとにつくりかえました。関東平野の改良と制御なしには江戸時代の繁栄はありえませんでした。またこの江戸と関東平野がその後の日本の近代化の基盤となりました。

家康らは、自然環境に一方的に支配されたり環境にただ適応して生きていたのではなく、自然環境に対して主体性を発揮してそれを能動的に改良したのです。そこには、自然環境とそこで生きる人々との相互作用をみとめることができます。大げさにいえば江戸と関東平野は自然環境と家康らの合作であったのです。そしてそのうえにたってその後の文明が成長できたというわけです。

著者の竹村公太郎さんの方法はこのように一般の人文学者とは大きくことなります。つぎのようにのべています(注2)。

歴史を芝居にたとえると、歴史の下部構造は舞台と大道具で構成された舞台装置である。歴史で活躍した英雄たちは、その舞台装置の上で演技する俳優たちである。俳優たちの演技を評論する人は多いが、舞台装置を評論する人はない。インフラに携わってきた私は、下部構造の舞台装置が気になってしまうのだ。

登場人物だけに注目するのではなくて彼らが行動していた「舞台」すなわち大地も同時に見ること、要素とともにそれが入っている空間全体を見るが大事だということでしょう。

徳川家康は、現場をあるいて地形を観察しつくしていた日本史上最高級のフィールドワーカーであったそうです。家康にはおよばないにしてもわたしたちも家康からまなび、まずは野外にでて、理屈をはなれて自分の目で自然を見ることからはじめたいものです。



▼ 引用文献
竹村公太郎著『日本史の謎は「地形」で解ける(文明・文化篇)』(Kindle版)PHP研究所、2014年2月3日
日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)


▼ 注1
第17〜18章のピラミッドに関する論考も斬新です。このような視点は一般の考古学者にはないのではないでしょうか。歴史や文明を「基盤」からとらえなおすことが大切であることをおしえてくれるとともに、文明にはかならず「基盤」があることもしめしています。

▼ 注2
竹村公太郎さんは専門の歴史学者ではないことも自由な発想を可能にしているとおもわれます。専門の歴史学者は定説や学会の価値観にとらわれているので常識とはちがうことは言いづらい状況にあります。また学校教育の影響もあって言語をつかってかんがえる習慣を身につけている人が多いです。それに対して竹村さんはあきらかにフィールドワーカーです。あちこちにでかけていっていろいろなアイデアをおもいつく。たのしいことです。その根底にはマチュア精神があるのではないでしょうか。アマチュア精神は是非大切にしたいものです。

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竹村公太郎著『日本史の謎は「地形」で解ける』は、地形の観点から日本史の謎をあらたに読みといた本です。地形をみて仮説をたてて歴史の常識をひっくりかえしていく様子は推理小説を読んでいるようでもあり大変おもしろいです。 

目 次
第1章 関ヶ原勝利後、なぜ家康はすぐ江戸に戻ったか
第2章 なぜ信長は比叡山延暦寺を焼き討ちしたか
第3章 なぜ頼朝は鎌倉に幕府を開いたか
第4章 元寇が失敗に終わった本当の理由とは何か
第5章 半蔵門は本当に裏門だったのか 徳川幕府百年の復讐 ①
第6章 赤穂浪士の討ち入りはなぜ成功したか 徳川幕府百年の復讐 ②
第7章 なぜ徳川幕府は吉良家を抹殺したか 徳川幕府百年の復讐 ③
第8章 四十七士はなぜ泉岳寺に埋葬された 徳川幕府百年の復讐 ④
第9章 なぜ家康は江戸入り直後に小名木川を造ったか
第10章 江戸100万人の飲み水をなぜ確保できたか
第11章 なぜ吉原遊郭は移転したのか
第12章 実質的な最後の「征夷大将軍」は誰か
第13章 なぜ江戸無血開城が実現したか
第14章 なぜ京都が都になったか
第15章 日本文明を生んだ奈良は、なぜ衰退したか
第16章 なぜ大阪には緑の空間が少ないか
第17章 脆弱な土地・福岡はなぜ巨大都市となった
第18章 「二つの遷都」はなぜ行われたか

