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「ユカギルマンモス」(レプリカ)
(平行法で立体視ができます)
永久凍土は、太古の生物と環境を現代につたえる「タイムカプセル」です。マンモスは寒冷地に適応しましたが約4000年前に絶滅しました。絶滅した生物を現代に再生させてはなりません。
「マンモス展 -その生命は蘇るのか-」が日本科学未来館で開催されています(注1)。ロシア連邦・サハ共和国の永久凍土から発掘されたマンモスや古生物の冷凍標本を史上最大級の規模で展示、冷凍標本の研究からえられた最新の知見を解説しています。

ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -



第1展示室 マンモス、太古の記憶


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チュラプチンスキーのケナガマンモス
(後期更新世、サハ共和国チュラプチャ地区)

マンモスは、オスの成獣で、肩のたかさまでが2.7〜3.5メートル、体重は最大6トンであったと推定され、同時代にいきた動物のなかでもっともおおきな生物でした。メスの肩までのたかさは2.6〜2.9メートルでした。

大量の草をたべており、繊維質のおおいイネ科のかたい草もひだのある歯ですりつぶしてたべていました。

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上あごの最後にはえてくる奥歯の化石

洗濯板のようにみえるところが草をかむところで、エナメル質でできています。上下の歯を前後にうごかすことにより草をすりつぶしました。

現代のゾウとおなじように一生のあいだに歯は5回はえかわっていました。前に移動しながら前の歯がすりへるとうしろの歯がでてきて交換するしくみがありました。何番目の歯がのこっているか、その歯のすりへり具合をしらべるとマンモスのおおまかな年齢がわかります。

マンモスの特徴は分厚い毛をもっていたことであり、これによって北極圏の気候にも適応できました。

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ケナガマンモスの毛

この体毛は2種類あって、1メートルほどのほそくあらい外側の毛(オーバーコート)と、30センチメートルほどのみじかくやわらかくほそい毛(アンダーコート)がかさなっていました。アンダーコートは皮膚に密集してはえており、たかい断熱効果で寒さをしのぐことができました。これらは、季節によってはえかわっていたとかんがえられます。

展示室には、外側の毛をさわれるコーナーがあり、さわってみたらまるで針金のようでした。

また頭の形が上にとびでた形をしており、さらにおおきくまがったねじれた牙もマンモスの特徴です。

マンモスの糞や胃・腸からはイネ科の植物とスゲがおもにみつかっています。

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ケナガマンモスの糞

大人のマンモスは、1日に200キログラム以上もの植物を必要とし、1日に16時間以上かけて食事をしていたと推定されます。

南アフリカやケニアなどの約500万年間の地層からもっともふるいマンモスの化石がみつかっています。それは、サブプラニフロンスゾウとよばれるマンモスであり、熱帯気候のなかでくらしていたとかんがえられます。約150万年前になると、マンモスはヨーロッパに移動し、メリディオナリスゾウという種になり、現在よりもすこしあたたかい気候のなかで生活していました。

マンモスはゾウの仲間(長鼻類)であり、ゾウの祖先は約6000万年前までさかのぼり、現代のアジアゾウやアフリカゾウにいたるまでのながい系統をもちます。

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長鼻類の系統(右側は人類の系統)

マンモスは、アジアゾウやアフリカゾウとはことなった枝分かれをして進化しました。最初のマンモスは、アフリカの熱帯にすんでいましたが、ヨーロッパにしだいに北上し、アジアやシベリアにひろがり、北米にまで分布を拡大しました。気候が寒冷化してくると、北方のマンモスは寒さに適応して姿をかえ、ケナガマンモスになりました。本展でいうマンモスとはこのケナガマンモスをおもにさします。

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長鼻類の大移動(拡散)

数百万年をこえて種をつないできたマンモスでしたが、いまから約4000年前に絶滅しました。

マンモス絶滅の原因としては、マンモス自体の環境への適応力の弱化、環境の変化、ヒトによる乱獲などがかんがえられます。マンモスは、寒冷な環境にもたえられる体のしくみを発達させましたが、特定の環境に適応する特殊化がすすみすぎたため、すこしの環境の変化にも適応できなくなり、滅亡への道をたどりました。マンモスが急激に数をへらした更新世末期は、寒冷で乾燥した環境から温暖で湿潤な環境へと急激に環境が変化した時代であり、マンモスがこのむ草原も森林へかわりました。また当時のヒトは、集団で狩猟をおこなっていたので、マンモスを狩りつくしてしまったという仮説(過剰殺戮仮説)もあります。このように絶滅の原因はひとつではなく、さまざまな要因がからみあってマンモスは絶滅しました。一原因一結果という単純思考におちいらないことが大切です。





