ながい修飾語ほど先に配置します。語順が、原則の逆順になったときにテンをうちます。技術は、練習すれば誰でも習得できます。
わかりやすい日本語をかくためには(わかりやすい日本語でアウトプットするためには)日本語の原則(注)をしっておくとよいです。そのなかでもっとも基本的な原則は「語順の原則」と「テンの原則」です。語順とテンの習得は、日本語作文の入門コースといってよいでしょう。


1. 語順の原則
  • 1-1. 述部(動詞・形容詞・形容動詞)が最後にくる。
  • 1-2. 形容する詞句が先にくる(修飾辞が被修飾辞の前にくる)。
  • 1-3. ながい修飾語ほど先に。
  • 1-4. 句を先に。

2. テンの原則
  • 2-1. ながい修飾語:ながい修飾語が2つ以上あるときにその境界にテンをうつ。
  • 2-2. 逆順:語順が逆になったときにテンをうつ。


これらの原則にしたがって以下の例文を修正してみます。


例文36)
集合場所で始まる15分前から受付を開始します。(イベント案内, 2019.3.14)


一瞬、「集合場所で何がはじまるのだろう?」とおもってしまいます。

この文を構造的にあらわすとつぎのようになります。

例文36b


「語順の原則」の「1-1. 述部が最後にくる」と「1-2. 形容する詞句が先にくる」はできていますが、「1-3. ながい修飾語ほど先に」はできていません。修正するとつぎのようになります。

  • 始まる15分前から集合場所で受付を開始します。

ただし「集合場所」を強調したければ前に配置します。すると「テンの原則」の「2-2. 逆順」によりテンが必要です。

  • 集合場所で、始まる15分前から受付を開始します。

「受付を」を強調したければ前に配置し、「2-2. 逆順」によりテンをうちます。

  • 受付を、始まる15分前から集合場所で開始します。

「開始します」を強調したければ前に配置し、「2-2. 逆順」によりテンをうちます。

  • 開始します、始まる15分前から集合場所で受付を。

例文36)は、「語順の原則」の「1-3. ながい修飾語ほど先に」ができていませんでした。また語順が、原則の「逆順」になるときにはわすれずにテンをうってください。





例文37)
長野県では消費者に安全な農作物を提供するため、文書を出して水をかぶって泥がついてしまったりんごを出荷しないよう生産者団体に呼びかけています。(NHK NEWS WEB, 2019.10.23)


テンについては、「テンの原則」の「2-1. ながい修飾語が2つ以上あるときにその境界にテンをうつ(ながい修飾語)」はできています。しかし「語順の原則」の「1-3. ながい修飾語ほど先に」はできていません。とくに、「文書を出して水をかぶって泥がついてしまったりんご」というところがわかりにくいです。

構造的にあらわすとつぎのようになります。

例文36


「語順の原則」の「1-3. ながい修飾語ほど先に」により、「安全な農作物を」はまえに、「文書を出して」はうしろに配置します。

  • 安全な農作物を長野県では消費者に提供するため、水をかぶって泥がついてしまったりんごを出荷しないよう文書を出して生産者団体に呼びかけています。

「長野県では」を強調したければ前にもってきます。「テンの原則」の「2-2. 逆順」によりテンが必要です。

  • 長野県では、安全な農作物を消費者に提供するため、水をかぶって泥がついてしまったりんごを出荷しないよう文書を出して生産者団体に呼びかけています。

「文書を出して」も強調したければ、

  • 長野県では、安全な農作物を消費者に提供するため、文書を出して、水をかぶって泥がついてしまったりんごを出荷しないよう生産者団体に呼びかけています。

例文37は、テンをうつだけでも、わかりやすい日本語になりました。テンは、やみくもにうつのではなく「テンの原則」にしたがってうちます。そのためには、「語順の原則」をしっていることが前提になります。





例文38)
警察から通報が相次いでいると知らされると、家族は「通報しないでください」と書いた看板を設置したということで、地元テレビが映画さながらのドタバタ劇だと報じるなど、話題を集めています。(NHK NEWS WEB, 2018.12.4)


構造的にあらわすと、

例文37


「語順の原則」の「1-3. ながい修飾語ほど先に」にしたがってなおすと、

  • 通報が相次いでいると警察から知らされると、「通報しないでください」と書いた看板を設置したということで、映画さながらのドタバタ劇だと地元テレビが報じるなど、家族は話題を集めています。

「警察から」「家族は」「地元テレビが」を強調したいのであれば前にもってきて、「テンの原則」の「2-2. 逆順」によりテンをうちます。

  • 警察から、通報が相次いでいると知らされると、家族は、「通報しないでください」と書いた看板を設置したということで、地元テレビが、映画さながらのドタバタ劇だと報じるなど、話題を集めています。

このようにすると、テンがおおすぎてわかりにくくなります。何を強調したいのかがわかりません。何を強調したいのか、何をつたえたいのかをはっきりさせたほうがよいです。たとえば「家族は」を強調すると(家族についてつたえたいのであれば)、

  • 家族は、通報が相次いでいると警察から知らされると「通報しないでください」と書いた看板を設置したということで、映画さながらのドタバタ劇だと地元テレビが報じるなど、話題を集めています。

例文38も、「語順の原則」の「1-3. ながい修飾語ほど先に」にかなっていませんでした。またテンをくわえるだけではわかりやすい日本語になりませんでした。「語順の原則」が重要です。






このような原則はむずかしいことはなにもなく、2〜3日練習すれば誰にでも習得できます。わかりやすい日本語をかくことは作文技術の問題であり、技術とは、練習すれば誰でも習得できるものです。



▼ 注
日本語の作文法 − 日本語の原則 −


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▼ 参考文献