本書の中核となるのは第1章と第5〜13章に見られる江戸と徳川幕府に関する論考です。

たとえば江戸城の半蔵門は江戸城の裏口であり、緊急時の将軍の脱出口であったとわたしもおもっていました。しかし第5章「半蔵門は本当に裏門だったのか」を読むと・・・。

竹村公太郎さんは、最初、天皇・皇后両陛下が半蔵門からお出になるのを見て、裏口の半蔵門からなぜお出になるのか疑問におもいました。また勤務先がちかくだったこともあってお堀端をよく散歩していました。そして、そこで見た光景が広重の絵《山王祭ねり込み》とかさなり最初の着想をえました。「半蔵門のところには橋がかかっておらず土手になっていた」。その後、江戸の古地図を見て甲州街道(今の新宿通り)が半蔵門に直結していることなどから「半蔵門は・・・」という仮説をたてました。そして仮説を実証するために皇居周辺を再度あるいてみました。現地調査です。すると、新宿通りは尾根道、難攻不落の地形、江戸の誕生は甲州街道から・・・、つぎつぎに新発見(再発見?)がありました。

こうして最初の疑問から、散歩をして、絵をみて、地図をみて、仮説をたてて、現地調査をして、検証をしていったわけです。これはフィールドワークの方法です

竹村さんは「地形を見ると、歴史の定説がひっくり返る」「地形を見ていると新しい歴史が見えてくる」といい、地形と歴史のあたらしい物語をみごとにえがきだしています。そしてなんと、江戸の地形からの推理が「忠臣蔵」の謎解きに発展していくのです。

本書は、著者と一緒に推理をすすめながら読める書き方になっています。著者と一緒に推理をたのしんでください。そして今度は、歴史のその現場を実際にあるいてみて自分の目でたしかめてみるとさらにおもしろいでしょう。



▼ 引用文献
竹村公太郎著『日本史の謎は「地形」で解ける』(Kindle版)、PHP研究所、2013年10月1日
日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)


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インドの仏たちをみながら、仏教史を概観することができます。
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中村元著『古代インド』は、古代インド人の生活と思想を歴史的にのべたインド古代史の概説書です。著者の調査旅行の結果もとりいれられていて、現代からとらえなおしたインド古代史になっています。

目 次
第一章 インドの先住民
第二章 アーリヤ人の侵入
第三章 農村社会の確立とバラモン教
第四章 都市の出現
第五章 原始仏教の出現
第六章 統一的官僚国家の成立ーマガダ国からマウリヤ王朝へ
第七章 異民族の侵入
第八章 クシャーナ王国
第九章 大乗仏教
第十章 グプタ王朝の集権的国家
第十一章 セイロンとネパール

今回は、釈迦が生きた時代について特に検証してみたいとおもいます。釈迦が生きた時代については「第四章 都市の出現」と「第五章 原始仏教の出現」におもに記述されています。

第四章では、インド地域に進出してきたアーリア人が農業を発展させたことがのべられています。

ガンジス川中流域に移住してきたアーリア人たちは、積極的に開墾を行った。

アーリア人たちは開墾をおこない田をつくり、灌漑水路をつくり、耕地を整備して多量の農産物を生産するようになりました。彼らの物質的生活はきわめてゆたかになり、物資がゆたかになるとともに商工業が発達し、いくつかの大きな集落は小都市へと発展しました。アーリア人たちは農業革命をおこしたといってもよいでしょう。そしてこれがその後の都市国家成立の基盤になりました。

これらの小都市を中心に、周囲の町々や村落を包括する群小国家が多数併存していた。

これは都市国家の時代とよんでもよいでしょう。初期のころの都市国家はそれぞれ小規模であったため、都市国家同士のあいだに明確な国境はなく争いもありませんでした。都市国家は領土国家(帝国)とはちがう点に注意してください。
 
時代の経過とともに、群小諸国はしだいに大国に合併されていく過程にあった。

その後、それぞれの都市国家が発展してその規模が大きくなってくると摩擦や衝突がおこり、より強力な都市国家がより弱い都市国家を併合していきます。ここでの併合は、平和的な併合よりも武力による併合つまり戦争の方が多かったのではないでしょうか。

原始仏教聖典のうちには、しばしば当時の大国を「十六大国」として総称してその名を挙げている。

このような都市国家が群雄割拠する時代に釈迦は生まれたのです。

そして、「十六大国」のひとつであったマガダ国が他国をうちやぶりながら成長し、前5世紀末、インド全体を統一することになるのです。マガダ国は、首都ラージャグリハのあたりに優秀な鉄の生産地をもち、武器の製作技術にすぐれていたことが戦争に勝利する大きな要因だったそうです。

