人体には、インプット器官・プロセシング器官・アウトプット器官があり、これらは連動しています。人体のしくみをしり、健康法にとりくみます。心の健康のためには知的情報処理が重要です。
『Newton』2020年3月号は、「人体の取扱説明書」と題して人体の機能と健康法について特集・解説しています。




目次
骨と筋肉
呼吸と血液
目と耳
消化器と内臓
脳と神経系



骨と筋肉

一つ以上の関節をまたいで、骨どうしを結ぶのが筋肉(骨格筋)です。骨格筋はおよそ200種類あり、その総数は約400にものぼります。全身の骨格筋の重量は、体重の約40%を占めます。


それぞれの筋肉には運動神経が接続していて、運動神経から電気信号が筋肉につたわると筋肉はちぢみ、運動神経からの電気信号がなくなると筋肉はゆるみます。筋肉の伸縮によって関節の角度がかわり、体がうごきます。手足や首をうごかすのも、体をひねるのも、ほほえむのも、すべて、筋肉のはたらきによるものです。

加齢とともに足腰がよわくなる人はすくなくありません。足腰がおとろえてあるくことがへるとますます足腰がおとろえ、日常生活にも支障をきたすようになります。こうした悪循環をさけるためには、筋トレをして、日ごろから筋肉をきたえることが大切です。
 



人は、1日に約2万回ほど呼吸をおこなっています。1回に吸ったり吐いたりする空気の量は約0.5リットルほどで、1日では約1万リットルにもなります。

鼻や口から吸った空気は、気管を通って肺に運ばれます。気管は、肺の中で次々に枝分かれしていきます。これを気管支といいます。気管や気管支の粘膜に付着した異物を排除するためにおきるのが咳です。


気管支が16回ほど枝わかれして最後にいきつくのが「肺胞」です。肺胞は、球状のちいさな部屋があつまったブドウの房のような構造をしており、1つの部屋は数の子1粒よりもちいさく、その数は、左右の肺をあわせると約3億個にもなります。肺胞の壁の表面積は畳40畳分もあります。

すった空気にふくまれる酸素は肺胞の壁を通過して血液にうつります。その逆に、血液にふくまれた二酸化炭素が肺胞にうつります。こうして酸素と二酸化炭素の交換がおきたあと、空気は外へはきだされます。
 



目には「角膜」と「水晶体」という2枚のレンズがあります。目に入った光は、それらのレンズで進路を曲げられて、水晶体から約17ミリメートルはなれた場所にある「網膜」の位置で焦点を結ぶようになっています。網膜には、光を受け取るセンサーの役割をする「視細胞」が、およそ1億個も並んでいます。


網膜でうけとった光の情報は、電気的な信号にかえられて、視神経をとおって脳に送られます。脳が、その信号を処理することによって周囲のようすを映像としてとらえることができます。映像は脳で生じています。

正面をむいたとき、左右それぞれの目の水平方向の視野は約160度であり、左右それぞれの視野は、左目は左にかたより、右目は右にかたより、左右の視野がかさなる範囲は正面の約120度であり、この範囲で、立体的に(3次元で)物をとらえることができます。

目が色を識別するしくみは網膜にあります。網膜にある視細胞には、「錐体」(すいたい)と「桿体」(かんたい)の2種類があり、そのうち錐体にはさらに、赤・緑・青の光をそれぞれ吸収しやすい3種類があります。それらが吸収する光の量の割合によって色を識別します。錐体はおもに、満月の夜のあかるさよりもあかるいところではたらき、それよりもくらいところではおもに桿体がはたらきます。桿体は高感度ですが色を区別することはできません。これら2種類のセンサーによって、あかるさが100万倍以上ちがう環境でも物をとらえることができます。
 



耳に届いた音は集音装置である「耳介」であつめられ、「外耳道」を通って「鼓膜」を振動させます。その振動は、鼓膜につながっている「ツチ骨」に伝わり、さらに「キヌタ骨」、「アブミ骨」という全部で三つの小さな骨(耳小骨)を経由して「内耳」へと伝わります。

耳小骨の役割は、音の振動の力を増幅させることです。ツチ骨とキヌタ骨のはたらきで、振動の力は約1.3倍に増幅されます。さらにアブミ骨は、その力を約17倍に増幅させます。これら二つの効果によって、振動の力は約20倍以上に増幅されるのです。


内耳は、「骨迷路」とよばれる複雑な形をした骨の “容器” に「膜迷路」とよばれるチューブ状の器官がおさまったものであり、膜迷路のなかに、空気の振動を感知する “毛”(感覚毛)をもつ細胞「有毛細胞」がならんでいます。空気の振動によって、有毛細胞からのびる「感覚毛」がかたむき、電気的な信号が生じ、この信号が、聴覚神経をつたわって脳へおくられ、脳が、信号を処理することによって音としてとらえます。音は脳で生じます。

左右の耳にとどく空気振動の時間差やつよさの差から、どちらの方向から振動がとどいたのかがわかります。

内耳は音を感知するだけでなく、頭のかたむきやうごきも感知します。頭の回転運動を感知するのは3つの「半規管」です。頭のかたむきを感知するのは「卵形嚢」(らんけいのう)と「球形嚢」(きゅうけいのう)です。

