ウイルスと感染症を論理的にとらえなおします。治療薬とワクチンの開発・実用化が流行をおわらせます。定量的な予測と対策が必要です。
『日経サイエンス』2020年7月号が新型コロナウイルス感染症について特集しています。新型コロナウイルス感染症の正式名称(病名)は「COVID-19」です。



2020年5月1日、日本の専門家会議の会見でつぎの説明がありました。


新規感染者数は減少傾向にあると考えて間違いない。(中略)

欧州のような爆発的な感染者の増加が想定されたが、実際には収束の方向へ向かわせることができた。


外出自粛や営業休止など、社会活動の自粛に一定の効果がみとめられました。そして5月14日、首都圏と関西・北海道をのぞく39県が緊急事態を解除されました。世界的にも、都市封鎖や外出禁止の解除にうごく国がふえています。

しかしウイルスそのものは社会のなかにまだのこっており、ウイルスがよわくなったりうすまったりしたわけではありません。

今後、長期的には、急激な感染拡大をおさえて、地域の医療機関で対応できる人数以下に新規の発生患者数をおさえつつ、経済活動を順次再開する施策がとられます。

一方、感染の拡大は免疫をもつ人を増加させるので、免疫保有率が集団免疫を獲得できるレベルまであがれば流行は自然におわります。ただしこれには数年かかるといわれ、実際には、治療薬とワクチンの開発がいそがれます。


大阪市立大学が付属病院を COVID-19 以外の理由で訪れた患者から約300人を抽出し、抗体検査を実施。5月1日に、大阪における一般市民の1〜2%が感染済みとの推定値を発表した。


このデータから、PCR 検査で把握しているよりもはるかにおおい数の感染者が実際にはいることがわかります。すなわち感染しているけれども症状がでない人あるいはほとんどでない人(感染しているが検査をうけない人)があちこちにいるということです。

またこのデータから、集団免疫の獲得(自然な収束)にはほどとおい状況だということもわかります。

他方、ウイルスが、体のどこに最初に侵入するのかについても研究がすすみつつあり、英ケンブリッジ大学などの研究チームは、「鼻の粘膜にある上皮細胞」であると発表しました。

また免疫系の暴走に関する研究もおこなわれており、免疫系の暴走とは、「病原体を排除するために免疫を活性化する際、免疫系全体がうまく制御できなくなる」ことであり、重症化をもたらすと報告されています。

こうした免疫系のふるまいは、欧州人とアジア人でことなる可能性が指摘され、欧米での感染者数や死者数がアジアにくらべておおいのは、免疫系の遺伝的なちがいで説明できるのではないかという仮説もたてられています。

このような遺伝情報によって重症化の可能性をみきわめることができれば、発症初期から適切な治療ができるようになります。

新型コロナウイルス(ウイルスの正式名称は SARS-CoV-2)は、これからも人間社会に存在しつづけます。このウイルスにうまく対処するためには、今後ともデータをあつめ、このウイルについて理解をふかめていく必要があります。










COVID-19 の特徴として、感染しているけれども症状がでない人あるいはほとんどでない人が結構いて、感染源になっているというということがあり、このことは日本では、「スポーツジムでも感染者が見つかった」という事実から、「スポーツジムには体調の悪い人は普通は行かない」という前提をふまえ、「かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか」という仮説をたてたことから論理がはじまりました。

  • 事実:スポーツジムでも感染者が見つかった。
  • 前提:スポーツジムには体調の悪い人は普通は行かない。
  • 仮説:かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか。

この論理(方法)は仮説法(仮説発想法あるいは発想法)といいます。

その後、演繹法により予見(予測)をし、データをあつめ、大阪市立大学その他のたくさんのデータにより仮説は実証されました。

そして膨大なデータがあつまってくると帰納法の出番です。感染症の一般的傾向やウイルスのふるまいが次第にあきらかになります。

これまでの調査・研究から、集団免疫の獲得にはかなりの年月がかかるとみられるため、治療薬とワクチンの開発・実用化が必要であることはあきらかです。社会活動の自粛により一時的には感染拡大をおさえられますが、それは根本的な解決ではなく、ウイルスそのものは存続しています。

それでは治療薬とワクチンの実用化はいつになるのか? はっきりしたことはわかりませんが、すくなくともあと1年半はかかるとみられています。

そこでたとえばある経営者(観光業)は、あと18ヵ月という仮定のもとで、「感染症対策をして、業界全体として18ヵ月をのりきろう」という提案をしました。今後の18ヵ月をどういきぬくか、方策をかんがえます。このように、感染症とウイルスについての理解がすすめば定量的な対策がたてられます。

しかし一方で、「いったいいつまでつづくのか?」「消耗戦だ」「ウイルスとの戦いに勝利する!」などとのべる人もいます。勝敗にこだわったり、「敵」を撲滅したいとおもったりする人もいます。しかし先がみえません。精神論や根性ではやっていけません。

やはり、ウイルスと感染症を論理的にとらえなおし、うまく対処するという方法をとるべきでしょう。ウイルスを前提とした社会の構築がもとめられています。




▼ 関連記事
新型コロナウイルスの感染拡大と〈仮説法→演繹法→帰納法〉
みえにくい感染症 - 新型コロナウイルス(Newton 2020.4-5号)-
論理の3段階モデル - 新型コロナウイルスの感染拡大 -
新型コロナウイルスの感染拡大がつづく -「基本再生産数」(Newton 2020.6号)-
コウモリ起源説 -「コロナウイルスはどこから来たのか」(日経サイエンス 2020.05号)-
往来拡大の歴史 - 池上彰・増田ユリヤ著『感染症対人類の世界史』-
長期的視野にたつ -「感染拡大に立ち向かう」(日経サイエンス 2020.06号)-
ウイルスにうまく対処する -「COVID-19 長期戦略の模索」(日経サイエンス 2020.07号)-


▼ 参考文献
『日経サイエンス』(2020年7月号)日経サイエンス社、2020年
スクリーンショット 2020-06-03 19.43.58