廃炉のためには、核燃料のとりだし、燃料デブリの回収、トリチウム水の処理が必要です。当初の予定よりも作業がおくれています。安全はかえても、安心はかえません。
『Newton』2020年5月号の FOCUS Plus では「福島第一原発の今」を報告しています。

東京電力福島第一原子力発電所の事故から9年がたちました。完了まで約40年かかるとされる廃炉作業はすすんでいるのでしょうか?


1〜4号機を廃炉するためには、やるべきことが大きく分けて三つある。一つ目は、4基の原子炉建屋の上層階にある「使用済み核燃料プール」から核燃料を取りだすことだ。二つ目は、メルトダウンして1〜3号機の格納容器の底にたまっている核燃料(「燃料デブリ」とよぶ)を、安全に回収することだ。そして三つ目が、現在もたまりつづけている汚染水の問題を解決することだ。


あのとき
  • 福島第一原子力発電所には6基の原子炉があり、地震発生時には1〜3号機が稼働中、4〜6号機は、定期点検のために停止中でした。
  • 1〜3号機は、地震のゆれと津波で被害をうけ、原子炉に供給されていた電源がすべてうしなわれ、注水がとまり、崩壊熱によって水が蒸発、燃料棒が露出しました。
  • すると核燃料の温度が上昇して、核燃料をおおっているジルコニウム合金と水蒸気が反応して水素が発生、また核燃料がとけるメルトダウン(炉心溶融)がおきました。
  • 1・3・4号機では、水素爆発がおきて建屋が破壊されました。
  • 水素爆発と、水蒸気をそとへ緊急放出するベントが機能せずに放射性物質をふくむ水蒸気がもれだしたことにより、ひろい範囲が放射性物質で汚染されました。


2012年、福島第一原子力発電所1〜4号機は廃炉にすることがきまり、2014年には、5・6号機の廃炉もきまりました。日本政府は、廃炉を完了する目標年を2041〜2051年としました。

核燃料プールにある核燃料のとりだしは、4号機からはじまり、2014年12月に4号機は終了、2018年4月からは3号機からのとりだしがはじまり、今でもつづいています。2号機からのとりだしは2024〜2026年度、1号機からのとりだしは2027〜2028年度にはじめる予定であり、とりだしの完了は2031年をめざしています。

燃料デブリの回収については、具体的な方法がまだきまっていません。

放射性物質をふくむ汚染水の処理については、高濃度の汚染水を処理する装置(ALPS)を稼働させていますが、ベータ線という放射線をだす放射性物質であるトリチウム(三重水素)はとりのぞくことはできず、トリチウムをふくむ水は約80立方メートルずつ毎日 発生し、タンクにいれて原発敷地内に貯蔵していますが、タンクをおくスペースが2022年夏ごろにはなくなります。

2020年2月10日、経済産業省の小委員会が政府に提出した報告書では「海洋放出のほうが確実に実施できる」とし、トリチウム水をうすめて海に放出する(すてる)案を提言しました。トリチウム水は、約100倍に希釈すると WHO(世界保健機関)による安全基準をみたします。

しかし海洋放出は風評被害をうみだすとして地元の人々は反対しています。






このように廃炉のためには、核燃料のとりだし、燃料デブリの回収、トリチウム水の処理をしなければなりませんが、現状では、核燃料のとりだしがすこしすすんだだけで、燃料デブリの回収とトリチウム水の処理はまだはじまっていません。

廃炉作業の進捗は当初の予定からおくれており、この様子だと、2041〜2051年の廃炉完了は無理だと予測できます。とくに、燃料デブリの回収は、技術的・工学的なおおきな困難をともない、問題山積です。

またトリチウム水の海洋放出は風評被害をうみだし、福島や東北の漁業がたちゆかなくなるためみとめることはできません。原子力技術者らは希釈すれば安全だといいますが、歴史的な大事故をおこした原子力技術者のいうことを信用する人は今ではほとんどいません。「本当に100倍に希釈するかどうか?」 また政府や役所は文書を改竄することもしられています。

問題解決のベースには信頼関係が必要であることを “技術屋” らはしらなければなりません。安全はかえても、安心はかえません。

今年は、新型コロナウイルスの感染拡大のために福島の現状がほとんど報道されていませんが無関心ではいられません。



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▼ 参考文献
『Newton』(2020年5月号)ニュートンプレス、2020年