一つは巨石を射出する弩機(どき)であり、他の一つは鎚矛(つちほこ)をさきにつけて、疾走しながら敵軍にひじょうな損害をあたえる戦車である。

このように釈迦が活動した時代は都市国家の時代の末期だったのであり、都市国家同士が戦争をはじめた時代であったとかんがえることができます。それは同時に、インド統一国家(領土国家あるいは帝国)が成立していく初期段階でありました。

都市国家 →(戦争)→ 領土国家

このように人々が戦争をはじめた残酷な時代、苦悩の時代だったからこそ仏教が成立し、またひろく受けいれられたのではないでしょうか。

今回は、東京国立博物館の特別展「インドの仏」と関連資料から立てた仮説を『古代インド』をつかって検証してみました。


▼ 引用文献
中村元著『古代インド』(講談社学術文庫)、講談社、2004年9月10日
古代インド (講談社学術文庫)

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時間と空間を往復する - 物語から場所へ、場所から物語へ -

世界遺産で仏教伝来の足跡をたどる -『世界遺産で見る仏教入門』-
ブッダの生涯と時代的背景を理解する - 中村元著『ブッダ入門』-
都市国家の時代の末期を検証する - 中村元著『古代インド』-
伝記と歴史書をあわせて読む - 釈迦の生涯と生きた時代 -

▼ 追記
「都市国家→(戦争)→領土国家」という転換は南アジアだけではなく世界各地でみられ、これは人類史上のひとつの大きな転換点であったとかんがえられます。領土国家の時代は現代までつづいていて、人類は、領土あるいは国境をめぐる紛争や戦争を今でもくりかえしています。戦争の起源を知るためにも、都市国家とその末期の状況について知ることは重要なことだとおもいます。いいかえると人類は、都市国家の時代の中期ごろまでは戦争はしていなかった、人類は元来は平和な種(species)だったのではないかとかんがえられます。


中村元著『ブッダ入門』は、仏教の開創者であるゴータマ=ブッダの生涯と思想を解説したブッダ入門書です。神話的な聖者としてではなく、一人の人間としてブッダの姿を学術的にのべているのが特色です。春秋社が主催した連続講演会の記録をもとに執筆された解説書であり、ブッダをたたえる神話・伝説を記述したいわゆる仏伝ではありません。

目次
第一章 誕生
 一 はじめに
 二 家系と風土
 三 釈尊の誕生
第二章 若き日
 一 幼き日々
 二 若き日の苦悩
 三 結婚
 四 出家
第三章 求道とさとり
 一 釈尊とマガダ国王ビンビサーラ
 二 道を求めて
 三 真理をさとる
第四章 真理を説く
 一 説法の決意
 二 釈尊の説いたこと
 三 伝道の旅へ
第五章 最後の旅
 一 釈尊とヴァッジ族の七つの法
 二 終わりなき旅路
 三 最後の説法

著者が実際に現地を訪問したときの見聞をおりまぜながらかたっているのでとてもわかりやすく、読んでいると実際に行ってみたくなります。

ブッダはルンビニー(現ネパール領内)で誕生しました。「釈迦の誕生は紀元前463年、亡くなったのは紀元前383年」という説を著者は提出していますが、確定的なことはいえないそうです。29歳で出家して、その後ブッダガヤーの菩提樹の下で悟りをひらき、サールナートで説法をはじめ、故郷をめざしてあるいている途中のクシナーラーで入滅しました。

ブッダの生涯については、ルンビニー、ブッダガヤー(ボードガヤー)、サールナート、クシナーラー(クシナガラ)という聖地(場所)にむすびつけてとらえることができ、理解しやすくてありがたいです。特定の場所(地図上の位置)にむすびつけて情報を理解し記憶しておくと、あとでそれらの情報がつかいやすくなります。

またブッダが生きた時代の背景にも注目しておきたいとおもいます。

釈尊は、出家してから七日目に、当時最大の国であったマガダ国の首都、王舎城におもむいたといわれています。(中略)当時の都市は城郭で、城壁でとり囲まれていたので、王舎城というのです。この「城」を日本のお城の意味で解釈すると、ちょっと食い違います。むしろ都市ですね。(87ページ)

