鳥類は恐竜類の一種です。おおくの恐竜類は絶滅しましたが、鳥類はいきのこり、進化しました。生物と環境の相互作用により絶滅も進化もおこります。
『Newton』2020年4月号の Topic では、「『のび太の新恐竜』をもっと楽しむための恐竜学」と題して恐竜の絶滅と進化について解説しています。

2020年8月に、ドラえもん50周年記念作品として、『映画ドラえもん のび太の新恐竜』が公開されます。双子の恐竜キューとミューの成長をえがいた物語であり、恐竜について理解をふかめることができます。今回の『Newton』では、恐竜についてもっとくわしくしりたい人のために、恐竜学の最新の研究成果をわかりやすく解説しています(映画に関するネタバレはありません)。




現在有力な説は、隕石が衝突する前から恐竜は絶滅に近づいており、隕石の衝突は “どどめ” としてはたらいた、というものだ。たとえば、カナダ西部のアルバータ州のある地域では、約8000万年前には恐竜が45種生息していたが、隕石衝突の少し前には、6種にまで減少していたことがわかっている。


恐竜は、約2億3000万年前から約6600万年前にかけて陸上で繁栄した爬虫類の一種です。

約6600万年前(白亜紀の末期)に、推定約10キロメートルもある巨大隕石が地球に衝突しました。その衝撃によって、岩石などからなるちりが発生、大気中にひろがり、日光がさえぎられ、植物の光合成ができなくなったり、気候が寒冷化したりして恐竜類はすべて絶滅したという仮説がたてられました。

しかし今日では、絶滅を説明するにはそれだけでは不十分であり、隕石衝突のまえに、恐竜類の弱体化がすでにすすんでおり、隕石衝突は、絶滅の “どどめ” としてはたらいたのではないかという仮説がたてられています。隕石衝突という外的な原因だけでなく、恐竜の側にも原因があったのであり、一原因一結果といった単純思考におちいらないことが大事です。

ところが恐竜は、すべてが絶滅したのではなく、一部は絶滅をまぬかれ、いきのびました。


恐竜に羽毛をもつものがいたことを示すこの発見により、鳥は恐竜から進化したものであるという説が決定的となった。


1861年、ドイツ南部の約1億5000万年前(ジュラ紀後期)の地層から「始祖鳥(アーケオプテリクス)」の化石が発見されました。全長は約50センチメートル、前足の3本のかぎつめ、あごにはえた歯、ながい尾といった、恐竜の特徴をもつ一方、羽毛がはえていた痕跡もありました。これらのデータから、「始祖鳥は、恐竜が鳥へ進化する途中の生き物である」という仮説が提案されました。

そして1996年、中国北東部・遼寧省の白亜紀前期の地層から、羽毛の痕跡をのこした恐竜「羽毛恐竜」の化石が発見され、これにより、恐竜から鳥が進化したという仮説がおおくの人々に支持されるようになりました。祖先と子孫をつなぐ進化の途中段階にあたり、まだみつかっていない生物のことを「ミッシングリンク」といい、恐竜の鳥への進化をめぐっては羽毛恐竜がミッシングリンクでした。

恐竜類は、「鳥盤類」と「竜盤類」に大別され、これらのうちの竜盤類に属する小型の「獣脚類」が鳥類へ進化しました。ヴェロキラプトルやデイノニクスが小型の獣脚類の代表例です。小型の獣脚類は、体がちいさく寿命がみじかかったため、遺伝子をうけつぐサイクルがみじかく、体の特徴の変化がおきやすく、環境の変化に適応しやすかったことが、絶滅をまぬかれて鳥に進化した理由のひとつだとかんがえられます。また体温を一定にたもつことができる恒温動物だったことも、きびしい寒さにたえるために有利だったようです。






以上のように、約6600万年前に恐竜類のおおくは絶滅しましたが、一部は絶滅をまぬかれ、いきのこりました。

従来は、巨大隕石の衝突が恐竜類絶滅の原因とされてきましたが、近年の研究により、それだけが原因ではなく、恐竜類の側にも原因があって、環境と恐竜の双方の原因があいまって絶滅がおこったとかんがえられます。

絶滅は、環境だけに原因があるのではなく、生物の側にも原因があるのであり、環境と生物は相互に影響し、作用をおよぼしあって絶滅がおこります。このような、環境と生物の相互作用に注目することが重要です(図1)。このモデルにおいて、環境から生物への作用はインプット、生物から環境への作用はアウトプットといってもよいです。

191008 生物と環境
図1 生物と環境の相互作用

 
しかし恐竜類はすべてが絶滅したのではなく、鳥類に進化して一部はいきのこりました。古生物学者があきらかにした恐竜類の系統分類によると、ジュラ紀の末期(巨大隕石が衝突するよりもかなり前)に、獣脚類から「鳥類」が分化したとされます。この系統分類がただしいとすると、「鳥類」は、ジュラ紀末〜白亜紀に恐竜類と共存していたということになります。というよりも「鳥類」は、恐竜類の一種ということになります。したがって恐竜は鳥類として現在もいきているわけです。恐竜の絶滅あるいは絶滅の象徴としての恐竜という常識はくつがえされました。

恐竜類の一種である「鳥類」は、体がちいさかった、恒温動物だったことなどにより、環境の変化に適応していきのびることができました。ここにも、生物と環境の相互作用をみとめることができます(図1)。

生物の側にも原因があり、環境の側にも原因があり、生物と環境の相互作用により、絶滅も進化もおこることがわかりました。生物だけですべてがきまることはなく、一方的に環境が生物を支配するのでもありません。

この原理(図1)は人類にもあてはまります。環境からの支配を一方的にうけることはありませんが、人類の意志だけで未来を決めることもできません。人類と環境の相互作用をつねに意識しなければなりません。生命とはそのような存在です。



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▼ 参考文献
『Newton』(2020年4月号)ニュートンプレス、2020年