人間が月面に着陸してから50年がたちました。「地球の出」や「ブルー・マーブル」が人間たちを「地球人」にしました。宇宙を研究することにおおきな意義があります。
今年は、アポロ11号が月面に着陸してから50周年となります。『ナショナルジオグラフィック』2019年7月号はこれを記念して特集をくんでいます。




それは新しい時代の幕開けだった。人類が探検できる領域、そして、暮らせるかもしれない領域が一気に広がったのだ。最初は陸地を移動するだけだった人類が、やがて船を操って海を越え、飛行機を発明して空にも進出した。その先の広大な領域に乗り出すことは必然だった。(中略)

アポロ11号の司令船操縦士だったマイケル・コリンズはこう回想している。「行く先々で言われたのは、『きみたち米国人がよくやった』ではなく、『私たちはやってのけた!』でした。人類がみんなでやり遂げたことなんです」


1969年7月20日、アポロ11号の月着陸船イーグル号が月面におりたちました。地球以外の天体への到達は人類史上最大級の偉業であると同時に、2つの超大国がしのぎをけずった宇宙開発競争の終焉でもありました。

人類最初の宇宙飛行は、1961年4月のことでした。ソ連のユーリ=ガガーリンが史上初の宇宙飛行士になりました。

しかしその3年以上前、ソ連はイヌを宇宙におくりました。そのイヌは、はじめて地球を周回した動物となりましたが飛行中に死亡しました。米国は、ハムという名のチンパンジーを宇宙におくり、さいわいハムは生きのびました。そして1961年5月には、アラン=シェパードが米国人初の宇宙飛行に成功しました。1963年には、ロシア人のワレンチナ=テレシコワが女性としてはじめて地球を周回しました。

1966年から67年にかけて NASA は、アポロの着陸候補地をさぐるために5機の無人探査機をうちあげ、月面を撮影しました。

1968年、アポロ8号に搭乗したウィリアム=アンダースは象徴的な写真をとりました。それは、クレーターだらけの月の地平線のむこうから、あおい地球がぽっかりと暗闇にうかぶ光景「地球の出」でした。

アポロは、1969年から72年にかけて月面の6地点に着陸しました。これらの地点は、それぞれことなる科学的目標にそってえらばれたものでしたがいずれも月の表側でした。表側なら、それまでにも探査機が地形をくわしくしらべていたし、地球の管制と宇宙飛行士とのあいだの直接通信が可能だったからです。

1972年、アポロ17号から撮影された地球の写真は「ブルー・マーブル(あおいビー玉)」として世界中にひろまりました。

月面着陸から半世紀のあいだも宇宙探査はつづきました。無人探査機をおくり、火星の地表探査や木星への突入など、太陽系の天体の研究がすすみました。宇宙ステーションでの実験も多数おこなわれました。

近年は、宇宙を目指す国や民間企業がふえ、探査や開発の動きがとても活発になってきています。

月の商業利用の調査もすすんでいます。民間の宇宙関連企業は、採鉱や観光・植民事業などにより、地球にもっともちかい天体から利益をあげられるかどうかをさぐっています。宇宙ビジネス時代のはじまりです。

宇宙旅行計画も本格化しています。バージン・ギャラクティックとブルー・オリジンという民間企業2社はそれぞれ、宇宙空間のはじまりにちかい上空90〜100キロほどまで上昇して無重力状態を体験し、暗黒の宇宙空間とあおい地球をみるという旅行(料金は20万ドル)をまずは計画しています。宇宙旅行時代の幕開けです。

日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が月面を1万キロ以上走行できる探査車「有人与圧ローバ」をトヨタと共同で開発すると発表しました。

他方、宇宙開発には負の側面もあります。米国・中国・ロシアが宇宙兵器の開発をすすめています。将来は、宇宙が戦争の舞台となり、ミサイルがとびかい、人工衛星が破壊され、レーザー兵器が宇宙から地上にむけられます。戦争は、宇宙戦争の時代にはいります。




現在、宇宙業界の8割ちかくをしめるベンチャー企業が急成長しています。宇宙ビジネスの規模は、2017年から2040年までに3倍以上に拡大し、収益は100兆円をこえると予測されています。

今日の宇宙開発の大部分は、ひとにぎりの億万長者がくりひろげるはげしい競争にあとおしされています。そこには、巨額の金もうけが目的にはいっていることをみのがしてはなりません。

アマゾン創業者で、宇宙事業を強力にすすめるジェフ=ベゾスは、「太陽系全体でなら、地球の人口が1兆人になってもたやすく養うことができる」といっています。月や火星への移住計画も着々とすすんでいます。

しかし、月や火星の写真をみればあきらかなように、荒涼とした大地がひろがるのみであり、そのような殺伐とした世界にすみたいとは普通の人はおもいません。地球のように月や火星を改造すればよいという人がいますがそれは無理な話です。

また宇宙服は、あまりしられていませんが、着ているとおそろしく臭くなります。そんなものを着ながら月や火星を散歩していたらストレスがたまります。

最近の宇宙ビジネスや宇宙兵器製造の動向をみていると、機械文明におかされた人々がおかしな方向にいよいよすすみはじめたことがわかります。このままでいくと、おおきなクラッシュがいずれおこることになるでしょう。

一方で、科学的な宇宙探査・研究の成果には目をみはるものがあります。太陽惑星系の構成と進化がかなり解明されてきました。宇宙科学者と地球惑星科学者たちは太陽にも地球にも寿命があることをあきらかにしました。太陽はいずれ膨張をはじめ、地球は灼熱地獄になり、太陽にのみこまれていきます。あらゆる生物が死滅します。

したがってわたしたち人間だけが永遠というわけにはいきません。永遠の進歩という考えは妄想でしかありません。そのような妄想からわたしたちは開放され、死をうけいれて生きていかなければなりません。

宇宙科学・地球惑星科学があらたな宇宙観をもたらしました。そしてその宇宙観が、わたしたちの人生観にあらたな枠組みを提供します。

わたしたち人間はかつて、「地球の出」や「ブルー・マーブル」をみて「地球人」になりました。これらの写真やアポロ計画がもたらした影響ははかりしれません。

月面着陸から半世紀をへた今日、「地球の出」や「ブルー・マーブル」をあらためてみなおし、その後の宇宙探査の成果をしることは重要なことです。宇宙ビジネスや宇宙戦争ではなく、宇宙を研究することそれ自体におおきな意義があることに気がつかなければなりません。



▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック日本版』日経ナショナルジオグラフィック社、2019年