第2展示室 永久凍土で待つもの

シベリアの大地には永久凍土がひろがっています。マンモスの亡骸のいくつかはその永久凍土のなかで肉体をのこしたままこおりつきました。

そしてながいときがたち、近年の地球温暖化によって永久凍土がとけはじめ、その肉体とともにマンモスが姿をあらわしてきました。これはまったくのおどろきであり、地球温暖化がおもわぬものを現代にもたらしました。

こおったマンモスはたくさんの情報をもっています。永久凍土は太古と現代をむすびつける「タイムカプセル」です。ちなみにマンモスという名称は、モンゴロイド族の一部がつかうサモエード語の「マー(地中の)」「モス(動物)」からきています。

永久凍土とは「2年以上0℃以下の状態が続いている土や地盤」であり、シベリアや北アメリカ大陸のアラスカやカナダ北部など、北半球の20パーセントちかくをしめます。シベリアの永久凍土のふかさは20メートルぐらいのところもあれば500メートル以上のところもあり、冬の永久凍土の表面は岩のようにかたく、スコップなどは歯がたちませんが、夏になれば表面には草木もはえて、みた目は普通の大地とかわりません。シベリアの永久凍土のなかからは、マンモスをはじめ、太古の時代のさまざまな動物の遺骸がみつかります。

太古の生物を研究するためには一般的には化石をつかいますが、永久凍土のなかでこおったマンモスは、冷凍食品がくさらないように、皮膚や筋肉・脂肪といった体組織がそのままのこっているので、化石だけをつかった研究よりもはるかにたくさんのことをしらべることができます。

このことが、マンモス研究および今回の企画展の最大の注目点です。あとでのべる細胞の研究とあいまって、古生物学はあらたな段階にすすみます。

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永久凍土の断面(レプリカ)

永久凍土の氷床は、1年でとけたりこおったりをくりかえすため、氷床の断面は、木の年輪のような層になっています。この層をしらべれば、約10万年の気象の変化がたどれます。また氷の結晶を分析することで1年の平均気温をしることもできます。さらに氷床にふくまれる堆積物のなかには花粉がふくまれていることがあり、それから、シベリアの植生分布をしることもできます。食べ物をさがしてあるいていたマンモスの移動パターンを推定することもできます。

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永久凍土から発掘された
仔ケナガマンモス「ディーマ」

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永久凍土から発掘された
ケナガマンモスの皮膚(奥)と仔ウシ「フジ」(手前) 

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永久凍土から発掘された
マンモスの鼻






第3展示室 その「生命」は蘇るのか

2019年3月、和歌山県にある近畿大学から衝撃的な発表がありました。「シベリアの永久凍土から見つかった2万8000年前のマンモスの細胞核が、再び生命活動の兆候を見せた」ということでした。このニュースはまたたく間に世界中にひろがり、おおくの研究者をおどろかせました。

近畿大学がおこなった実験は、冷凍保存されたマンモス細胞のなかにある核が、はたらく状態にまだあるかどうかを検証しようというものでした。

マンモスの細胞核を、マウスの卵子のなかに注入したところ、マウス卵子中のタンパク質(ヒストン)がマンモスの細胞核にとりこまれていきました。そこからさらに、マンモスの細胞核が細胞分裂をしようとするうごきをみせました。マンモスの細胞核ははたらく状態にあることが検証され、細胞レベルでは、マンモスの生命活動の再現に成功したということになります。

マンモスやヒトなどの多細胞生物は、原則として、からだを構成する細胞の数がふえることで成長します。細胞の数がふえることを細胞分裂といい、ひとつの細胞が2つにわかれることで数がふえます。細胞が分裂する最初のステップでは、染色体を2つの極に分配する「染色体分配」がまずおこり、細胞質がわかれる「細胞質分裂」にその後うつっていきます。そして生殖細胞(卵子や精子)以外の細胞、体細胞の分裂を「体細胞分裂」といい、体細胞分裂は、大人になった動物でも配や骨髄・皮膚などでさかんにおこなわれます。

