国際的な地質年代として「チバニアン」が認定されました。年表づくりは歴史の基礎です。模式地(基準地)と対比により全球的な理解がすすみます。
『日経サイエンス』2020年4月号が、あらたに認定された地質時代名「チバニアン」について解説しています(注)。

2020年1月17日、国際地質科学連合(IUGS)の理事会において、房総半島の中部に位置する地層群「千葉複合セクション」が、前期更新世と中期更新世の境界(77万4000年前)をしめす代表的な地層(模式地)としてみとめられ、日本の研究チームが提案した「チバニアン」(77万4000年前〜12万9000年前)が中期更新世の地質時代名として採用されました。日本の地層が、国際地質科学連合により模式地として認定され、日本の地名から地質時代名が命名されたのははじめてのことです。


房総半島の地層群は、様々なイベントがあった中期更新世の始まりの痕跡が良好な状態で残る地層として国際的なお墨付きを得た。それは、今回チバニアンを申請した日本の研究チームがこの地層が持つ77万年前の記録の一端を復元し、その価値を証明したからにほかならない。

2020-05-15 17.38.57

「顕生代新生代第四紀更新世チバニアン期」があらたに確定しました。


チバニアンの最初期の約77万年前には、地磁気の北極と南極がいれかわる「地磁気逆転」がおこりました。地磁気の逆転はこれを最後に現在までおきていません。

またチバニアン以降の地球の気候は、冷涼な氷期と比較的温暖な間氷期がおよそ10万年周期でおとずれ、この気候変動は、海面の上昇と下降をひきおこし、世界各地の平野や大陸棚などの地形をつくる重要な要因になりました。

さらに約40万年前には、ネアンデルタール人が出現し、約30万年前には、現生人類であるホモ・サピエンスが誕生したことがしられており、人類進化とその環境を解明するためにチバニアンの調査・研究は重要です。

チバニアンの模式地(千葉複合セクション)は、東京から1時間かけて、JR総武線と内房線をのりついだ後、ローカル線である小湊鐵道にゆられて房総半島の丘陵地帯にわけいること1時間、養老川のながれのすぐそばにあります。



位置


千葉複合セクションの地層では、「松山-ブルン地磁気逆転境界(M-B境界)」とよぶ地磁気逆転の痕跡と、本州中部で同時期におきた古期御嶽山の大噴火で生じた火山灰層とが一ヵ所で観察できます。

地磁気逆転は、地球の磁場のむきが逆転する全球規模の現象であるため、地磁気逆転の同様な痕跡が地層中にみつかれば、地球のどの場所であってもそれが同時代の地層だとわかります。

地質学では、地層の調査・研究をもとにして地質年代をきめており、現在のところ、地球史46億年が117の時代に区分されています。似た環境がつづいた時代をひとまとまりにすることで、世界各地のことなる地層やさまざまな化石の比較(対比)がしやすくなります。

松山-ブルン地磁気逆転は、千葉複合セクションの火山灰層中の鉱物であるジルコンをもちいた放射年代測定法により、約77万年前におこったことがわかりました。さらに地層中の酸素同位体比を手がかりにした年代測定により、77万4000年前に地磁気の逆転がはじまり、約2000年かけて北極と南極がいれかわったことがわかりました。

また千葉複合セクションの地層からは有孔虫とよぶプランクトンの化石がみつかっており、この分析により当時の海水温が推定でき、氷期と間氷期の周期があきらかになりました。

このようなデータにもとづき、模式地を基準にして、世界各地の地層を対比することにより、年代の決定や気候変動の解明を地球規模ですすめることができます。






このように、地球史の研究では、できるだけ正確な年表をつくることが必要です。これは人間の歴史でもおなじです。年表作成は歴史の基礎です。

また年代をきめるもとになる模式地が大事です。模式地がきまれば、そこを基準にして、世界各地の対比ができます。全球での年代決定や環境推定が一気にすすみます。

対比という方法はとても有用であり、人間の歴史を理解するときにもつかえます。たとえば人間には、石器時代から、青銅器時代、鉄器時代という歴史があります。ごく大局的におおざっぱにみると、日本史ではこれらは、縄文時代、弥生時代、古墳時代に対比できます。

石器時代→青銅器時代→鉄器時代
縄文時代→弥生時代→古墳時代

対比することによって歴史がわかりやすくなり、記憶もしやすくなります。

対比は、考古学や歴史学でもつかわれています。梅棹忠夫の「文明の生態史観」でもつかわれました。年表をつくったら、世界をみわたして対比します。



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▼ 注:参考文献
「チバニアン -77万年前の地球を探る-」日経サイエンス2020年4月号、日経サイエンス社、2020年