内耳に異常があるとめまいや難聴になります。たとえば短時間のめまいの原因としておおい「良性発作性頭位めまい症」は、卵形嚢や球形嚢にある「耳石(平衡砂)」がはがれて半規管内にはいりこむことが原因だとされます。耳石が、半規管内をみたす「内リンパ液」のながれをみだし、脳に、あやまった信号がつたわるためにおこります。

おおきすぎる音をきいたり、おおきな音に長時間さらされたりすると音がきこえづらくなる「難聴」になります。たとえば120デシベル(2000万μPa)をこえるおおきな音をきかされると聴覚障害をひきおこす可能性があります。120デシベルとは、ジェット機のエンジン音を目のまえできくときの音量に相当します。またイヤホンやヘッドホンでおおきな音で音楽をききつづけると「ヘッドホン難聴」になります。スマホの普及にともなって難聴になる人がふえています。難聴に一度なると元にはもどらないので注意が必要です。



消化器

消化器は、「口腔」「食道」「胃」「小腸」「大腸」という、約10メートルもある曲がりくねった長いひとつづきの管(消化管)と、消化液を分泌する「膵臓」「胆嚢」「肝臓」などからなります。


口でかみくだかれた食べ物は、胃で、ドロドロの状態に分解されて小腸へおくられます。途中、膵臓や胆嚢、小腸からの消化液とまざりあうことでさらに分解がすすみ、小腸で、栄養素と水分のおおくが吸収されます。そして大腸で食べ物にのこる水分が吸収されて便がつくられます。こうして、口にはいった食べ物は、約24〜72時間後に便として肛門から排泄されます。

また体内の水分量は腎臓によって管理され、余分な水分は老廃物とともに尿として体外へ排出されます。



中枢神経系

スマホや電気製品と同じく、人間の体も電気信号によってコントロールされています。全身には、電気信号を伝える「末梢神経系」がはりめぐらされています。そして、全身の感覚器官から末梢神経系を通じて入力された情報を取りまとめ、全身に指令をあたえるコントロールセンターが「中枢神経系」です。

中枢神経系は、「脳」と「脊髄」からなります。脳は、頭骸骨の内部におさめられています。脳の重さは、体重60キログラムの成人男性で1.4キログラム前後です。体重の2〜3%にすぎない脳には、心臓から出る血液の約15%が届けられ、エネルギーの約20%が脳で消費されます。(中略)

脊髄は、首から腰までつらなった、太くて長い神経の集まりです。全身の皮膚や筋肉で得た感覚は、脊髄を経由して脳へと届けられます。また、筋肉をうごかす脳の指令も、脊髄を経由して全身へと届けられます。


脳は、大脳・小脳・脳幹にわかれ、大脳は、思考や記憶などの高度な情報処理をおこない、小脳は、姿勢や運動を調整し、脳幹は、間脳・中脳・橋・延髄からなり、呼吸や体温調節・睡眠などを支配して生命を維持します。

脊髄は、脊柱の内部におさめられ、まもられていますが、事故などで脊髄が傷ついて「脊髄損傷」になると体の一部や全身が麻痺し、現代医学をもってしてもなおすことができません。



末梢神経系

手や足など、体のさまざまな場所の感覚は、感覚神経によって脳などの中枢神経系へと伝わります。その主なルートが、脊髄につながる31対の脊髄神経です。ただし、顔面の感覚を伝える感覚神経は、脊髄を経由せずに直接脳幹に接続しています。


末梢神経系は、中枢神経系以外のすべての神経をさし、全身のすみずみまではりめぐらされています。その機能によって、感覚神経・運動神経・自律神経に分類されます。

全身の皮膚には、触覚や痛覚にくわえて圧覚(圧力を感じる感覚)・冷覚・温覚の5種類に対応するセンサーが分布しています。センサーがもっとも密に分布しているのが指先であり、わずかにはなれた2ヵ所を同時につまようじでつくと「2ヵ所をつかれた」と感じることができます。










人体のしくみを、物質・エネルギーのながれからとらえると、たとえば呼吸では、酸素をとりいれ、二酸化炭素をはきだします。あるいは食べ物を口からとりいれ、胃・小腸・大腸で消化し、肛門から便を、尿道口から尿を排出し、またエネルギーをえて、筋肉をうごかして運動します。情報のながれからみると、目・耳・皮膚などの感覚器官で生じた電気信号を脳が処理し、指令をだし、手をうごかして文字を書いたりしてメッセージを発します。

このような、「飲食→消化→排泄・運動」「吸気→ガス交換→呼気」「感覚→処理→発信」は、物質・エネルギー・情報を外界(環境)から内面にとりいれ、それらを処理し、あらたに生じた物質・エネルギー・情報を外界(環境)へはきだしているということであり、まとめて、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉ということができます。

健康というと、とかく、物質的・肉体的な側面がとりあげられますが、今日では、情報の〈インプット→プロセシング→アウトプット〉つまり情報処理も重要です。それは、人間主体の情報処理あるいは知的情報処理といってもよいでしょう。人間主体の情報処理をしっかりおこなわないと、人間は、単なる機械になってしまい、心が、不健康になります。これは、思想的・抽象的な話ではなく、人体という実体をとおした実際の話であり、実践の問題です。誰もが、知的情報処理能力をのばすことが時代のニーズであり、具体的には、インプットのためには観察や聞き取りの訓練、プロセシングのためには十分な睡眠、アウトプットのためには作文の訓練などが重要でしょう。



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