王舎城(注)の城壁の跡が今でも見られ、城壁の中全体が都市だったそうです。つまり当時の国家は基本的には都市であり、国の規模はまだ小規模であったのであり「都市国家」とよぶことができるでしょう。

のちに、王舎城のマガダ国はあちこちの都市を征服してインド統一にのりだしていくことになります。それにともない首都はパータリプトラ(現パトナ)にうつされます。そして前3世紀、マウリヤ朝アショーカ王の時にインド初の統一帝国がきずかれました。

つまりブッダが活動した時代は、いくつもの都市国家同士が戦争をはじめた非常にきびしく残酷な時代だったということができます。多くの都市国家が滅亡して領土国家(帝国)が建設されていった時代です。都市国家が崩壊して都市国家の時代がおわりつつあり、領土国家(帝国)の時代へとうつりかわっていく大きな歴史的転換期にブッダは生まれたとかんがえられます。

このようにブッダという一人の人間の一生を知ると同時に、ブッダが生きた時代の背景もあわせてとらえることが大切だとおもいます(図)。

150421 一生と時代的背景
図 人の一生と同時に時代的背景もとらえる



▼ 注
王舎城は、パーリ語で「ラージャガハ」、サンスクリット語で「ラージャグリアハ」といい、現在のインド・ビハール州・ラージギルです。周囲は連山でかこまれ、その中は平地で都市になっていて、連山に城壁をめぐらせて敵から都市を防御していました。Google Earth でみると連山が確認できます。当時のインドでもっとも文明がすすんでいた都市のひとつでした。

Google Earth <ラージギル(王舎城)>


▼ 引用文献
中村元著『ブッダ入門』春秋社、1991年9月10日
ブッダ入門

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時間と空間を往復する - 物語から場所へ、場所から物語へ -

世界遺産で仏教伝来の足跡をたどる -『世界遺産で見る仏教入門』-
ブッダの生涯と時代的背景を理解する - 中村元著『ブッダ入門』-
都市国家の時代の末期を検証する - 中村元著『古代インド』-
伝記と歴史書をあわせて読む - 釈迦の生涯と生きた時代 -

3D ルンビニ - ブッダの生誕地 -
3D ネパール国立博物館(1)「仏教美術ギャラリー」



学研教育出版が、『学研まんが世界の歴史』の電子書籍版の配信をはじめました。第1巻〜第3巻までは、通常価格は 500 円(紙の単行本842円)のところが、セールス価格 200 円(税込み)で大変お買い得になっています。セールス期間は4月15日までです。

このシリーズは、人類がきずいてきた世界の歴史を15の時代にわけ、それぞれの時代を生きぬいた代表的な人物を中心にして物語をえがいています。とてもわかりやすくまとめられており、大人が見てもたのしめる内容になっています。

第1巻『古代文明のおこりとピラミッドにねむる王たち』はつぎの5章から構成されています。

1 人類が出現する前
2 人類の登場
3 メソポタミア文明
4 エジプト文明
5 ユダヤ教の成立

今回は、漫画が、速読法や記憶法の教材としてつかえることを強調したいとおもいます。

たとえば、ある敷地(土地)にまとまった5棟の建物群がたっているとイメージします。それぞれの建物には上の5つの章の看板がついています。電子書籍の各ページを見ながら、それぞれのページは階(フロアー)であり、漫画のひとコマひとコマは部屋であるとイメージします。そしてページをめくりながら1階、2階、3階と建物をのぼっていくイメージをします。

章は「建物」、ページは「階」、コマは「部屋」と空間的構造的なイメージをえがくことがポイントです。そして、各コマあるいは各ページをなるべく高速で見ていきます。読むというよりも見た方がよいです。視覚で情報をキャッチするのです。

このようにするとインプットがすばやくでき、インプットされた内容が記憶にのこりやすくなります。人がおこなう情報処理において、見たり読んだりすることはインプットに相当し、記憶はプロセシングととらえます。

こうすると何かをアウトプットするときに「あ!そういえば」といろいろなことが思い出しやすくなり、必要な情報がうかびやすくなります。

日本では、大抵の分野の漫画が出版されていますので、とくに何かあたらしい分野を学習したいとおもったときに漫画が役にたちます。


▼ 引用文献
『学研まんが世界の歴史』(電子版)学研教育出版、2015年3月


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