近畿大学は1996年から、マンモス復活のための研究をはじめました。イギリスの研究所によるクローン羊「ドリー」の技術とおなじような方法をつかってマンモスを復活させようとかんがえました。しかしこの方法には、絶滅危惧種である近縁種のアジアゾウの卵子や母胎が必要となることや、うまれたマンモスの生態系への悪影響など、おおくのハードルが存在しており、慎重にすすめなければなりません。

2010年8月、ロシア連邦サハ共和国のラプテフ海岸でわかいメスのマンモスが発見され、発見された地域「ユカギル」にちなんで「YUKA」と命名されました。近畿大学は、非常に状態のよいサンプル(冷凍標本)をこの YUKA から入手することができ、「マンモス復活」プロジェクトを正式にスタートさせました。

さまざまな分析をし、YUKA の筋肉から細胞核をとりだすことにしました。そして試行錯誤のすえにようやく確保した YUKA の細胞核を、マウスの卵子に注入することに成功しました。

するとマウス卵子が、傷ついた大昔のマンモス細胞核を修復しようとするうごきが観察されました。

生物の細胞のなかにある核には、生物の設計図にあたる情報がかきこまれた糸状の分子 DNA がはいっています。マンモスの DNA が完全に修復される可能性はゼロではなくなりました。

近畿大学の今回の実験は、2万8000年前の細胞核がふたたび活動できる可能性をしめし、マンモス復活へむけて着実な一歩をすすめるものです。しかしマンモスがまるごとよみがえるまでにはまだとおい道のりがつづいています。

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マンモスを復活させる

近畿大学は、「この3年くらいでマンモス研究は一気に進歩しました。しかしマンモス復活というゴールへ向けて、本当に大変なのはここからです」と夢の実現にむけて意気込みをかたります。

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ゴールしたときのイメージ


しかし一方で、警告を発する科学者がいます。


「マンモス復活」の研究について

マンモスの復活については、まさに今立ち止まった考えるべき時期なのではないでしょうか。私はこれらの研究を一旦凍結して、猶予期間を設けるべきだとおもっています。遺伝子操作を組み合わせたクローン作製技術については、生命倫理を踏まえ、専門家だけではなく、一般の人々とその是非に関して広く社会全体で話し合う必要があると考えるからです。マンモスの復活の研究には、日本の近畿大学だけではなく、アメリカのハーバード大学や韓国のスアム生命工学研究院など世界中でさまざまな研究者が携わっています。クローン技術の成功例としてマンモスを復活させれば大きな関心を集めることができ、研究結果の宣伝としても抜群の効果が期待されるでしょう。しかし一方で、クローン技術にゲノム編集を適用すると、その延長線上にはヒトへの適用が見えてきます。ヒトの遺伝子を操作して、ヒトの機能強化で優秀なものを増やそうという考え方、つまり人間をデザインするという危険な発想につながりかねません。また、絶滅種の復活は今生きている生物種や環境、つまり地球の生態系にもさまざまな影響を与えることでしょう。(後略)
福田正己(理学博士/北海道大学名誉教授)


このようにマンモス復活には重大な問題があり、技術者の単なる興味だけではすすめられません。科学者・技術者だけでなく、ほかの分野の専門家や一般市民とも問題意識を共有し、社会的な合意・ルールを形成したうえで研究開発をすすめなければなりません。

今回の「マンモス展」は、このような問題点についてかんがえるよいきっかになっています。










以上みてきたように、マンモスはゾウの類縁(長鼻目ゾウ科)の動物であり、アジアゾウやアフリカゾウとはことなった枝分かれをして進化し、とくにケナガマンモスは、ユーラシア大陸から北アメリカ大陸までの寒冷な環境に適応してひろがりました。しかしマンモスは、いまから約4000年前に絶滅、それは、マンモス自体の弱化、環境の変化、ヒトによる乱獲などのさまざまな要因がからみあった結果だとかんがえられます。

今回の企画展の目玉は、シベリアの永久凍土から発掘されたマンモスです。近年の地球温暖化により永久凍土がとけはじめ、体組織が冷凍保存されたマンモスが姿をあらわしました。この体組織が生命科学に革新をもたらしつつあります。

近畿大学のチームは、マンモスの筋肉から細胞核をとりだし、マウスの卵子にそれを注入することに成功、その細胞核がふたたび活動する兆候を確認しました。この実験は、2万8000年前の細胞核がふたたび活動できる可能性をしめしたものであり、マンモスを現代によみがえらせるプロジェクトを加速させます。

このような「クローン技術」をつかえばマンモスをよみがえらせることが可能です。しかしマンモスを現代によみがえらせても本当によいのでしょうか?

