記憶力や注意力・処理速度などが老化がすすむとおとろえます。認知症になると日常生活に支障がでます。情報処理訓練により予防します。
『Newton』2020年8月号の新連載「みんなの『老い』講座」第1回は認知機能と老化の関係について解説しています(注)。


認知機能とは、判断・記憶・理解・思考などを含む知的能力のことだ。(中略)

認知機能のうち、衰えやすいといわれているのが「記憶力」「注意力」「処理速度」だ。


記憶力の低下としては、おなじ人におなじ話をくりかえしてはなしてしまうことや、きのう何をたべたかもおもいだせなくなることなどがあります。

物事の意味を記憶する「意味記憶」や、自転車ののりかたといった運動技能などを記憶する「手続き記憶」はおとろえにくいですが、自分の経験した出来事(エピソード)を記憶する「エピソード記憶」はおとろえやすいことがわかっています。

また注意力とは、あることに注意を集中しつづける能力にくわえ、さまざまなことに注意をうまく配分する能力のことです。このうち、注意を配分する能力のほうがおとろえやすく、たとえば料理中に鍋をこがしてしまうという例があり、料理は、さまざまな作業を並列的にすすめながら注意を配分する必要があるために注意力のおとろえがあらわれやすいです。

これらのような認知機能がおとろえた結果、処理速度がおそくなることもわかっています。たとえば買い物のときにおつりの計算が瞬時にできなくなるという症状があらわれます。

認知機能が低下すると「選択反応時間」が増加し、高齢者による自動車事故もおこります。

認知機能が低下する原因としては、病気ではないものの加齢による脳の機能低下と、認知症などの病気があります。

記憶をつかさどる脳の「海馬」は加齢による影響をうけやすい部分です。海馬の神経細胞には、あらたな神経回路を形成したり、すでにある回路の結合のつよさを変化させたりする「可塑性」がありますが、活性酸素などからのダメージによる変化もおきやすいです。

単なる老化以上に認知機能の低下がすすむようであれば認知症かもしれません。認知症のもっともおおい原因は「アルツハイマー型認知症」です。これは脳内に、「アミロイドβ」という「ゴミ」が蓄積することがきっかけで発症するとかんがえられています。

認知症の一歩手前の症状は、基本的な日常生活をおくることはできても金銭管理や交通機関の利用に支障をきたしたり、軽度の記憶障害を発症したりすることであり、発見がおくれると症状が悪化しかねません。はやい段階で検査をうけるのがよいです。認知症になると、食事や排泄などもむずかしくなります。






認知症を予防するために、記憶法や並列処理、処理速度の加速などが役立ちます。記憶法としては空間記憶法や線形記憶法、外国語の練習などがあります。並列処理としては買い物と料理、処理速度の加速訓練としては速読法や速書法などがあります。

訓練をするときには、ときどきまちがえるくらいの、現状よりもややたかいレベルをめざすとよいです。負担にならない程度に、わずかに、すこしの負荷を自分にかけると情報処理能力がのびます(図)。


200718 認知症
図 人間主体の情報処理の例




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▼ 注:参考文献
『Newton』(2020年8月号)ニュートンプレス、2020年