感染しても症状がでない人々がいます。ウイルスを他者に感染させないための注意・努力がいります。状況を把握できれば解決策が立案できます。
『日経サイエンス』2020年8月号が 、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)について特集し、感染のしくみについて図をつかって解説しています。


このウイルスが人体内でこれほど長く検出されないままになりうるのは、ウイルスのゲノムに由来する一連のタンパク質が作り出されて、人体の免疫系が警戒信号を発するのを遅らせるのが一因だ。その間にウイルスは密かに増殖し、肺の細胞が死ぬ。免疫系がこの緊急事態を知ると、今度は暴走して、救おうとしていた当の肺細胞を窒息させてしまう。


COVID-19(新型コロナウイルス感染症)にかかった人は、あきらかな症状がでるまえにウイルスを他者にうつしてしまう可能性をもちます。具合がわるいわけではないので、感染者は仕事と通勤をつづけ、買い物や外食をし、集会に出席し、そのあいだずっとウイルスを拡散しつづけます。これが大問題です。

たとえば SARS の感染者は、発熱や咳などの症状がでてから24〜36時間後まではウイルスを他者にうつすことがなかったので、他者に病気をうつすまえに具合のわるい人を隔離することができましたが、COVID-19 の場合はそうはいきません。こうして大流行がおこります。

それでは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は、どのようにしてヒトの細胞に潜入し、みずからの複製をつくって感染をひろげていくのでしょうか?


  1. 肺の細胞に結合
  2. 細胞内に侵入
  3. ウイルスの複製
  4. 細胞の外へ
  5. 免疫系による防御
  6. ウイルスの対抗


SARS-CoV-2 の粒子は、鼻や口からはいって気道を浮遊し、肺の細胞のちかくに到達し、肺細胞の表面の受容体に結合して細胞の内部にはいりこみ、細胞がもっている分子機械をもちいて自信の複製をつくります。これらの複製が細胞をやぶって外にとびだし、別の細胞に侵入します。

感染された細胞は、救難信号を免疫系におくってこの病原体を中和(無力化)または破壊しようとしますが、SARS-CoV-2 はこの信号を妨害することができ、感染者が症状をしめすまえにウイルスが大量にふえてしまいます。

したがって対策として、誰もが、「自分は感染者かもしれない」とおもい、ウイルスを他者に感染させないための注意・努力を最大限にすることが必要です。「自分は平気だ」などとかんがえて他者に接するのは利己心のあらわれ以外のなにものでもありません。

一方で、治療薬とワクチンの開発もすすめなければなりません。

現在、研究開発がすすむ治療薬のほとんどは、ウイルスを阻害して人体の免疫系がこれを排除できるようにするものであり、一般の抗ウイルス薬とは、標的の細胞にウイルスが結合するのをふせぎ、細胞に侵入してしまった場合にはウイルスの複製をさまたげるものです。あるいはおもい症状を感染者にひきおこす免疫系の過剰反応をおさえる薬も研究されています。

またワクチンとは、将来の感染に対して、すばやく効果的に人体がたたかえるように免疫系を準備させるものです。

このように、医学・科学的、論理的に、ウイルスと感染症について理解し、こらに対する対策を立案し、実施していくことが重要です。「先が見えない」という人もいますが、かならずしもそうではなく、ウイルスと感染症に関する理解は着実にすすんでおり、これからどうすればよいか、具体策を立案することは可能です。そのためには状況をただしく把握することが必要です。



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▼ 参考文献
『日経サイエンス』(2020年8月号)日経サイエンス社、2020年
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