体細胞クローン技術によるマンモス復活計画は、当初は、ゾウの卵子を使用する予定でしたが、絶滅危惧種に現在なっているゾウを利用することにはおおくの人々の理解がえられず、中止になりました。しかしクローン技術者たちはマウスではなくゾウをつかいたいと内心はおもっています。

またすでに絶滅した動物を現代によみがえらせた場合、現在の地球の生態系に悪影響がでます。現在の生態系は、地球と生物の進化の結果うまれてきたものであり、とても複雑なバランスでなりなっています。そこに、本来は存在しない生物がくわわれば予測できない影響があらわれるにちがいありません。国際自然保護連合も、「保全のための絶滅種の代用種製作に関する基本理念」をしめし、警告を発しています。

さらによみがえった動物の生涯はどうなるのでしょうか。大学などの研究施設にとじこめられて、実験材料として一生利用されるのでしょうか。あるいは動物園で見世物になるのでしょうか。動物園は見世物小屋では本来はありません。アメリカでは、ネアンデルタール人を復活させようと目論む技術者もおり、それがもし実現すれば前例のないおおきな悲劇をもたらします。

あるいはこのようなクローン技術は、たとえば死んだペットを復活させるなど、ビジネスではすでに実用化されています。「死んだ愛犬に生き返ってほしい」と、富裕層の人々から注文が殺到しています。あるいは優秀な競走馬や警察犬などのクローンもつくられています。

そしてこれらの延長線上にはヒトへの適用がみえてきます。ヒトをデザインするという危険な戦略があらわれます。特定の人にとって都合のよいヒトをつくりだします。

近畿大学のチームは、世界で最初に、絶滅した動物をよみがえらせようと意気込んでいます。現在、アメリカのハーバード大学や韓国のスアム生命工学研究院などでもマンモス復活計画にとりくんでおり、もはやレースです。研究者・技術者もはげしい競争に今日さらされていて、一刻もはやく成果をあげ、誰よりもはやく発表しなければなりません。競争に勝つために研究開発をやらざるをえません。マンモス復活にいちはやく成功すれば、世界中から注目されることはまちがいありません。

しかし一度たちどまってよくかんがえてください。マンモスはそもそも必要なのでしょうか。マンモスがいないとこまる状況はどこにもないではないですか。現代社会はマンモスを必要としていません。技術者たちは、マンモスの群れを最終的につくるイメージをえがいていますが、このようなおおきな動物にうろちょろされたら一般の人々にとってはいい迷惑です。現代人にとってはマンモスは害獣でしかありません。

マンモスにかぎらず、さまざまな絶滅種がよみがえってくれば、地球の現在の生態系は崩壊し、地球は無秩序状態になります。予期せぬ病気が蔓延するかもしれません。自然の摂理(法則)にさからって人為的に絶滅種を復活させることはたいへん危険なことです。

クローン技術者たちの暴走をゆるしてはなりません。彼らは、ヒトは自然を支配できるというまちがった方針をもっています。科学・技術はつかいかたをあやまると有害になります。今回の企画展会場には、技術者たちがゴールに到達したときのイメージ(絵)も掲示されていました。「オーーッッ!」。これは、ヒトのおごりをしめし、その先にあるヒトの没落と絶滅を暗示しています。ここまでずっこけていたとは。

いまならまだまにあうかもしれません。一般市民も関心をもち、たちあがらなければなりません。



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▼ 注1
マンモス展 - その「生命」は蘇るのか -
会場:日本科学未来館
会期:2019年6月7日(金)~11月4日(月・休)
※ 福岡・名古屋・大坂に巡回します。
※ 一部をのぞき写真撮影が許可されています。


▼ 参考文献
『マンモス展』(オフィシャルプログラム)フジテレビジョン発行、2019年


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