かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか。〈仮説法→演繹法→帰納法〉(仮説をたてて検証する)という方法が役立ちます。一般的傾向や原理・法則がわかれば将来にむけて対策がたてられます。
新型コロナウイルスの感染拡大がつづくなか、日本政府は2月29日、今後1〜2週間が正念場であると発表しました。政府の専門家会議はどのような議論をして今後の予想をしたのでしょうか? つぎの報道がありました。


インフルエンザは感染力が強く、ほどんどの人が感染させる。新型コロナウイルスについては、誰が感染させやすいかはわかっていない。これまでの研究報告をみると、症状が軽い人やまったくない人が感染源になっている。日本ではスポーツジムでも感染者が見つかった。普通は体調の悪い人は行かない。かなり軽症の人が感染を広げているようだ。(注1)


この見解を、仮説法の観点から整理するとつぎのようになります。

  • 事実:スポーツジムでも感染者が見つかった。
  • 前提:スポーツジムには体調の悪い人は普通は行かない。
  • 仮説:かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか。

「スポーツジムでも感染者が見つかった」という事実を、「スポーツジムには体調の悪い人は普通は行かない」という前提のもとでとらえると、「かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか」という仮説がたちます。

ここでは、「スポーツジム」が注目点です。そこは、病院とはちがい、病気の症状のある人はいかないところです。しかし感染者がそこでみつかったということは、感染しているけれども症状がでていない、あるいはほとんどでていない人々がいるということであり、しらずしらずのうちにそれらの人々が感染源になってしまっているということです。

このように、〈事実→前提→仮説〉とすすむ論理は仮説法(あるいは仮説発想法、発想法)といいます。

そして「ウイルスは感染力がつよく、ほとんどの人に感染する」というこれまでの研究結果を前提としてふまえ、「かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか」という仮説がただしいとすると、感染が確認される人数はさらにふえるだろうと予見(予測)されます。

  • 前提:ウイルスは感染力がつよく、ほとんどの人に感染する。
  • 仮説:かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか。
  • 予見:感染が確認される人数はさらにふえるだろう。

このような〈前提→仮説→予見〉とすすむ論理は推論であり、演繹法といってもよいです。そして予見がただしければ(確認されれば)仮説の蓋然性はたかまります。

日本政府などが発表している「感染を確認した人数」は、検査をうけて確認された人数であって感染者数そのものではありません。実際には、感染しているが症状がないため(あるいはほとんどないため)検査をうける予定のない人々が多数います。検査をまだうけていないけれども感染している人々は、感染が確認された人数よりもはるかにおおいと予測されます。

今後、日本政府は、検査体制を増強すると発表しています。増強すれば、サンプル数とデータが激増します。データが大量にあつまれば、統計学の手法をつかってそれらを処理し、一般的傾向をあきらかにすることができます。

このように、「かなり軽症の人が感染を広げているのではないだろうか」という仮説をたてて、データ(事実を記述したもの)を大量にあつめ、一般的傾向や原理・法則をあきらかにする手法、すなわち〈仮説→事実→一般〉とすすむ論理は帰納法といいます。一般的傾向や原理・法則があきらかになれば、将来にむけて対策がたてられます。

こうした、演繹法と帰納法を実施することは、仮説検証あるいは単に検証といってもよいです。

ところが一方で、つぎの発言をツイッターでしている人がいました。


細かな検証はコロナが収まった後に、今後の教訓として徹底的にやればいい。今はこの国難の最中において与野党、そして国民が一致団結するべき。痛みを伴いながらも乗りこえるしかない!


これは、科学的・学問的な訓練をうけたことがない人の発言です。このような精神論ではなく、科学的・学問的な方法を実施することが現代では必要であり、具体的にはそれは、〈仮説法→演繹法→帰納法〉(仮説をたてて検証する)ということです。科学的・学問的な論理にもとづいて政府も国民も行動しなければなりません。

〈仮説法→演繹法→帰納法〉(仮説をたてて検証する)ということは誰にでもわかることであり、それほどむずかしいことではありません。情報を整理して、処理すればよいだけのことです。



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▼ 注1:参考サイト
新型コロナ座談会 連鎖断てるか、この1〜2週が正念場(日本経済新聞社、2020年2月27日)